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家で診ていく誤嚥性肺炎

チームでつむぐ在宅医療

1版

平原佐斗司 監修
吉松由貴 著
長野広之 著

定価

2,970(本体 2,700円 +税10%)


  • A5判  165頁
  • 2023年5月 発行
  • ISBN 978-4-525-21361-9

多職種で支える 在宅医療 × 誤嚥性肺炎

「最期は家で」と希望する患者さんは増えています.徐々に弱っていき誤嚥性肺炎を繰り返すような患者さんをできるだけ家で診ていくためには,どうすればいいのでしょうか.
本書では,肺炎を起こすようになる前,入院後自宅に帰るとき,家で治療する場合,肺炎を繰り返すようになる時期,看取り,のそれぞれの時期で,患者さんやご家族を支えるための知識や技術,話し合っておくべきこと,などをまとめました.多職種で,患者さんやご家族のQOLを上げていくための方法がぎっしり詰まった一冊です.

  • 序文
  • 目次
  • 書評1
  • 書評2
序文
監修の序

 肺炎は高齢者の主な死因であるが,それだけでなくサルコペニア嚥下障害を進行させ,食べる機能を喪失させたり,多疾患併存状態にある高齢者の併存症を悪化させる引き金となったり,疾患の終末期には呼吸困難などの苦痛を与えるといった深刻な問題を引き起こす.
 肺炎による死亡,そして誤嚥性肺炎の割合は年齢とともに増加する.急速に高齢化が進むわが国において,また,認知症や神経疾患といった疾患が急増している中において,誤嚥性肺炎への対応はますます重要になってきている.
 在宅における誤嚥性肺炎の診療とケアが困難な理由はいくつかある.背景にある嚥下障害が疾患や病期などによって異なること,それらの疾患の病みの軌跡が複雑であること,対応が治療だけでなくリハビリテーションや栄養,口腔領域や介護にまで及び,幅広い知識やスキルが求められることなどがあげられる.加えて,家での診療という場の制約因子が加わること,しばしば病院と在宅の連携の課題に直面すること,終末期の肺炎の緩和ケアについて十分なエビデンスがないことなどが在宅での誤嚥性肺炎の診療を困難なものにしている. 
 また,誤嚥性肺炎は病みの軌跡にそって総合的な対策が必要になる.例えば安定期には,口腔ケア等を十分行い誤嚥性肺炎の予防に取り組み,リハ栄養によって肺炎を乗り越えられる筋力をつけること,肺炎急性期の異化期には,口腔ケア,早期離床,摂食嚥下アセスメントと早期の嚥下訓練,排痰管理を行いつつ適切な抗菌薬治療で早期に肺炎の炎症を治め,同化期には,攻めの栄養管理を行い,栄養と機能の立ち上げをしっかり行うこと,また,終末期の肺炎においては改善の可能性を評価しながら,治療負担に十分配慮しつつ緩和ケアを行うことが求められる.
 本書は誤嚥性肺炎に関する幅広い領域の最新のエビデンスを,実際の在宅医療の臨床場面に適応させてわかりやすく解説している.また,このような病みの軌跡にそって,各段階で行うべき医療やケアについて,実際の臨床の思考過程に沿ってまとめられており,地域で在宅医療を実践する医療職の方々に理解しやすい構成になっている.
 高齢者が暮らしの場で誤嚥性肺炎に対する質の高い治療とケアを享受することに,本書が寄与できると期待している.

2023 年 春
平原 佐斗司


はじめに
 日本では世界でも類を見ない急速なスピードで高齢化が進んでいます.厚生労働省は高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています.地域包括ケアシステムの実現には継続的にケアを提供できる医療体制,とくに生活の場で医療を提供することのできる在宅医療の充実が求められます.高齢化に伴い終末期を家で過ごしたい患者さんや,ADL の低下などから通院するのが難しくなり在宅医療を希望する患者さんも増えています.このような状況下で在宅医療のニーズが増えているのは間違いなく,厚生労働省の「患者調査の概況」をみても在宅医療を受けた推定患者数は平成20年から平成29 年の10 年で約2 倍に増加しています.
 私は医師5 年目の後期研修の一環で在宅医療に関わり始めました.在宅医療の経験の中で,病院で当たり前に行われている入院診療や外来診療が患者にとっていかに非日常なかを実感しました.在宅医療は患者の生活に近く,主役は患者,家族であり,中心にあるのは医療でなく生活です.私のアイデンティティは病院総合診療医ですが,在宅医療を経験することで患者の生活を見据えた病院医療を提供できるようになると感じています.今後も在宅医療に関わり続けたいと思っており,現在も訪問診療専門のクリニックで非常勤医として働かせていただいています.
 そんな在宅医療でよく遭遇するのが誤嚥性肺炎です.誤嚥性肺炎は「食事」という生活に欠かせない1 ピースに大きく関わり,加えて背景疾患を含めた病態や意思決定が複雑な疾患です.また一度治療すれば終了ではなく,摂食嚥下機能の評価や食事の調整,リハビリなど長い期間かけて診療していきます.在宅医療では病院での医療と比べて患者さんの生活をダイレクトに診ることができる一方,検査などのリソースは限られるため,医療者自身が施行できること,患者家族に説明できることを増やしておく必要があると感じていました.そんな在宅医療の現場で使える誤嚥性肺炎についての本を作りたい!と思い,声をかけたのが大学時代からの友人の吉松先生です.吉松先生は呼吸器内科医として誤嚥性肺炎,摂食嚥下障害に造詣が深く,誤嚥性肺炎についての本を何冊も出版されています.毎週打ち合わせを重ね本音で議論することができ,在宅医療の現場で使える本を作ることができたと感じています.
 また本書の特徴として誤嚥性肺炎の時間軸を意識するよう構成したことがあります.誤嚥性肺炎は診療時点だけでなく,誤嚥性肺炎に至った背景疾患や経緯から今後の見通しまで考え,診ている状況がどこに位置しているのかを考える必要があります.本書は誤嚥性肺炎を以下の5 つのフェーズに分け,それぞれのタイミングで考えるべき事項について説明しています.皆さんの目の前の誤嚥性肺炎の患者さんがどのフェーズにいるのか考えながら,この本を読んでいただければと思います.

  第1 章 誤嚥性肺炎を起こさないために
  第2 章 誤嚥性肺炎患者さんが退院したら ―準備と実践―
  第3 章 家で治療する
  第4 章 下降期を家で診る
  第5 章 終末期と家での看取り

 もう1 つの特徴として誤嚥性肺炎に関わる多職種の方にインタビューしていることが挙げられます.それぞれの職種が在宅医療の現場で何を考え,どういうことを他の医療者に求めているのか,我々もインタビューする中で勉強になることばかりでした.インタビューをする中で得た視点も内容に含んでいますので,医師以外の職種の方にも役立つ本になったのではないかと思います.
 最後にお忙しい中,インタビューへの参加,そして監修をお引き受け頂いた平原佐斗司先生,インタビューに応じていただいた多職種の皆様,そして我々の執筆を支えていただいた南山堂の皆様に心より感謝申し上げます.

2023 年 春
執筆者を代表して 長野 広之
目次
第1章 誤嚥性肺炎を起こさないために
 A 誤嚥性肺炎になるまで
 B 初期に考慮すべき原因疾患
 C 薬 剤
 D 栄養・食事
 E 身体活動性の向上
ちょっと寄りみち① 行動変容ステージモデル
 F 口腔の異常
 G 嚥下評価と訓練
 H ワクチン
 I この段階で話し合っておくこと
インタビュー① 歯科医の視点
インタビュー② 管理栄養士の視点

第2章 誤嚥性肺炎患者さんが退院したら ―準備と実践―
 A 退院する前にやっておくこと
 B 退院後,在宅に戻ってきてからの注意
 C 食形態
 D 飲み物,とろみ
 E 食事の観察と介助
 F 痰の管理
 G リハビリテーション
 H この段階で話し合っておくこと
インタビュー③ ケアマネジャーの視点
インタビュー④ 薬剤師の視点
インタビュー⑤ 言語聴覚士(ST)の視点
ちょっと寄りみち② 簡単で美味しい!エンシュア ?H ゼリーの作り方

第3章 家で治療する
 A 在宅での誤嚥性肺炎の診断
ちょっと寄りみち③ 在宅で誤嚥性肺炎に早く気づくには?
 B 在宅医療でできることは?
ちょっと寄りみち④ 医師は自分の診療を客観的に見られるべき
ちょっと寄りみち⑤ 特別訪問看護指示書とは
 C 新規原因診断
 D 在宅で行う抗菌薬治療
 E 排痰管理
 F 食事,飲水,内服
 G この段階で話し合っておくこと
インタビュー⑥ 訪問看護師の視点
インタビュー⑦ 理学療法士(PT)の視点

第4章 下降期を家で診る
 A  何を目的に病院に紹介するか?
 B 口から食べる工夫
 C 嚥下機能が回復するかどうかの判断
 D 内服の工夫,減量
 E この段階で話し合っておくこと
ちょっと寄りみち⑥ 地域で看取るための英国の取り組み
ちょっと寄りみち⑦ 家で診る患者さんのQOL
 F 話し合いで意識すること:患者中心の医療と臨床倫理
インタビュー⑧ 医師の視点
インタビュー⑨ 言語聴覚士(ST)の視点

第5章 終末期と家での看取り
 A 肺炎を治療しない選択肢
 B 肺炎終末期の症状緩和
 C 看取りにおける家族,施設職員ケア
ちょっと寄りみち⑧ 終末期の患者さんのご家族とのかかわり
 D 死亡確認,グリーフケア
インタビュー⑩ 訪問看護師の視点
インタビュー⑪  施設職員の視点

巻末特別インタビュー 監修 平原先生に聞く 在宅医療×誤嚥性肺炎
索 引
書評1
薬剤は誤嚥性肺炎に強く影響する

倉田なおみ(昭和大学薬学部 客員教授)

 薬の中でも一番多く使う錠剤は,摂食嚥下機能において難易度の高い課題である.薬であることを認知していなければ吐き出す.薬(固形物)と水(液体)という物性の異なる物を同時に処理する必要があるが,誤嚥したり,薬が口腔・咽頭に残留することも少なくない.また,錠剤が飲めないとつぶしてトロミや食事に混ぜて口に入れられることがある.食物は小さくしてトロミをつけると飲み込みやすくなるが,錠剤はつぶすと耐え難い苦味,においや刺激が生じ,却って飲めなくなることがある.錠剤の周囲にフィルムを巻いて薬の味やにおいをマスキングしていることがあるためだ.このような薬を飲まされる患者さんは堪らない.
 本書はフェーズごとに食形態や治療,話し合っておくことなど誤嚥性肺炎への関わりのノウハウが満載されており,在宅医療に欠かせない良書である.本書にもあるように薬剤は誤嚥性肺炎に強く影響する.薬剤師は本書を参考にして,服薬状況から摂食嚥下機能を確認するなど誤嚥性肺炎のチーム医療に積極的にかかわってほしい.
書評2
佐々木 淳(医療法人社団 悠翔会 理事長)

 誤嚥性肺炎は,在宅医療で遭遇するもっともメジャーな疾患だ.要介護高齢者の緊急入院の主たる要因であり,経口摂取を制限する主たる要因であり,そして死亡の主たる要因でもある.しかし,「誤嚥性肺炎とは何か」という定義そのものも非常に曖昧で,その診断も曖昧なまま,治療も曖昧に進められることが少なくない.
 また,誤嚥性肺炎は単なる「疾患」ではない.
 それは口腔内の細菌が引き起こす「下気道感染症」であるとともに,基礎疾患や加齢に伴う「機能低下」であり,低栄養・サルコペニアから続く「フレイルサイクルの一部」であり,生活力やケア力の不足による「事故」であり,そこには薬剤による「有害事象」としての側面も含まれるし,人生の最終段階における「老衰」に包含しうる概念でもある.
 その予防や治療に関しては,通常の感染症のように医師が抗菌薬を投与して終わり,というわけにはいかない.栄養状態,口腔機能,食形態,薬剤の調整,ポジショニングやシーティング,食器や食具,食事の環境や食介助の仕方など,多職種や家族・介護者との協働が必要不可欠だ.
 在宅医療においては,多職種の連携を前提に,患者の状態に応じた予防や治療的介入を行う.とくに退院直後のかかわりはその人のそこから先の人生を大きく左右する.
 しかし,それは単にEBMを実践すればいいというわけでもない.
 その患者のナラティヴの中で「その人にとっての誤嚥性肺炎」を共に考えていく必要もある.人生が進むにつれて,それは治療すべき対象から,徐々に老衰に伴う許容すべき自然な経過の一部として受容されていく.誤嚥性肺炎を診ていく,というのは,実は,患者の人生の最終段階を伴走していくプロセスそのものといってもいいのかもしれない.
 本書は,誤嚥性肺炎を「患者の人生の時間軸」を加えた4 次元で捉え,予防から治療,看取りまでを網羅した,これまでに類のないケアマニュアルだ.そして同時に,多職種や家族とともに在宅患者の人生の旅に伴走するためのガイドブックでもある.医師に限らず,在宅ケアにかかわる全ての専門職にぜひ手にとってほしい.誤嚥性肺炎に対するよりよいケアとは,すなわち,よりよい在宅療養支援そのものであるということがわかる.
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