EOLC for ALL すべての人にエンドオブライフケアの光を
超高齢者の緩和ケア
1版
医療法人社団慶成会 看護介護開発室長
青梅慶友病院 看護部長 桑田美代子 編
松江市立病院 看護局長 吉岡佐知子 編
有馬温泉病院 看護部長 西山みどり 編
定価
4,180円(本体 3,800円 +税10%)
- B5判 237頁
- 2022年10月 発行
- ISBN 978-4-525-50471-7
あなたが日々行っている,そのケアにこそ価値がある!
超高齢者は,たとえ自分の思いを表出することが困難となったとしても,痛み,呼吸困難,排泄障害,睡眠障害,抑うつなど,さまざまな苦痛を抱えています.しかし,その苦痛が「病」によるものか「老い」によるものかの見極めは難しく,治療による回復が見込めなかったり治療負担が大きすぎる場合には,「老い」の先にある死を見据えてケアすることが必要となります.そのような場合,食事や排泄,清潔・整容,移動などの際に丁寧なケアを繰り返すことこそが,超高齢者にとって,苦痛を緩和し尊厳ある生活を支えるものとなります.
本書では,超高齢者にとっての最善の医療,動くことの意味,ACP,症状マネジメント,家族,臨死期,組織づくりといった視点から,超高齢の緩和ケアについて解説します.ケア提供者が,日々行っている自らの実践の意義と価値に改めて気づける一冊です.
- 序文
- 目次
- 書評
序文
編者らは,老人看護専門看護師(日本看護協会認定)として伝え続けてきたことがある.それは,高齢者も緩和ケアの対象であること.高齢者に対して,毎日,繰り返し,丁寧に行われるケアこそ高齢者の尊厳の保持につながること.そして,日々,繰り返されるケアこそ価値があるということである.多くの人が人生の最晩年,介助を要する状態になり人生の幕を閉じる.したがって,日々のケアによって,生活の質が大きく左右されるといっても過言ではない.日々のケアが緩和ケアであり,エンドオブライフ・ケアであり,スピリチュアルケアに値することを高齢者ケアに携わっている人達に伝え続けてきた.本書はその原点を基盤に作成したものである.
本書では65歳以上の「高齢者」ではなく,90歳以上の「超高齢者」を対象にしている.65歳以上を一律に「高齢者」とみる考え方は,現状に照らせば現実的なものではないように感じている.しかし,暦年齢が90歳以上になると老いと病の見極めが困難になり,老化の延長線上の死を見据え超高齢者の多様性に配慮する必要がある.しかも,私達には80歳,90歳の老いの体験はない.しかし,超高齢者の体験が未知であり個別性に富むからこそ多職種連携の必要性を感じると同時に,こういった特徴こそが超高齢者の緩和ケアの醍醐味でもあると考えている.
超高齢者の緩和ケアを実践するためには,多職種による多角的な視点のほかにも,加齢変化を踏まえた治療の考え方,超高齢者が“動く”ことの意味,その人らしさの尊重を基盤に行う生活援助,日々のケアの中での意思の尊重や生活を安楽に送るための症状マネジメント,その症状が可逆的か不可逆的かの見極めも必要となる.それに加え,家族の在り方も多様化している中で,家族等へのケアも忘れてはならない.
今回,それらのことを念頭に,書籍内容を考えた.本書で示したさまざまな対応の中には,一見,ただの「お世話」にみえるものもあるかもしれない.しかしそれらも,超高齢者の特徴に配慮した根拠や専門職の実践知で裏打ちされている.もちろん,まだまだ根拠に乏しい点もあり,それは読者の皆様と共に今後も追及していきたいと考えている.そして,皆様が日々実践しているケアの価値に,気づいていただけたらと願っている.
私たちがこれまで伝え続けてきたことを形にする機会を南山堂からいただいたのは,2019年12月のことである.その後,COVID-19により,人々の生活が一変することを全く想像していなかった.COVID-19の流行のために,これまで大切にしてきた超高齢者のケアの価値を変えざるを得ない状況も発生した.そのことが,超高齢者の最晩年の生活の質に多大な影響をもたらしたと感じている.その現状の中,知恵や工夫を駆使し,超高齢者に豊かな最晩年を提供するために日々努力を続ける現場の皆様にとって,本書が役に立つものとなっていれば何よりである.
2065(令和47)年には,全人口の約25%が75歳以上の後期高齢者になり,高齢化率も38%を超えるとの推計が出ている.「老い」は誰しもがいく道である.長寿世界一のわが国は,他国が未だ体験したことがない長寿社会を経験している.つまり,お手本はない.自分たちで創りあげるしかない.そして,アジア諸国の一部の国では,わが国を上回るスピードで高齢化が進むことが見込まれている.他国の手本になれるよう皆様と共に,超高齢者の緩和ケアを追求していきたいと考えている.
2022年8月30日
桑田美代子 吉岡佐知子 西山みどり
本書では65歳以上の「高齢者」ではなく,90歳以上の「超高齢者」を対象にしている.65歳以上を一律に「高齢者」とみる考え方は,現状に照らせば現実的なものではないように感じている.しかし,暦年齢が90歳以上になると老いと病の見極めが困難になり,老化の延長線上の死を見据え超高齢者の多様性に配慮する必要がある.しかも,私達には80歳,90歳の老いの体験はない.しかし,超高齢者の体験が未知であり個別性に富むからこそ多職種連携の必要性を感じると同時に,こういった特徴こそが超高齢者の緩和ケアの醍醐味でもあると考えている.
超高齢者の緩和ケアを実践するためには,多職種による多角的な視点のほかにも,加齢変化を踏まえた治療の考え方,超高齢者が“動く”ことの意味,その人らしさの尊重を基盤に行う生活援助,日々のケアの中での意思の尊重や生活を安楽に送るための症状マネジメント,その症状が可逆的か不可逆的かの見極めも必要となる.それに加え,家族の在り方も多様化している中で,家族等へのケアも忘れてはならない.
今回,それらのことを念頭に,書籍内容を考えた.本書で示したさまざまな対応の中には,一見,ただの「お世話」にみえるものもあるかもしれない.しかしそれらも,超高齢者の特徴に配慮した根拠や専門職の実践知で裏打ちされている.もちろん,まだまだ根拠に乏しい点もあり,それは読者の皆様と共に今後も追及していきたいと考えている.そして,皆様が日々実践しているケアの価値に,気づいていただけたらと願っている.
私たちがこれまで伝え続けてきたことを形にする機会を南山堂からいただいたのは,2019年12月のことである.その後,COVID-19により,人々の生活が一変することを全く想像していなかった.COVID-19の流行のために,これまで大切にしてきた超高齢者のケアの価値を変えざるを得ない状況も発生した.そのことが,超高齢者の最晩年の生活の質に多大な影響をもたらしたと感じている.その現状の中,知恵や工夫を駆使し,超高齢者に豊かな最晩年を提供するために日々努力を続ける現場の皆様にとって,本書が役に立つものとなっていれば何よりである.
2065(令和47)年には,全人口の約25%が75歳以上の後期高齢者になり,高齢化率も38%を超えるとの推計が出ている.「老い」は誰しもがいく道である.長寿世界一のわが国は,他国が未だ体験したことがない長寿社会を経験している.つまり,お手本はない.自分たちで創りあげるしかない.そして,アジア諸国の一部の国では,わが国を上回るスピードで高齢化が進むことが見込まれている.他国の手本になれるよう皆様と共に,超高齢者の緩和ケアを追求していきたいと考えている.
2022年8月30日
桑田美代子 吉岡佐知子 西山みどり
目次
1章 超高齢者における緩和ケアとは
A 超高齢者を対象にした緩和ケアの考え方
1 超高齢者への緩和ケアの必要性
2 緩和ケアの歴史
3 人生の最晩年を支える緩和ケア
4 本書における超高齢者の定義
B 超高齢者の全人的苦痛(トータルペイン)
1 身体面
2 精神面
3 社会面
4 スピリチュアル
2章 超高齢者にとって最善の医療を考える
A 虚弱期のケア
1 超高齢者の虚弱化
2 虚弱化と医療
3 余命×QOLの最大化
4 総合診療とチームケア
B 終末期のケア
1 病気と老衰
2 老衰終末期ケア
コラム1 COVID-19と高齢者ケア・緩和ケア
3章 動くことは生きること
A 超高齢者にとって「動く」こととは
1 離床の効果
2 動かないことの弊害
3 姿勢を変える効果
4 動くことによるリスクと動かないことによるリスク
5 場所を変える効果
6 心が反応すること
B 「環境」を調整することの意味と加齢変化による影響
1 超高齢者にとっての「環境」の重要性
2 超高齢者の「環境」を調整することの意味
3 加齢変化による影響と環境調整
C 超高齢者の生活における緩和ケア─日々のケアが緩和ケア─
1 一口でも味わう・楽しむ:食べる
2 自尊心に配慮する:排泄
3 身だしなみを整える:整容
4 身体をきれいにする:清潔
5 身体を動かす:更衣・姿勢・移動(転倒)
6 心地よい環境を整える:物理的環境
コラム2 あなたの最晩年,そこにロボットはいるか
4章 超高齢者にとってのアドバンス・ケア・プランニングとは
A 日々のケアがアドバンス・ケア・プランニング
1 超高齢者にとってのアドバンス・ケア・プランニング
2 超高齢者のACPを推進するための課題―果たして超高齢者の意思は保証されているか―
3 超高齢者の意思を尊重するために
4 多職種チームで実践する超高齢者のACP
5 ACP実践のために求められる医療・ケア従事者の姿勢と態度―超高齢者が「今日も生きててよかった」と感じられるように―
B 意思決定支援
1 意思決定支援とは
2 超高齢者とケア専門職のシェアード・ディシジョン・メイキングshared decision making(SDM)実践
3 医療・ケア従事者の価値観
C 医療・ケア従事者の行動規範
1 基本的態度・姿勢
2 意思を支えるコミュニケーション
3 自己の関わりを振り返る
コラム3 意思決定支援に関わるガイドライン―わが国における課題―
5章 超高齢者の症状マネジメント
A 症状マネジメントの重要な視点
1 症状マネジメントと多職種チームアプローチ
2 超高齢者の症状マネジメントで踏まえていくこと
3 症状マネジメントの目指すところ
B 非薬物療法
1 超高齢者への非薬物的対応
2 非薬物療法の概要
3 非薬物療法の目的と効果
4 アクティビティ・ケア
5 非薬物的介入のポイント
C 薬物療法
1 便秘症に対する薬物療法
2 高齢者の精神症状(不安,抑うつ,不眠,せん妄)に対する薬物療法
D 老年症候群における症状マネジメントの実際
1 痛い
2 せん妄
3 食べたくない,食べられない
4 息が苦しそう
5 便が出ない
6 心配・気が滅入る
7 皮膚の脆弱性(もろさ)
8 眠りたい,起きていたい
9 足がだるい
コラム4 もし目の前の患者さんの体の中が視えたらあなたはどんなケアをするか
6章 超高齢者の家族等の緩和ケア
A 超高齢者の家族等が体験する喪失と悲嘆
1 喪失とは
2 超高齢者の家族における喪失
3 超高齢者の死と悲嘆
4 喪失と成長
5 喪失に向き合う
B あいまいな喪失を体験している家族のアセスメントとケア
1 喪失と悲嘆
2 あいまいな喪失のなかで
3 アセスメントに影響する要因とアセスメント
4 あいまいな喪失への家族ケア
5 社会資源の導入,ピアサポート
7章 超高齢者の臨死期の緩和ケア
A 臨死期とは
1 「老衰」から死に至る「臨死期」とその課題
2 死に近づく年単位の変化から「臨死期」を推察する
3 老衰死に至る「臨死期」に現れる状態と身体の反応
4 老衰死―自然に枯れて死に至る―
B 臨死期の症状マネジメントとケア
1 この時期に必要なケア提供者の姿勢や考え方
2 各症状に対する緩和ケア
3 ケアの在り方によって引き起こされる苦痛
4 人的環境,物的環境
5 最期の時,最期の姿
6 お迎え体験
C 臨死期における家族等への緩和ケア
1 超高齢者と家族等が望む死に向けた支援
2 臨死期の家族等への支援―家族等が満足できる看取りに向けて―
3 家族等へ臨死期の超高齢者の症状を説明する―説明例―
8章 超高齢者の緩和ケアを実現するために
A 組織で取り組む超高齢者の緩和ケア
1 既存の高齢者像から新しい高齢者像へ,そして超高齢者像を描く
2 緩和ケア実践能力をケアの現場で身につける
3 チームとしての緩和ケア実践力を高める
4 スタッフの葛藤,不安,喪失感への対応
5 超高齢者に対する緩和ケアの文化を広める
B 超高齢者の緩和ケアを実現するための人材育成
1 超高齢者をみる視点を磨く
2 超高齢者から学ぶ
3 人材育成において管理者が留意すべき点
C 場の違いからみる緩和ケア
1 急性期
2 精神科医療
3 医療療養病棟
4 地域(コミュニティ)
5 訪問看護
6 高齢者施設
9章 事例を通し超高齢者の緩和ケアを考える
索 引
A 超高齢者を対象にした緩和ケアの考え方
1 超高齢者への緩和ケアの必要性
2 緩和ケアの歴史
3 人生の最晩年を支える緩和ケア
4 本書における超高齢者の定義
B 超高齢者の全人的苦痛(トータルペイン)
1 身体面
2 精神面
3 社会面
4 スピリチュアル
2章 超高齢者にとって最善の医療を考える
A 虚弱期のケア
1 超高齢者の虚弱化
2 虚弱化と医療
3 余命×QOLの最大化
4 総合診療とチームケア
B 終末期のケア
1 病気と老衰
2 老衰終末期ケア
コラム1 COVID-19と高齢者ケア・緩和ケア
3章 動くことは生きること
A 超高齢者にとって「動く」こととは
1 離床の効果
2 動かないことの弊害
3 姿勢を変える効果
4 動くことによるリスクと動かないことによるリスク
5 場所を変える効果
6 心が反応すること
B 「環境」を調整することの意味と加齢変化による影響
1 超高齢者にとっての「環境」の重要性
2 超高齢者の「環境」を調整することの意味
3 加齢変化による影響と環境調整
C 超高齢者の生活における緩和ケア─日々のケアが緩和ケア─
1 一口でも味わう・楽しむ:食べる
2 自尊心に配慮する:排泄
3 身だしなみを整える:整容
4 身体をきれいにする:清潔
5 身体を動かす:更衣・姿勢・移動(転倒)
6 心地よい環境を整える:物理的環境
コラム2 あなたの最晩年,そこにロボットはいるか
4章 超高齢者にとってのアドバンス・ケア・プランニングとは
A 日々のケアがアドバンス・ケア・プランニング
1 超高齢者にとってのアドバンス・ケア・プランニング
2 超高齢者のACPを推進するための課題―果たして超高齢者の意思は保証されているか―
3 超高齢者の意思を尊重するために
4 多職種チームで実践する超高齢者のACP
5 ACP実践のために求められる医療・ケア従事者の姿勢と態度―超高齢者が「今日も生きててよかった」と感じられるように―
B 意思決定支援
1 意思決定支援とは
2 超高齢者とケア専門職のシェアード・ディシジョン・メイキングshared decision making(SDM)実践
3 医療・ケア従事者の価値観
C 医療・ケア従事者の行動規範
1 基本的態度・姿勢
2 意思を支えるコミュニケーション
3 自己の関わりを振り返る
コラム3 意思決定支援に関わるガイドライン―わが国における課題―
5章 超高齢者の症状マネジメント
A 症状マネジメントの重要な視点
1 症状マネジメントと多職種チームアプローチ
2 超高齢者の症状マネジメントで踏まえていくこと
3 症状マネジメントの目指すところ
B 非薬物療法
1 超高齢者への非薬物的対応
2 非薬物療法の概要
3 非薬物療法の目的と効果
4 アクティビティ・ケア
5 非薬物的介入のポイント
C 薬物療法
1 便秘症に対する薬物療法
2 高齢者の精神症状(不安,抑うつ,不眠,せん妄)に対する薬物療法
D 老年症候群における症状マネジメントの実際
1 痛い
2 せん妄
3 食べたくない,食べられない
4 息が苦しそう
5 便が出ない
6 心配・気が滅入る
7 皮膚の脆弱性(もろさ)
8 眠りたい,起きていたい
9 足がだるい
コラム4 もし目の前の患者さんの体の中が視えたらあなたはどんなケアをするか
6章 超高齢者の家族等の緩和ケア
A 超高齢者の家族等が体験する喪失と悲嘆
1 喪失とは
2 超高齢者の家族における喪失
3 超高齢者の死と悲嘆
4 喪失と成長
5 喪失に向き合う
B あいまいな喪失を体験している家族のアセスメントとケア
1 喪失と悲嘆
2 あいまいな喪失のなかで
3 アセスメントに影響する要因とアセスメント
4 あいまいな喪失への家族ケア
5 社会資源の導入,ピアサポート
7章 超高齢者の臨死期の緩和ケア
A 臨死期とは
1 「老衰」から死に至る「臨死期」とその課題
2 死に近づく年単位の変化から「臨死期」を推察する
3 老衰死に至る「臨死期」に現れる状態と身体の反応
4 老衰死―自然に枯れて死に至る―
B 臨死期の症状マネジメントとケア
1 この時期に必要なケア提供者の姿勢や考え方
2 各症状に対する緩和ケア
3 ケアの在り方によって引き起こされる苦痛
4 人的環境,物的環境
5 最期の時,最期の姿
6 お迎え体験
C 臨死期における家族等への緩和ケア
1 超高齢者と家族等が望む死に向けた支援
2 臨死期の家族等への支援―家族等が満足できる看取りに向けて―
3 家族等へ臨死期の超高齢者の症状を説明する―説明例―
8章 超高齢者の緩和ケアを実現するために
A 組織で取り組む超高齢者の緩和ケア
1 既存の高齢者像から新しい高齢者像へ,そして超高齢者像を描く
2 緩和ケア実践能力をケアの現場で身につける
3 チームとしての緩和ケア実践力を高める
4 スタッフの葛藤,不安,喪失感への対応
5 超高齢者に対する緩和ケアの文化を広める
B 超高齢者の緩和ケアを実現するための人材育成
1 超高齢者をみる視点を磨く
2 超高齢者から学ぶ
3 人材育成において管理者が留意すべき点
C 場の違いからみる緩和ケア
1 急性期
2 精神科医療
3 医療療養病棟
4 地域(コミュニティ)
5 訪問看護
6 高齢者施設
9章 事例を通し超高齢者の緩和ケアを考える
索 引
書評
木澤義之(筑波大学筑波大学医学医療系 臨床医学域 緩和医療学)
本書は,現在も第一線の臨床現場で働くわが国を代表とする3名の老人看護専門看護師によって編纂された,90歳以上の「超高齢者」を対象とした緩和ケアのテキストブックです.まずそのことに,感動を覚えながら通読させていただきました.その序にはこのような記載があります.「高齢者に対して,毎日,繰り返し,丁寧に行われるケアこそ高齢者の尊厳の保持につながること.そして,日々繰り返されるケアこそ価値がある」.そして,著者の一人である坂井さゆり先生はホスピスの先駆者であるシシリー・ソンダース先生の来日講演を引用しこう述べています.「私たちが用意できるのは,ケアをする手と,痛みから守る囲いです.最後に何につかまっているかを決めることができるのは,患者さんなのです…(中略) 患者さんたちは,私たちが考えていることを知りたいわけでもないし,私たちが思っていることに患者さんが同意しなければならないのでもありません.患者さんが大切だと思っていることが何であるか私たちがわかっていること,何も答えないで苦悩に満ちた疑問を受け止めながら,ずっとそばにいてほしいのです.気持ちを分かち合っているという反応がほしいのです.患者さんは自分自身で答えを見出します」
昨年93歳になる自分の父を看取り,沢山の後悔と少しの安堵を感じながら本書の内容を拝読し,改めて上記した2つの言葉を重く受け止めて,超高齢者のケアが緩和ケアの対象であり,各疾患の専門家が集まっただけでは解決しないものであることを痛感しています.日々の丁寧なケアと尊厳の保持の大切さ,そして実践の結晶であるさまざまな臨床知を本書は伝えてくれています.緩和医療専門医の端くれとして,緩和ケア,総合診療,地域ケアにあたっている医療福祉従事者の皆様にぜひご一読をおすすめいたします.
本書は,現在も第一線の臨床現場で働くわが国を代表とする3名の老人看護専門看護師によって編纂された,90歳以上の「超高齢者」を対象とした緩和ケアのテキストブックです.まずそのことに,感動を覚えながら通読させていただきました.その序にはこのような記載があります.「高齢者に対して,毎日,繰り返し,丁寧に行われるケアこそ高齢者の尊厳の保持につながること.そして,日々繰り返されるケアこそ価値がある」.そして,著者の一人である坂井さゆり先生はホスピスの先駆者であるシシリー・ソンダース先生の来日講演を引用しこう述べています.「私たちが用意できるのは,ケアをする手と,痛みから守る囲いです.最後に何につかまっているかを決めることができるのは,患者さんなのです…(中略) 患者さんたちは,私たちが考えていることを知りたいわけでもないし,私たちが思っていることに患者さんが同意しなければならないのでもありません.患者さんが大切だと思っていることが何であるか私たちがわかっていること,何も答えないで苦悩に満ちた疑問を受け止めながら,ずっとそばにいてほしいのです.気持ちを分かち合っているという反応がほしいのです.患者さんは自分自身で答えを見出します」
昨年93歳になる自分の父を看取り,沢山の後悔と少しの安堵を感じながら本書の内容を拝読し,改めて上記した2つの言葉を重く受け止めて,超高齢者のケアが緩和ケアの対象であり,各疾患の専門家が集まっただけでは解決しないものであることを痛感しています.日々の丁寧なケアと尊厳の保持の大切さ,そして実践の結晶であるさまざまな臨床知を本書は伝えてくれています.緩和医療専門医の端くれとして,緩和ケア,総合診療,地域ケアにあたっている医療福祉従事者の皆様にぜひご一読をおすすめいたします.