臨床家のためのトラウマケア序説
語られないトラウマに耳を傾けるということ
1版
弘前愛成会病院 精神科 宮﨑健祐 著
定価
3,630円(本体 3,300円 +税10%)
- A5判 199頁
- 2026年11月 発行
- ISBN 978-4-525-38461-6
日常臨床で実践できるトラウマケアとは
抑うつや不安など,患者にみられる精神症状の背後には,言葉にされていないトラウマが隠れているのかもしれません.患者の苦しみを理解し,ケアしていくためには,「語られないトラウマ」の存在にも目を向ける必要があります.
そして,トラウマに気づき,ケアすることには,必ずしも専門的な技法が必要なわけではありません.日常臨床で安全な治療関係を築き,今生じている困難への支援を行うことも立派なトラウマケアです.
本書では,精神科臨床におけるトラウマの基礎知識や支援の心構えを解説します.また,トラウマと発達は相互に影響することから,両者の関係や発達段階に応じたトラウマケアも取り上げます.「語られないトラウマ」に気づくための視点や臨床に生かせる具体的なアプローチも紹介します.
- 序文
- 目次
序文
トラウマに関連した診療が注目されるようになって久しくなります.トラウマに特化した技法についての研修も盛んです.ただ,実際の臨床場面では,トラウマ診療はまだまだ普及していないのではないかというのが実感です.
その理由については様々なことが考えられますが,その一つにトラウマに特化した専門的な技法を実践する治療者が多くはないということが挙げられます.これには地域差もあるかもしれません.精神科医や心理士の充足している地域では十分なのかもしれませんが,少なくとも私の勤務する地域では十分ではないと感じられます.
となると,日常臨床を担うトラウマの非専門家による治療や支援が期待されるわけですが,トラウマの治療は「難しそう」「自分は専門的な治療ができないから何をしていいのかわからない」という声も聞きます.治療が専門的になればなるほど,一般臨床家には手が届きにくくなるという現象が起きてしまいます.トラウマに特化したエビデンスのある技法は,習得して実践できるようになるまでには時間を要します.治療者を増やしたいからといって,そのプロセスを省くことはできません.また,技法を習得した後も,ケースについて継続して相談できるような機会も必要です.単に技法を習得して終わりではないのです.地道に治療者を養成し,診療を継続できるような体制作りが求められています.
では,我々のような日常臨床家には何もできないのでしょうか.
確かにエビデンスに基づいた治療は大事ですが,それがどれだけインパクトのある技法であったとしても,我々の日々の臨床で実践できなければ絵に描いた餅になってしまいます.臨床は今・ここで起きています.患者さん達は,今・ここでできる治療を必要としています.そして,それは我々臨床家も同じです.そのような思いから,この書籍は生まれました.
ここで,筆者のことを少し紹介させていただきます.筆者はもともと児童思春期の精神科医療に興味があり,神経発達症や,トラウマを受けた子たちの治療や支援にも携わってきました.また,児童思春期の精神療法や療育に興味を持って実践してきたので,治療関係で何が起きているのか,どんな関わりをすればいいのかについて考える機会が多くありました.現在は子どもに限らず,成人から高齢者まで幅広く診療していますが,児童思春期臨床での経験を基に実践していることも多くあります.ある時期から災害医療にも携わるようになり,現在は災害派遣精神医療チーム(DPAT)の活動の中で,トラウマについて考えるようになりました.本書に書かれている内容はそれらの経験や実践を基にしています.今までトラウマ診療にまったく携わっていない,あるいは自分なりに色々試みたけど,どうやっていいのかわからない,そんな治療者や支援者が第一歩を踏み出せるようにすることを目的としています.
いざ書き始めてみると,トラウマの臨床について考えるということは,一般の臨床の基本を考えるということなのだと気づかされました.たとえば,治療関係や治療構造などの概念はトラウマの臨床でも大事なことですが,それらはわかっているようでわかっていないことなのではないかとも思いました.また,トラウマと発達というものは,相互に影響しあっています.トラウマ診療について考えるならば,発達臨床についても理解しておいたほうがよいと思われます.特に,幼少期からの虐待は,発達に大きな影響を与えます.その子達が大人になったときの臨床像を理解するためには,発達について理解しておく必要があります.成人の一般精神科臨床の場でも,神経発達症に関する診療は浸透してきたように思いますが,トラウマの発達への影響を理解するための,発達過程に対する理解はまだまだではないかと感じます.これらについても,改めて考えて述べてみることにしました.
これらの基本的なことは,すでに理解されている方にとっては不必要な部分かもしれません.釈迦に説法もあると思います.その場合は読み飛ばしていただければ幸いです.
本書では,なるべくわが国の臨床実践の場で使用することを想定したアプローチを挙げてあります.筆者である私が精神科医ですので,精神科臨床の場をイメージしていますが,トラウマに関わる対人援助職の方全般が読んでも参考になるように心がけました.
このようなことを踏まえていただき,本題に入っていきたいと思います.
2026年8月
宮﨑健祐
その理由については様々なことが考えられますが,その一つにトラウマに特化した専門的な技法を実践する治療者が多くはないということが挙げられます.これには地域差もあるかもしれません.精神科医や心理士の充足している地域では十分なのかもしれませんが,少なくとも私の勤務する地域では十分ではないと感じられます.
となると,日常臨床を担うトラウマの非専門家による治療や支援が期待されるわけですが,トラウマの治療は「難しそう」「自分は専門的な治療ができないから何をしていいのかわからない」という声も聞きます.治療が専門的になればなるほど,一般臨床家には手が届きにくくなるという現象が起きてしまいます.トラウマに特化したエビデンスのある技法は,習得して実践できるようになるまでには時間を要します.治療者を増やしたいからといって,そのプロセスを省くことはできません.また,技法を習得した後も,ケースについて継続して相談できるような機会も必要です.単に技法を習得して終わりではないのです.地道に治療者を養成し,診療を継続できるような体制作りが求められています.
では,我々のような日常臨床家には何もできないのでしょうか.
確かにエビデンスに基づいた治療は大事ですが,それがどれだけインパクトのある技法であったとしても,我々の日々の臨床で実践できなければ絵に描いた餅になってしまいます.臨床は今・ここで起きています.患者さん達は,今・ここでできる治療を必要としています.そして,それは我々臨床家も同じです.そのような思いから,この書籍は生まれました.
ここで,筆者のことを少し紹介させていただきます.筆者はもともと児童思春期の精神科医療に興味があり,神経発達症や,トラウマを受けた子たちの治療や支援にも携わってきました.また,児童思春期の精神療法や療育に興味を持って実践してきたので,治療関係で何が起きているのか,どんな関わりをすればいいのかについて考える機会が多くありました.現在は子どもに限らず,成人から高齢者まで幅広く診療していますが,児童思春期臨床での経験を基に実践していることも多くあります.ある時期から災害医療にも携わるようになり,現在は災害派遣精神医療チーム(DPAT)の活動の中で,トラウマについて考えるようになりました.本書に書かれている内容はそれらの経験や実践を基にしています.今までトラウマ診療にまったく携わっていない,あるいは自分なりに色々試みたけど,どうやっていいのかわからない,そんな治療者や支援者が第一歩を踏み出せるようにすることを目的としています.
いざ書き始めてみると,トラウマの臨床について考えるということは,一般の臨床の基本を考えるということなのだと気づかされました.たとえば,治療関係や治療構造などの概念はトラウマの臨床でも大事なことですが,それらはわかっているようでわかっていないことなのではないかとも思いました.また,トラウマと発達というものは,相互に影響しあっています.トラウマ診療について考えるならば,発達臨床についても理解しておいたほうがよいと思われます.特に,幼少期からの虐待は,発達に大きな影響を与えます.その子達が大人になったときの臨床像を理解するためには,発達について理解しておく必要があります.成人の一般精神科臨床の場でも,神経発達症に関する診療は浸透してきたように思いますが,トラウマの発達への影響を理解するための,発達過程に対する理解はまだまだではないかと感じます.これらについても,改めて考えて述べてみることにしました.
これらの基本的なことは,すでに理解されている方にとっては不必要な部分かもしれません.釈迦に説法もあると思います.その場合は読み飛ばしていただければ幸いです.
本書では,なるべくわが国の臨床実践の場で使用することを想定したアプローチを挙げてあります.筆者である私が精神科医ですので,精神科臨床の場をイメージしていますが,トラウマに関わる対人援助職の方全般が読んでも参考になるように心がけました.
このようなことを踏まえていただき,本題に入っていきたいと思います.
2026年8月
宮﨑健祐
目次
第1章 精神科臨床におけるトラウマについて改めて理解してみる
A. 日常臨床におけるトラウマ診療について
B. トラウマの分類
C. トラウマに苦しめられる人・回復する人
D. トラウマ治療について
第2章 発達という視点で精神科臨床を考えてみる
A. トラウマを発達の視点から考える
B. 発達障害だけではない,発達の視点
C. それぞれの発達理論
D. 発達支援とは?
第3章 トラウマと発達の総合的な理解
A. トラウマのタイプによる発達への影響
B. トラウマが発達段階ごとに与える影響
第4章 語られないトラウマの存在に気づくということ
A. トラウマの存在を疑うケース
B. トラウマの安全な聞き方
C. 他の精神疾患にみられるトラウマ
D. 病原性秘密について
第5章 アセスメント:トラウマに関連する心理検査
A. 一般精神科で使われる検査
B. バウムテスト
第6章 トラウマノンフォーカスなアプローチの実践
A. トラウマに触れないアプローチ
B. トラウマノンフォーカスなアプローチとは
C. Step 1 初期評価+初期介入
D. Step 2 治療関係全般について
E. Step 3 治療関係の維持
F. 各領域へのアプローチ
G. トラウマ体験を語られたときはどうするのか
H. 病原性秘密の取り扱い方
I. トラウマからの回復とは
第7章 子どものトラウマとケア
A. 子どもの心の臨床についての基本原則
B. 子どものトラウマ・PTSD
C. 子どものトラウマ治療のエビデンス
D. 子どもへのトラウマノンフォーカスなアプローチ
第8章 高齢者のトラウマとケア
A. 高齢者の心の臨床についての基本原則
B. 高齢者のトラウマ・PTSD
C. 高齢者のトラウマ治療のエビデンス
D. 高齢者へのトラウマノンフォーカスなアプローチ
第9章 治療者の成長と傷つき体験について
A. 精神科医の成長や発達
B. 精神科医の傷つき体験
C. 傷ついた治療者:傷つきの自覚
あとがき
索 引
A. 日常臨床におけるトラウマ診療について
B. トラウマの分類
C. トラウマに苦しめられる人・回復する人
D. トラウマ治療について
第2章 発達という視点で精神科臨床を考えてみる
A. トラウマを発達の視点から考える
B. 発達障害だけではない,発達の視点
C. それぞれの発達理論
D. 発達支援とは?
第3章 トラウマと発達の総合的な理解
A. トラウマのタイプによる発達への影響
B. トラウマが発達段階ごとに与える影響
第4章 語られないトラウマの存在に気づくということ
A. トラウマの存在を疑うケース
B. トラウマの安全な聞き方
C. 他の精神疾患にみられるトラウマ
D. 病原性秘密について
第5章 アセスメント:トラウマに関連する心理検査
A. 一般精神科で使われる検査
B. バウムテスト
第6章 トラウマノンフォーカスなアプローチの実践
A. トラウマに触れないアプローチ
B. トラウマノンフォーカスなアプローチとは
C. Step 1 初期評価+初期介入
D. Step 2 治療関係全般について
E. Step 3 治療関係の維持
F. 各領域へのアプローチ
G. トラウマ体験を語られたときはどうするのか
H. 病原性秘密の取り扱い方
I. トラウマからの回復とは
第7章 子どものトラウマとケア
A. 子どもの心の臨床についての基本原則
B. 子どものトラウマ・PTSD
C. 子どものトラウマ治療のエビデンス
D. 子どもへのトラウマノンフォーカスなアプローチ
第8章 高齢者のトラウマとケア
A. 高齢者の心の臨床についての基本原則
B. 高齢者のトラウマ・PTSD
C. 高齢者のトラウマ治療のエビデンス
D. 高齢者へのトラウマノンフォーカスなアプローチ
第9章 治療者の成長と傷つき体験について
A. 精神科医の成長や発達
B. 精神科医の傷つき体験
C. 傷ついた治療者:傷つきの自覚
あとがき
索 引