在宅Dr.ワンの呼吸器べんきょう日誌
1版
目黒ケイホームクリニック 院長 安藤克利 著
定価
3,850円(本体 3,500円 +税10%)
- B5判 146頁
- 2025年7月 発行
- ISBN 978-4-525-45021-2
レントゲンなしの在宅医療でどう診る? 呼吸器内科医が解説!!
在宅医療と病院医療の大きな違いは,患者や家族の「病気」だけでなく,「人生そのもの」に触れる機会が多いことです.病院では「医学的な正解=最適な選択」とされることが,在宅医療の現場では「介護」や「感情」の側面を考慮しながら,最終的な方針を決定する必要があります.例えば,タバコを吸うことは肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクを高め,医学的には「間違い」とされますが,それでも「死ぬまでタバコを吸いたい」と望む患者さんもいます.「医学」だけでなく,患者さん本人やご家族の「価値観」や「感情」を尊重することが,在宅医療の本質と言えます.
呼吸器疾患を診療する際,病院ではX線写真を撮影し,その結果をもとに診断や経過の評価を行います.呼吸器内科医にとって「X線写真画像」は非常に重要であり,診療方針の決定や病状説明の際にも欠かせません.しかし,多くの在宅医療の現場ではX線写真を撮ることができず,これまで当たり前にあった「武器」がない状況で診療を行う必要があります.その中で,どのように患者さんの「人生」と向き合い,適切な診療を提供できるのか――.
その答えを見つけるには,まず「医学」を正しく理解することが不可欠です.しかし,在宅医療の視点から呼吸器疾患を体系的に解説した書籍は,これまでほとんどありませんでした.
本書では,こうした課題に対応するため,在宅医療の現場で役立つ呼吸器疾患の診療ポイントをわかりやすく解説します.X線写真なしでの診断の工夫,在宅酸素導入の手順に加え,病状説明の方法,食事指導のポイント,さらには病状に応じた施設選択の考え方についても,実践的な視点で解説.これにより,在宅医師や訪問看護師,ケアマネージャーなど,在宅医療・介護に携わるすべての方々へおすすめです.
- 序文
- 目次
- 書評
- 書評
私が医師になった2000年代は,「往診してくれる先生」の存在が貴重であり,何かあれば病院へ紹介し,最期は病院か施設で迎えるのが一般的でした.しかし,近年の医療保険制度の改定により,在宅医療を担う診療所や訪問看護ステーションが増え,「最期まで自宅で過ごす」という選択が可能になってきています.
現在,東京をはじめとする首都圏では,多くの医療機関が在宅医療を提供し,複数の医師が在籍する機能強化型診療所も増加しています.その結果,在宅医はその専門性によって選ばれる時代となりました.一方で,地方では医師不足のため往診医が足りず,自宅での療養が難しい地域も少なくありません.多くの患者さんが施設や病院での療養を余儀なくされているのが現状です.
在宅医療は,外来診療と比べて地域性や介護環境に大きく左右される特徴があります.このような在宅医療の特殊性を踏まえ,どのように診療を行うべきかを解説した書籍が必要だと考え,本書を執筆しました.
在宅医療と病院医療の大きな違いは,患者さんやご家族の「病気」だけでなく,「人生そのもの」に触れる機会が多いことです.病院では「医学的な正解=最適な選択」とされることが,在宅医療の現場では「介護」や「感情」の側面を考慮しながら,最終的な方針を決定する必要があります.例えば,タバコを吸うことは肺がんやCOPDのリスクを高め,医学的には「間違い」とされますが,それでも「死ぬまでタバコを吸いたい」と望む患者さんもいます.「医学」だけでなく,患者さん本人やご家族の「価値観」や「感情」を尊重することが,在宅医療の本質といえます.
呼吸器疾患を診療する際,病院ではレントゲンを撮影し,その結果をもとに診断や経過の評価を行います.呼吸器内科医にとって「レントゲン画像」は非常に重要であり,診療方針の決定や病状説明の際にも欠かせません.しかし,多くの在宅医療の現場ではレントゲンを撮ることができず,これまで当たり前にあった「武器」がない状況で診療を行う必要があります.その中で,どのように患者さんの「人生」と向き合い,適切な診療を提供できるのか──.
その答えを見つけるには,まず「医学」を正しく理解することが不可欠です.しかし,在宅医療の視点から呼吸器疾患を体系的に解説した書籍は,これまでほとんどありませんでした.
本書では,こうした課題に対応するため,在宅医療の現場で役立つ呼吸器疾患の診療ポイントをわかりやすく解説します.レントゲンなしでの診断の工夫に加え,病状説明の方法,食事指導のポイント,さらには病状に応じた施設選択の考え方についても,実践的な視点で紹介しています.これにより,在宅医や訪問看護師,ケアマネージャーなど,在宅医療・介護に携わるすべての方々が,患者さんにより適切なケアを提供できるようになることを願っています.
また,本書が呼吸器疾患に関心を持つきっかけとなり,より多くの医療・介護従事者がこの分野に興味を持っていただければ嬉しく思います.呼吸器疾患は適切な診断と対応が求められる一方で,専門的な知識が不足しがちな分野でもあります.本書が,在宅での呼吸器疾患診療に対する不安を少しでも軽減し,実践の手助けとなることを願っています.
2025年春
安藤克利
1 人の自然史と在宅医療
1 人の自然史と在宅医療
2 がんに対する考えかた
2 在宅医療を構成する三要素─「医学」「介護」「感情」─
1 在宅医療を構成する三要素とは!?
2 在宅医療を構成する事業所
3 訪問看護のしくみ
1 訪問看護のサービス提供に係るしくみ
2 訪問看護の介護制限
4 知っておきたい「介護施設」の知識
1 通所サービスとは?
2 介護施設への入所
5 在宅での訪問栄養食事指導
1 食事量の低下と低栄養
2 栄養補助食品と経腸栄養剤
3 栄養補助食品の選択方法
第2章 呼吸器疾患在宅マネジメント
●腫瘍性肺疾患
1 肺癌---診断と治療
1 原発性肺癌
2 転移性肺腫瘍(肺転移)
3 胸膜中皮腫
4 縦隔腫瘍
2 肺癌に伴う疼痛の管理
1 疼痛の原因
2 疼痛の評価
3 軽度の疼痛
4 中等度以上の疼痛
5 PCAポンプ
6 鎮痛補助薬の使用
3 疼痛以外の症状管理と緩和
1 呼吸困難の管理
2 咳嗽の管理
3 血痰・喀血の管理
4 せん妄の管理
5 けいれんの管理
6 不安・不眠の管理
●気道疾患
4 気管支喘息
診断
1 気管支喘息とは?─可逆性の気道狭窄
2 気管支喘息の急性増悪
3 気管支喘息の診断
4 気道のリモデリングと不可逆性の気道狭窄
治療
1 気管支喘息治療の考えかた
2 吸入製剤の種類
3 吸入剤の種類
5 慢性閉塞性肺疾患
診断と安定期の薬物治療
1 COPDとは?─診断について
2 臨床所見と病期
3 喘息・COPDオーバーラップ症候群
4 薬物治療
急性増悪期の管理
1 急性増悪とは?
2 増悪期の薬物治療
3 酸素療法と在宅医療現場での実際
4 非侵襲的陽圧換気(NIPPV)
5 高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)
●間質性肺炎
6 特発性間質性肺炎
診断
1 間質性肺炎とは?
2 特発性間質性肺炎とは?
治療と予後
1 特発性間質性肺炎の治療
2 特発性肺線維症の急性増悪
3 呼吸リハビリテーション
4 特発性間質性肺炎の医療費助成
7 発性間質性肺炎以外の間質性肺炎
1 膠原病に伴う間質性肺炎
2 放射線性肺臓炎
3 薬剤性肺障害
4 じん肺
●呼吸器感染症
8 肺炎
1 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)出現以降の肺炎診療
2 在宅での肺炎診断と治療介入
3 アドバンスドケアプランニング(ACP)の確認
4 重症認知症高齢者に対する肺炎介入
5 終末期患者に対する肺炎診療
9 ウイルス感染症
1 感染予防の基礎知識
2 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
3 インフルエンザウイルス感染症
4 RSウイルス感染症
10 結核と非定型抗酸菌症
1 肺結核
2 非結核性抗酸菌症
column
・認知症を合併する肺癌患者の在宅緩和ケア
・睡眠時無呼吸症候群の診断と治療
・「酸素を使ってくれない」
・間質性肺炎に合併する肺高血圧症とトレプロスト®吸入療法
・感染後に長引く咳の考えかたと感染後咳嗽
・アリケイス®吸入療法とは?
『在宅Dr.ワンの呼吸器べんきょう日誌』は,著者の呼吸器内科専門医としての豊富な知識と,在宅医療の実践者としての深い経験が融合した,まさに“現場で生きる教科書”です.本書の中で特に心を打たれたのは,「医学」「介護」「感情」の三要素によって構成される在宅医療の本質に迫る視点です.病院医療が“医学的正解”を重視する世界であるのに対し,在宅医療はその枠を超え,患者や家族の価値観,感情,生活背景を尊重した「その人にとっての正解」を見出す営みであるという提言には深く共感しました.
点滴によって生じる浮腫や痰など,終末期の苦しさを医学的処置がかえって助長することもある現実を踏まえ,「枯れるように看取る」ことの大切さを伝える章は,医療の限界と尊厳のバランスを丁寧に問い直してくれます.病院では,嚥下機能が落ちた患者に絶食・点滴といった“正解”が用意されています.しかし在宅では,それが本人の感情や生活の質を損なうこともあります.例えば,治る見込みのないがんに対し,どう生き,どう最期を迎えるかという問いには,“治す医療”ではなく“支える医療”の視点が不可欠です.
呼吸器疾患の章では,レントゲンという“当たり前”が使えない在宅医療の現場で,どう判断し,どう説明し,どう患者を支えるか.呼吸音や身体所見をどう活かすか,施設選択や食事指導にどうつなげていくか──すべてに実践的な知恵と工夫が詰まっており,訪問看護や多職種連携においても具体的なヒントが豊富です.
そして,在宅医療のキープレイヤーである訪問看護についても,制度的背景から実際の活用法まで幅広くカバーされており,多職種連携の現場においても役立つと思います.
在宅医や訪問看護師,ケアマネジャーをはじめ,在宅ケアに関わるすべての方に読んでほしい一冊.医学の教科書には書かれていない“人を診る医療”の醍醐味がここにあります.
医療法人ゆうの森 たんぽぽクリニック 永井康徳
多職種連携が求められる現代では,治療の全体像を把握することが重要となる.本書は,第一章では在宅医療の関連知識が解説され,第二章においては「呼吸器疾患在宅マネジメント」として,肺がんをはじめとする多くの呼吸器疾患の病態や治療ポイント,治療薬さらに医療機器まで解説されている.
また,著者の安藤医師は序文で,「患者の病気だけではなく,人生そのものを考え,患者本人と家族の価値観や感情を尊重することが重要」と語られている.このような確固たる理念をもった医師が解説した本書だからこそ,多くの在宅患者さんのために,薬剤師にも活用していただきたい一冊と言える.
武庫川女子大学薬学部臨床薬学教育研究センター 教授
一般社団法人 全国薬剤師・在宅療養支援連絡会 副会長
川添哲嗣