きょうの診察室
子どもたちが教えてくれたこと
1版
山口有紗 著
定価
2,420円(本体 2,200円 +税10%)
- B5変型判 126頁
- 2025年4月 発行
- ISBN 978-4-525-28951-5
小児科医が、子どもと家族に教えてもらったこと。
診察室を訪れた子どもたちやその周囲の方々の言葉や姿に触れ,小児科医である著者が泣いたり,微笑んだり,驚いたりしながら,日々教えてもらってきたことを綴った一冊です.さまざまな障害のある方たちのアート作品が散りばめられた,まるで宝物のような本.「患者さん」である前に,そして「子ども」である前に,大切な「ひとりの人間」として子どもたちの尊厳と共にあるとはどういうことか.本書には,子どもへのまなざしを豊かにするためのヒントが詰まっています.
〈本書を彩るアート作品について〉
本書では,東京都調布市内の福祉事業所等のみなさまにご協力いただき,そこで創作活動をされている,さまざまな障害のある方々のアート作品を掲載しています.アーティストの方々に心から感謝を申し上げるとともに,読者の方にも,多彩な表現がちりばめられた特別な一冊を楽しんでいただけたら嬉しいです.
- 序文
- 目次
序文
子どもの人への敬意
「みてー」
小児科外来の廊下で、ボールが床に転がってまだ少し動いているのをじーっと見つめながら、あるお子さんが囁きました。近づき、隣にしゃがむわたし。
「ちきゅうが、まるいから、うごいてるんだよ」
わたしは息をのみます。子どもの中に流れている時間に。そのまなざしに。それを言葉に乗せてくれる力に。「こだわりが強い」と言われている子どもさんでしたが、そこにはそのレッテルではとても測りしれない、その子の世界が広がっていました。
子ども時代に本当に必要なことは、心身の病気や障害がないことではありません。もちろん病気や障害とともにいるのは決して楽ではないけれど、それがあるかないかに関わらず、子どもたちはそれぞれがギフトをもち、それを花開かせていく権利を持った存在です。
子どもの権利条約の礎を築いた小児科医ヤヌシュ・コルチャックは、子どもを一人の独立した主体として尊重することの重要性、そして大人が子どもから学ぶことの多さを強調しています。
「……百人の子どもは百人の人間だ。それは、いつかどこかに現れる人間ではない。まだ見ぬ人間でも
なく、明日の人間でもなく、すでに今、人間なのだ。小っちゃな世界ではなく、世界そのものなのだ」
「障害のある子」「病気の子」「非行少年」「問題児」「サバイバー」「不登校の子」……すべての子どもは、大人が貼ったレッテルを一瞬で消し去るような、豊かな世界を生きています。
わたしが日々診察室で出逢った子どもたちやそのご家族から教えていただいたことは数え切れません。彼らが自分の体調について伝えてくれる言葉、病気に関する質問、さらには日常の遊びや食事、一緒に暮らす人々や学校生活へのまなざしや気づき、そして、言葉にならないその表情や動き、涙、沈黙――それらすべてが、子どもたちが、病気の治療や予防接種などを受ける「受動的な存在」ではなく、いまここを
生きる「主体的な存在」であることを強く教えてくれるのです。
しかし、その豊かな世界は、毎日の忙しい生活や、大人が無意識に抱いている「子どもに対するものさし」の中で、見えにくくなりがちです。だからこそわたしは、診察室というほんの小さな場で、日々子どもたちやその周囲の方々から教えていただいたことを、ぜひみなさんと共有したいと思いました。
子どもたちの姿にやわらかに立ち止まり、言語・非言語の「声」に耳を傾け、それをともに感じる人が増えること。それこそが、子どもたちの豊かな成長にとって、(病気の有無よりもずっと)大切なことです。さらに、その過程において、「子ども」たちだけでなく、「おとな」と呼ばれるすべての人も、自分の中に確かにある豊かな世界に気づき、それらが相互にひびきあう瞬間が訪れると、わたしは信じています。
読者のみなさま一人ひとりが、目の前にいる誰かのこと、これまで出逢った・これから出逢う誰かのこと、そして、ご自身の中にいる豊かな「子ども」にも思いを馳せながら、本書を心地よいペースで手に取っていただけたら、これ以上の喜びはありません。
2025 年4 月
山口有紗
参考文献
塚本智宏:コルチャックと「子どもの権利」の源流,子どもの未来社,2019.
「みてー」
小児科外来の廊下で、ボールが床に転がってまだ少し動いているのをじーっと見つめながら、あるお子さんが囁きました。近づき、隣にしゃがむわたし。
「ちきゅうが、まるいから、うごいてるんだよ」
わたしは息をのみます。子どもの中に流れている時間に。そのまなざしに。それを言葉に乗せてくれる力に。「こだわりが強い」と言われている子どもさんでしたが、そこにはそのレッテルではとても測りしれない、その子の世界が広がっていました。
子ども時代に本当に必要なことは、心身の病気や障害がないことではありません。もちろん病気や障害とともにいるのは決して楽ではないけれど、それがあるかないかに関わらず、子どもたちはそれぞれがギフトをもち、それを花開かせていく権利を持った存在です。
子どもの権利条約の礎を築いた小児科医ヤヌシュ・コルチャックは、子どもを一人の独立した主体として尊重することの重要性、そして大人が子どもから学ぶことの多さを強調しています。
「……百人の子どもは百人の人間だ。それは、いつかどこかに現れる人間ではない。まだ見ぬ人間でも
なく、明日の人間でもなく、すでに今、人間なのだ。小っちゃな世界ではなく、世界そのものなのだ」
「障害のある子」「病気の子」「非行少年」「問題児」「サバイバー」「不登校の子」……すべての子どもは、大人が貼ったレッテルを一瞬で消し去るような、豊かな世界を生きています。
わたしが日々診察室で出逢った子どもたちやそのご家族から教えていただいたことは数え切れません。彼らが自分の体調について伝えてくれる言葉、病気に関する質問、さらには日常の遊びや食事、一緒に暮らす人々や学校生活へのまなざしや気づき、そして、言葉にならないその表情や動き、涙、沈黙――それらすべてが、子どもたちが、病気の治療や予防接種などを受ける「受動的な存在」ではなく、いまここを
生きる「主体的な存在」であることを強く教えてくれるのです。
しかし、その豊かな世界は、毎日の忙しい生活や、大人が無意識に抱いている「子どもに対するものさし」の中で、見えにくくなりがちです。だからこそわたしは、診察室というほんの小さな場で、日々子どもたちやその周囲の方々から教えていただいたことを、ぜひみなさんと共有したいと思いました。
子どもたちの姿にやわらかに立ち止まり、言語・非言語の「声」に耳を傾け、それをともに感じる人が増えること。それこそが、子どもたちの豊かな成長にとって、(病気の有無よりもずっと)大切なことです。さらに、その過程において、「子ども」たちだけでなく、「おとな」と呼ばれるすべての人も、自分の中に確かにある豊かな世界に気づき、それらが相互にひびきあう瞬間が訪れると、わたしは信じています。
読者のみなさま一人ひとりが、目の前にいる誰かのこと、これまで出逢った・これから出逢う誰かのこと、そして、ご自身の中にいる豊かな「子ども」にも思いを馳せながら、本書を心地よいペースで手に取っていただけたら、これ以上の喜びはありません。
2025 年4 月
山口有紗
参考文献
塚本智宏:コルチャックと「子どもの権利」の源流,子どもの未来社,2019.
目次
うちゅう
きいろいぴっぴ
がんばってない!!!
ここも
ワンツーワンツー
ありがとう
きいろのおりがみをあげる
ちがうよ、あいうえおだよ
あかちゃんについてききたいこと
A ちゃんは、やさしいんだよ
がまん
おとうとがせんせいやく
“ すき” の貯金箱
じっとみつめる
おとうさんが、かいしゃにたのしくいけますように
きりんになる
ここにまいにちいること
Column: 子どものウェルビーイングをつくるもの:エコロジカルモデルの視点と子ども時代の体験の将来への影響
がんばって。いってらっしゃい
とうめいにんげんになってもらおうよ
おかあさんもしんぱいだよね、だいじよぶよ
じゃあ、ゆるくしめておこうね
やすみじかんとさんすう
ううん、ただ遊んでるだけ
おしょうがつはね
テレビとか!
さりぎわのばいばい
Column:「患者さん」であるまえに「ひと」:チャイルド・ライフという考えかた
なんでわたし、なんですか
せんせいが、こまってるみたい
ストレスがいろいろあったんだと思います
ゆらゆら
ともだちがいとしくて、なでたくなってしまう
せんせい、おうちがなくなっちゃうの?
タクシー代
おかあさん、いないよ
にゅういんしてよかったこと
おかあさんのいいところ
あたまをつかうとうれしくなる
おとしたらひろえばいい
ほんまもんやで、よかったなぁ
あめみたいな、おくすり
おなかいたいとおかあさんがおこる
レッテル
あなたは、いいこだよ
いまの声かけ、すてき
いたずらも、できることがふえた
お母さんも、泣けたよね
一生走れないかと思った
サンタのために
強く、泣いたんです
後押しのチャンス
いちばんの専門家は
きょうだいパワー
スーパーに行くんです
月がかわるのもうれしくて
チームができたみたい
くさむしり
きょうはちっくんはありますか
しょうがいがあるかしらべにきた
Column:病院でのさまざまな傷つき:医療トラウマとは
おかあさんがにゅういんしているときに
つぶにちょうせんしたいんだけど
ぼく、泣いたけどね、動かなかったの
おさとうのはいってるのは
せんせいを、たすけてね
真夜中のアンテナ
車いすをおす
食べられるものがない
かむのをやめさせなきゃ……
Column:子どもへの声かけのコツと、声をかける前にできること
いま、どのへんかなーって
「20 分やすみが、にがてなんだよね」
おとうさんもおかあさんもおだいじに
I FEEL SO SAFE
ぼくがさいしょ
「おまもりがなくても大丈夫」
さよならのうれしさ
きいろいぴっぴ
がんばってない!!!
ここも
ワンツーワンツー
ありがとう
きいろのおりがみをあげる
ちがうよ、あいうえおだよ
あかちゃんについてききたいこと
A ちゃんは、やさしいんだよ
がまん
おとうとがせんせいやく
“ すき” の貯金箱
じっとみつめる
おとうさんが、かいしゃにたのしくいけますように
きりんになる
ここにまいにちいること
Column: 子どものウェルビーイングをつくるもの:エコロジカルモデルの視点と子ども時代の体験の将来への影響
がんばって。いってらっしゃい
とうめいにんげんになってもらおうよ
おかあさんもしんぱいだよね、だいじよぶよ
じゃあ、ゆるくしめておこうね
やすみじかんとさんすう
ううん、ただ遊んでるだけ
おしょうがつはね
テレビとか!
さりぎわのばいばい
Column:「患者さん」であるまえに「ひと」:チャイルド・ライフという考えかた
なんでわたし、なんですか
せんせいが、こまってるみたい
ストレスがいろいろあったんだと思います
ゆらゆら
ともだちがいとしくて、なでたくなってしまう
せんせい、おうちがなくなっちゃうの?
タクシー代
おかあさん、いないよ
にゅういんしてよかったこと
おかあさんのいいところ
あたまをつかうとうれしくなる
おとしたらひろえばいい
ほんまもんやで、よかったなぁ
あめみたいな、おくすり
おなかいたいとおかあさんがおこる
レッテル
あなたは、いいこだよ
いまの声かけ、すてき
いたずらも、できることがふえた
お母さんも、泣けたよね
一生走れないかと思った
サンタのために
強く、泣いたんです
後押しのチャンス
いちばんの専門家は
きょうだいパワー
スーパーに行くんです
月がかわるのもうれしくて
チームができたみたい
くさむしり
きょうはちっくんはありますか
しょうがいがあるかしらべにきた
Column:病院でのさまざまな傷つき:医療トラウマとは
おかあさんがにゅういんしているときに
つぶにちょうせんしたいんだけど
ぼく、泣いたけどね、動かなかったの
おさとうのはいってるのは
せんせいを、たすけてね
真夜中のアンテナ
車いすをおす
食べられるものがない
かむのをやめさせなきゃ……
Column:子どもへの声かけのコツと、声をかける前にできること
いま、どのへんかなーって
「20 分やすみが、にがてなんだよね」
おとうさんもおかあさんもおだいじに
I FEEL SO SAFE
ぼくがさいしょ
「おまもりがなくても大丈夫」
さよならのうれしさ