カテゴリー: 臨床薬学
くすりのかたち外伝
化学構造式で わかる! 使える! まいにち薬会話 薬物動態編
1版
株式会社ヤナセ薬局 医薬事業部 浅井考介 著
アトリアくすのき薬局 薬局長 柴田奈央 著
定価
2,200円(本体 2,000円 +税10%)
- B5判 127頁
- 2025年12月 発行
- ISBN 978-4-525-72411-5
記憶や検索では追いきれない医薬品情報.
それ,化学構造式がお力になれます!
~薬剤師の定番フレーズを化学する!~
モノからヒトへ,そして薬剤師も「対物」業務から「対人」業務へ.こんな構想が2015年に厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」に記されてから10年.薬剤師の薬の専門家としての対話力・発信力はどのくらい向上したでしょうか.まさか,添付文書どおりの説明を暗唱し,「お変わりありませんか」「お大事に」のテンプレで締めていませんよね?
ここ10年では患者との対話だけでなく,他職種への情報共有や処方提案も求められるようになり,薬剤師が“薬にまつわる何らかの説明”をする機会は格段に増加しています.そんなときに,添付文書に書いてあったフレーズや先輩が使っていたフレーズのうわべを暗記してそのまま繰り返すだけでは,専門家として信頼は得られません.患者から,医師から,看護師から,薬剤師の力を求められたときに,自信をもって薬の吸収のしやすさや,服薬プラン・PK/PD理論,相互作用を“自分の知識に基づく言葉”で説明できるようになりませんか? 本書では,“薬局・調剤室で飛び交う定番フレーズ”をもとに,有機化学の視点で,薬のはたらきを読み解きます.第2弾は“薬物動態”を添付文書にも載っている「くすりのかたち」(化学構造式)から解説.しかもこれを読めば,登場するほとんどの化学の知識は,なんと高校までで見聞きしていることにも気づくはず.薬学部で有機化学をうっすら嫌いになった皆さんにもオススメです!
- 序文
- 目次
薬剤師の業務には,患者さんへ用法や服用忘れ時の注意点を説明するとき,他職種から相互作用や腎機能低下例に関する質問を受けたとき,よく使う・よく使われる“定番のフレーズ”が存在します.なんとなくどこかで聞いた覚えのあるフレーズを,時間に追われて詳しい原理を調べる機会なく使っている場合もあるでしょう.そのフレーズの意味を十分に会得できておらず,想定外の質問に答えられなかった経験もあるかもしれません.
日常の業務のなかでも,薬物動態(ADME)の知識が必要な問い合わせは非常に多いのではないでしょうか.たとえば,患者からの「食前の薬を飲み忘れたら食後に服用してもいいですか?」といった質問です.このような服用忘れに関するケースでは,薬物の吸収だけではなく作用機序なども考慮して答えなければなりません.ADMEに関する問い合わせは患者からだけではありません.医師や看護師からも「この薬は肝代謝ですよね?」「この薬は腎機能が低い患者へ使えますか?」などの代謝や排泄に関する質問を日常的に受けると思います.専門性が高い質問に対しては,やはり薬剤師の多くは薬の専門家として迅速かつ的確に回答したいと考え,腕の見せどころだと感じるはずです.しかし現状は,つねに相手を満足させられる回答ができるとは限りません.実際のところは「すぐに調べます」とその場を取り繕い,製薬会社へ問い合わせてみたものの,頼みの製薬会社からはなかなか回答が得られず,医師から「もういいです」と言われた苦い経験をもつ方も多いのではないでしょうか.製薬会社からの情報はとても信頼性の高い資料ではありますが,収集に時間を要してしまう可能性があります.こんなとき医療現場の薬剤師としては,緊急的・暫定的に比較し判断できる資料(根拠)があると医療全体により貢献できるのではないかと思います.筆者は,“化学的な視点”がそのような根拠のひとつとして活用できると考えています.
本書では,おもに薬を服用してから排泄するまでの吸収・分布・代謝・排泄の各過程,いわゆるADMEに関するフレーズを取り上げ,薬の体内動態を化学の視点から理解します.高校や大学で学んだ化学の知識や化学的な視点がADMEをより深く理解する際に役立つことを実感していただけるはずです.化学構造式で噛み砕いて理解した知識を薬剤師ならではの情報発信につなげられるように,本書で一緒に,化学の視点を用いて,薬剤師がよく使う・聞く・読むことば(定番フレーズ)から薬物動態をわかりやすく読み解いていきましょう!
2025年10月
浅井 考介
柴田 奈央
経口吸収:吸収されやすさを見分けるポイント
02.「皮膚からゆっくりと吸収される薬です」
経皮吸収:皮膚のバリア構造を突破するためのかたち
03.「食事の影響により吸収率が変化します」
経口剤とキレート:配位結合に目をつけよう
04.「投与前後にルートをフラッシュしてください」
薬の混合とキレート:やはり着眼点は金属イオン
05.「漢方薬は食前に服用してください」
飲み忘れ・服用プラン(1):生薬の化学構造って?
06.「飲み忘れても食後の服用は避けてください」
飲み忘れ・服用プラン(2):食前・空腹時服用の意図は?
07.「抗菌薬は指示されたタイミングで飲んでください」
飲み忘れ・服用プラン(3):PK/PD理論もかたちで解決!
08.「CYP3A4で代謝されるため併用禁忌です」
相互作用:不可逆的な結合をつくりやすい構造に注意!
09.「腎機能が低下した患者では減量が必要です」
排泄経路:腎排泄されやすそう,すみっこの極性基
10.「作用が長時間持続するため週1回の薬です」
長時間作用型製剤:代謝・排泄を回避させる化学修飾