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カテゴリー: 癌・腫瘍学  |  感染症学

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がん感染症診療マニュアル

1版

静岡県立静岡がんセンター感染症内科 部長 倉井華子 編
国立がん研究センター東病院感染症科 科長 冲中敬二 編
名古屋市立大学大学院医学研究科感染症学分野 主任教授 伊東直哉 編
静岡県立静岡がんセンター感染症内科 中屋雄一郎 編

定価

3,960(本体 3,600円 +税10%)


  • B6変型判  320頁
  • 2025年5月 発行
  • ISBN 978-4-525-42211-0

がん患者を感染症から守ろう!

がん患者は,化学療法による免疫不全,手術による解剖学的構造の変化,そして様々なデバイスの使用などにより,感染症を発症することが多い.また,がん患者の感染症は,健常人が罹患するのとは異なり,がんの治療や予後に大きな影響を及ぼす.したがって,感染症のコントロールは,がん診療において非常に重要である.
本書は,がん患者の感染症診療を体系立てたマニュアルとして,エビデンスに基づいて記載しており,また,長年,がん感染症診療に携わっている著者の豊富な経験から導き出された診療エッセンスが随所に輝いている.がんの診療に携わるすべての人に役立つ書籍である.

  • 序文
  • 目次
  • 書評
  • 書評
  • 書評
序文
 感染症診療の良書は増えたが,がん診療に特化した感染症の本は数少ない.本書は文献などの科学的根拠に基づくとともに,がん患者の感染症診療に長年,携わった者だけが書けるエッセンスや経験則がちりばめられている.
 本書の前身である『がん患者の感染症診療マニュアル』の初版が世に出たのが2008年である.この17年の間に感染症診療の原則という概念が浸透し,グラム染色や抗菌薬適正使用も多くの現場で見聞きするようになった.
 感染症診療の原則は万能なコンパスであり,いかなる局面でも私たちをゴールに導いてくれるが,がん患者の感染症を制すにはもう少し装備をそろえたい.宿主の背景が複雑になれば病原体の種類もふるまいも変化する.がん患者は化学療法に伴う免疫不全,手術による解剖学的構造の変化,様々なデバイスなど多くの感染症リスクを抱える集団である.真菌や呼吸器系ウイルスなど通常では問題とならない微生物が,時に凶暴なふるまいをする.かといって問題となる微生物すべてを薬剤で治療することは困難であり,副作用を増やすばかりか,耐性菌を生み出してしまう.狙った微生物に対して,最小限の力で最大の効果を出す治療選択が求められる.目の前の患者の今を救うとともに,未来の治療選択を残すこと,感染症にかからないための予防戦略を立てることが必要である.
 本書は,前身の『がん患者の感染症診療マニュアル』から大幅に内容の変更を行った.まず,感染症診療の土台となる原則論を縮小し,がん診療の感染症に焦点を絞った.よって,感染症診療の原則を一通り理解された上で本書を読んでいただきたい.次に,免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬など新規薬剤と感染症リスクについても追加し,各論も臓器別悪性腫瘍にまとめなおし,記載内容を充実させた.
 「がんに携わるすべての方,これからがんの診療にかかわる方」や「感染症の相談をされる立場にある方」にお勧めする一冊である.

2025年3月
編者を代表して
倉井華子
目次
第1章 感染症診療のロジック
感染症診療のロジックの基本

第2章 場面ごとの感染症診療のポイント
 1. 手術と感染症
  ❶手術部位感染症(SSI)
  ❷SSIの予防
  ❸術後の発熱の鑑別疾患
 2. デバイス関連感染症
  ❶デバイス関連感染症とは
  ❷カテーテル関連尿路感染症の予防
  ❸血管カテーテル関連血流感染症
 3. 化学療法
  ❶発熱性好中球減少症(殺細胞性化学療法)
  ❷ステロイドと感染症
  ❸免疫チェックポイント阻害薬と感染症
  ❹その他(分子標的治療薬)
 4. 放射線治療と感染症
 5. 緩和ケアと感染症
 6. 予防接種
 7. 造血幹細胞移植における感染症
  ❶移植後経過と感染症
  ❷感染対策
  ❸予防投与
  ❹移植後ワクチン

第3章 特殊な微生物
 1. ヘリコバクター・シナジー
 2. ノカルジア
 3. ステノトロフォモナス・マルトフィリア
 4. 結核菌
 5. 非結核性抗酸菌
 6. 迅速発育型抗酸菌
 7. カンジダ
 8. アスペルギルス
 9. ムーコル
 10. その他の糸状真菌
 11. ニューモシスチス
 12. クリプトコックス
 13. COVID-19
 14. サイトメガロウイルス(CMV)
 15. B型肝炎ウイルス(HBV)
 16. 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)

第4章 非感染性の発熱
 1. 非感染性疾患の鑑別
 2. 薬剤熱
 3. 腫瘍熱

第5章 腫瘍のある臓器・部位別の感染症診療のポイント
 1. 中枢神経系
  ❶中枢神経系悪性腫瘍患者でよくみる感染症
  ❷術後髄膜炎
  ❸デバイス関連感染症
 2. 頭頸部
  ❶頭頸部悪性腫瘍患者でよくみる感染症
  ❷化膿性耳下腺炎
  ❸薬剤関連顎骨壊死
  ❹深頸部感染症
 3. 肺・食道・縦隔
  ❶肺がん患者でよくみる感染症
  ❷食道がん患者でよくみる感染症
  ❸院内肺炎・医療介護関連肺炎
  ❹閉塞性肺炎
  ❺膿 胸
  ❻縦隔炎,食道瘻
 4. 乳 房
  ❶乳がん患者でよくみる感染症
  ❷乳房再建後の感染症
 5. 消化管系
  ❶消化管系悪性腫瘍患者でよくみる感染症
  ❷腹膜炎
  ❸Clostridioides difficile感染症(CDI)
 6. 肝・胆道,膵臓系
  ❶肝・胆・膵がん患者でよくみる感染症
  ❷胆囊炎,胆管炎
  ❸肝膿瘍
  ❹膵液瘻感染
 7. 泌尿器系
  ❶泌尿器系悪性腫瘍患者でよくみる感染症
  ❷腎盂腎炎
  ❸前立腺炎・膿瘍
  ❹尿路変更術後の感染症
  ❺BCG関連合併症
 8. 婦人科系
  ❶婦人科系悪性腫瘍患者でよくみる感染症
  ❷術後骨盤内感染症
  ❸子宮留膿腫
  ❹リンパ囊胞感染
  ❺リンパ浮腫による蜂窩織炎
 9. 骨・軟部腫瘍関連
  ❶骨・軟部腫瘍患者でよくみる感染症
  ❷椎体椎間板炎
  ❸人工物の感染
  ❹壊死性軟部組織感染症

第6章 抗菌薬の投与方法
 1. 経口抗菌薬の投与方法(成人)
 2. 腎機能障害時の経口抗菌薬の投与方法
 3. 静注抗菌薬の投与方法(成人)
 4-1.静注用バンコマイシンの初期投与量
 4-2.静注用アミノグリコシドの初期投与量
 5. 腎機能障害時の静注抗菌薬の投与方法
 6. 持続透析時の静注抗菌薬の投与方法
 7. 「抗菌薬と抗微生物薬」および「抗菌薬と抗がん薬・免疫抑制薬」の相互作用
 8. 薬剤添付文書に記載されている併用禁忌・注意薬剤(抗がん薬・免疫抑制薬,抗菌薬)
 9. 簡易懸濁法(経口投与が不可能な患者に対しての投与方法一覧)
 10. β-ラクタムアレルギーにおける代替薬選択

索 引
書評
17 年ぶりの名著,再来

倉原 優(近畿中央呼吸器センター 臨床研究センター 感染予防研究室長)

 ついに,あの名著が帰ってきました.私がまだ若い頃は,がん患者における感染症診療は,経験則に頼る部分も少なくなく,標準化されたアプローチが渇望される時代でした.2008 年に刊行された前身の『がん患者の感染症診療マニュアル』は,当時の研修医や若手医師のバイブルであり,感染症診療に新たな視座を与えてくれる傑作でした.特筆すべき点は,その先見性です.グラム染色や抗菌薬の適正使用が,今ほど浸透していなかった時代に,がんという特殊背景をもつ患者における感染症リスクと対応を明快に提示した本は,まさに感染症診療のパイオニアたちが記した金字塔でした.後進のわれわれにとって,計り知れない恩恵をもたらしました.経験豊富な指導医からの口伝に頼ることも少なくなかった感染症診療に,理論と実践的な指針を与えてくれた功績は大きいです.
 あれから17 年が経ち,抗がん薬は著しく進歩しています.分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などが日常診療に登場し,がん治療は新しいフェーズに突入しました.このような現代のがん診療において,腫瘍内科医にとって,感染症学はかつてにも増して不可欠なものとなりました.「この症状は感染症なのか,あるいは薬剤による非感染性の炎症か」という命題は,日常臨床で頻繁に遭遇するクリニカルクエスチョンであり,その判断が患者さんの予後に影響します.一方で,感染症専門医にとっても,オンコロジー領域は避けて通れない分野となっています.
 『がん感染症診療マニュアル』は,単なる旧版のアップデートではありません. 構成, 記述, 内容ともに,新しい一冊として生まれ変わっています.感染症ごと,微生物ごと,腫瘍ごと,ありとあらゆる切り口で情報を細断しつつ,約300 ページにまとめられています.がん患者にとっての感染症診療は,「予後」という因子のみで軽視されるべきではありません.感染症の制御が,苦痛の軽減やQOL の向上につながり,ときにがん治療の継続を可能にする鍵となります.そんな複雑化・高度化するがん診療の海原において,進むべき方向を見失いそうになったとき,本マニュアルは判断に悩む医療従事者にとって灯台の光となるでしょう.初版を知る者にとっては懐かしく,感慨深く,そして新たに出合う者にとっては,驚きと発見に満ちた一冊です.自信をもって推薦します.
書評
がん患者の感染症診療の考え方を示し,実践を導く書籍

大曲貴夫(国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 国際感染症センター) 

 私たちが,本書の前身にあたる書籍『がん患者の感染症診療マニュアル』を出版したのが2008年である.20年近い時間を経て,この書籍が新しい形で出版されることになった.
 本書を読んで,がん診療のこの20年での大きな変化を目の当たりにすることになった.人間の免疫系に働きかける治療の席巻ぶりは目覚ましい.患者背景を含む疾病の構造が複雑であるがゆえに,治療期間など画一的に決めることができず,結局は個々の医師による判断と決断が必要となる.だからこそ,このような治療を受ける患者の臨床像,治療に対する反応といったものを如何に自分の実力として把握するかが重要となる.本書の内容はその参考となるだろう.また,問題の構造がこのように複雑であるがゆえに,感染症の診療自体も患者ごとに内容が異なる,いわゆる個別化されたものにならざるをえない.それが当たり前である.治療法,治療期間など紋切り型に当てはめるとむしろ誤りとなる.このことはあまり理解されていないと感じる.
 私たちが本書の前身となる書籍を執筆した当時は,感染症診療の方法論は日本では根付いていない頃であった.よってその本の中でも感染症診療の方法としての「ロジック」を前面に出す必要があった.今回の書籍でもこの点は踏襲されている.しかしまだ,このような「考え方」が十分に教育され,実践されているとは言えない状況である.特にがん診療のように,患者背景が複雑で,治療手段も複雑な状況でこそ,その方向を照らすための考え方は極めて重要であることを指摘しておきたい.考え方を身につけずに,ノウハウ的に多くの知識を身につけるだけでは,自分の頭が混乱するばかりで診療には無益どころか有害である.生煮えで身についていない知識,自分で理解できていない薄っぺらな知識ほど危ないものはない.
 読者の方には,本書の知識を頭に入れたうえで,使うことで自分の実力としていただきたい.たんに物知りとして知っているだけでなく,自分の実力として使える知識としていただきたい.そのうえで,一人一人の患者さん方を丹念に診て,その病態を丹念に把握し,それを踏まえて熟慮して難しい決断を責任をもって下していただきたい.
書評
「がん患者の発熱,その“裏側”が見える本」
─ 診断に迷ったら,まず本書を開け.開業医こそ持つべき感染症マニュアル─

中西重清 (中西内科 院長)

 日常診療のなかで「発熱を訴えるがん患者さん」に出会うことは,決して珍しくありません.総合病院通院中の方がふらりと来院されたり,長年ご無沙汰だった方が突然顔を出されたりするなかで「これはがんの進行なのか?」,「感染症なのか?」,「薬剤熱か?」と頭の中で複数のルートを並列処理しながら,限られた診療時間で方針を立てる.この緊張感は,私たち開業医ならではのものです.そして『がん感染症診療マニュアル』は,そんな現場の混沌に“臨床判断の羅針盤”を与えてくれる一冊です.

 本書は「感染症の基本原則は理解している」ことを前提に,がん患者特有の感染症リスクや診断の勘所,治療の実践法を網羅的に,そして実践的に解説しています.たとえば,発熱性好中球減少症における抗菌薬の選択,ステロイドや分子標的薬による感染症リスクの見積もり,真菌感染や非定型病原体への対応まで,内科医が臨床で迷いやすいポイントが丁寧に,かつ明瞭にまとめられています.

 とくに印象的なのは「場面ごと」,「臓器ごと」に分けられた構成です.これにより患者さんが来院したその瞬間に「索引から該当箇所を引く→そのまま判断に活かす」という使い方ができるのです.緩和ケア中の発熱,デバイス関連感染,免疫チェックポイント阻害薬と感染症リスクの関係など,がん患者ならではの臨床課題に即応できる“診療直結型マニュアル”です.

 また,抗がん薬と抗菌薬の相互作用や簡易懸濁法対応薬の一覧など,開業医が普段なかなか情報を得にくい領域にも配慮されている点も見逃せません.単なるマニュアルではなく,「がん患者の診療に真剣に向き合ってきた専門家たちの“臨床知”の結晶」であることが,随所からにじみ出ています.

 がん患者の診療において感染症の見落としは致命的ですが,「見つけた後」の対応を間違えても患者さんの運命を左右してしまいます.その意味で本書は,診断力と治療判断の両輪を支える“信頼の一冊”です.

 この本を手元に置くことで日々の診療が少し楽になり,患者さんにもよりよい医療が提供できると確信しています.全国の開業医の先生方に,自信をもってお勧めできる一冊です.
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