カテゴリー: 精神医学/心身医学
精神科医が慢性疼痛を診ると
その痛みの謎と治療法に迫る
1版
京都第一赤十字病院 精神科(心療内科)部長 名越泰秀 編
愛知医科大学医学部学際的痛みセンター 教授(特任) 西原真理 編
定価
2,750円(本体 2,500円 +税10%)
- B5判 137頁
- 2019年7月 発行
- ISBN 978-4-525-38171-4
痛みの知識を深める
慢性疼痛には身体症状症や持続性身体表現性疼痛障害をはじめとして,心理的な要因が関与する病態が多いが,精神科医は他の領域に比べこれらの病態への知識が十分ではない.本書では身体科において患者に原因不明の疼痛が訴えて精神科医への紹介を考えるケースを取り上げたうえで,精神科医の疼痛の診かたを解説する.
- 目次
- 序文
目次
第1章 慢性疼痛の診療における精神科への期待と連携
A.総合内科の立場から
1 痛みに対する診断アプローチ~内科医はどうやって痛みを診断するか~
2 慢性疼痛を理由に総合内科・リウマチ内科を受診するケース
3 慢性疼痛診療において,内科医が精神科医に期待すること
4 臨床医としての反省
B. ペインクリニックの立場から
1 慢性疼痛とは
2 慢性疼痛とペインクリニック
3 ペインクリニックと他科,多職種との連携
第2章 精神科における痛みの見立て
A.疼痛の基礎知識
1 精神科医と痛みの関係
2 痛みのbiology(痛みの解剖学・生理学)
3 臨床編
4 ICD-11による慢性疼痛の診断基準について
5 痛み強度の評価
6 痛みの性質の評価
7 痛みの精神医学
B.身体症状症による疼痛の病態
1 精神科・心療内科で出会う慢性疼痛
2 慢性疼痛や身体症状症の疫学
3 身体症状症の危険要因と予後要因
4 身体症状症による経済的損失
5 身体症状症の歴史
6 身体症状症の診断基準
7 診断基準上の心理的要素の扱い
8 身体症状症と不安症,うつ病
9 身体症状症とうつ病との鑑別
10 精神科からみた痛みの多様性
11 慢性疼痛(特に心理・社会的疼痛)の病態と身体症状症
12 痛みが維持されてしまうメカニズム
13 身体科医が精神科に紹介するときの対応
14 精神科治療への導入における精神科医の役割の重要性
15 精神科における精神療法の原則
16 精神科医と他診療科の協働的治療
第3章 慢性疼痛の精神科での治療の実際
A.薬物療法
1 薬物療法を行ううえでの慢性疼痛の分類
2 神経障害性疼痛および中枢性感作による慢性疼痛への薬物療法
3 うつ病による疼痛への薬物療法
4 身体症状症への薬物療法
5 身体症状症による疼痛への薬物療法
6 薬物療法のエビデンスからFMの病態を考える
7 慢性疼痛の薬物療法の今後に向けて
B.慢性疼痛のCBT(認知行動療法)
1 認知行動療法(CBT)の概要
2 慢性疼痛のCBTの12セッション・パッケージの例
3 慢性疼痛のCBTの改良を目指して
C.慢性疼痛のACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)
1 慢性疼痛診療の難しさ
2 医学の世界観:要素還元主義
3 ACTの世界観:機能的文脈主義
4 ACTの適用
5 ACTのトリートメント・プロセス:体験型セラピー
6 ACTのトリートメント・プロセス:創造的絶望と6つのコア・プロセス
7 慢性疼痛ACTのエビデンス
8 慢性疼痛に対するグループACT“のびやかプログラム”
9 慢性疼痛に対する個人ACT
10 おわりに
第4章 身体症状症の脳科学の発展
身体症状症のニューロイメージング
1 身体症状症による疼痛に関する脳画像研究
2 身体症状症の神経科学的メカニズムについて
3 脳画像で痛みの評価・治療は可能か?
A.総合内科の立場から
1 痛みに対する診断アプローチ~内科医はどうやって痛みを診断するか~
2 慢性疼痛を理由に総合内科・リウマチ内科を受診するケース
3 慢性疼痛診療において,内科医が精神科医に期待すること
4 臨床医としての反省
B. ペインクリニックの立場から
1 慢性疼痛とは
2 慢性疼痛とペインクリニック
3 ペインクリニックと他科,多職種との連携
第2章 精神科における痛みの見立て
A.疼痛の基礎知識
1 精神科医と痛みの関係
2 痛みのbiology(痛みの解剖学・生理学)
3 臨床編
4 ICD-11による慢性疼痛の診断基準について
5 痛み強度の評価
6 痛みの性質の評価
7 痛みの精神医学
B.身体症状症による疼痛の病態
1 精神科・心療内科で出会う慢性疼痛
2 慢性疼痛や身体症状症の疫学
3 身体症状症の危険要因と予後要因
4 身体症状症による経済的損失
5 身体症状症の歴史
6 身体症状症の診断基準
7 診断基準上の心理的要素の扱い
8 身体症状症と不安症,うつ病
9 身体症状症とうつ病との鑑別
10 精神科からみた痛みの多様性
11 慢性疼痛(特に心理・社会的疼痛)の病態と身体症状症
12 痛みが維持されてしまうメカニズム
13 身体科医が精神科に紹介するときの対応
14 精神科治療への導入における精神科医の役割の重要性
15 精神科における精神療法の原則
16 精神科医と他診療科の協働的治療
第3章 慢性疼痛の精神科での治療の実際
A.薬物療法
1 薬物療法を行ううえでの慢性疼痛の分類
2 神経障害性疼痛および中枢性感作による慢性疼痛への薬物療法
3 うつ病による疼痛への薬物療法
4 身体症状症への薬物療法
5 身体症状症による疼痛への薬物療法
6 薬物療法のエビデンスからFMの病態を考える
7 慢性疼痛の薬物療法の今後に向けて
B.慢性疼痛のCBT(認知行動療法)
1 認知行動療法(CBT)の概要
2 慢性疼痛のCBTの12セッション・パッケージの例
3 慢性疼痛のCBTの改良を目指して
C.慢性疼痛のACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)
1 慢性疼痛診療の難しさ
2 医学の世界観:要素還元主義
3 ACTの世界観:機能的文脈主義
4 ACTの適用
5 ACTのトリートメント・プロセス:体験型セラピー
6 ACTのトリートメント・プロセス:創造的絶望と6つのコア・プロセス
7 慢性疼痛ACTのエビデンス
8 慢性疼痛に対するグループACT“のびやかプログラム”
9 慢性疼痛に対する個人ACT
10 おわりに
第4章 身体症状症の脳科学の発展
身体症状症のニューロイメージング
1 身体症状症による疼痛に関する脳画像研究
2 身体症状症の神経科学的メカニズムについて
3 脳画像で痛みの評価・治療は可能か?
序文
近年,慢性疼痛の分野は,基礎的研究や脳機能画像研究によって目覚ましい進歩を遂げ,神経障害性疼痛の治療薬の開発や抗うつ薬の疼痛への適応取得といった薬物療法の発展もみられる.また,レディーガガの線維筋痛症のカミングアウトによって,医療者以外の慢性疼痛への関心も高まっており,慢性疼痛は今まさにホットな状況にある.
慢性疼痛には,心理・社会的な要因の関与が多いことが知られており,精神科医の診療への参加が求められている.また,心理・社会的要因の代表格である身体症状症に対しての薬物療法および認知行動療法(CBT)などの非薬物療法も発展している.
しかしながら,精神科医は慢性疼痛への知識が十分ではなく,身体症状症を苦手としていることも多い.また,非精神科医も心理・社会的な要因に関して誤解をしていることが少なくない.このため,双方の連携がうまくいかなかったり,治療の混乱がみられることも稀ではないのが現状である.
このような状況のため,身体症状症をはじめとする慢性疼痛の心理・社会的要因やそれに対する治療に関しての情報発信が必要であるが,これまで,慢性疼痛についての書籍は非精神科医によるものがほとんどであった.そこで,慢性疼痛を専門とする第一線の精神科医による論説を中心とした書籍の出版を思い立つに至った.
そして,精神科における疼痛の第一人者である愛知医科大学の西原真理先生,身体症状症の病態や精神療法に関する研究をされている京都府立医科大学の富永敏行先生,慢性疼痛に関するCBTの実践や書籍の翻訳をされている千葉大学の清水栄司先生,めまい等の身体症状症に関連した症状へのCBTや慢性疼痛へのアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を実践されている名古屋市立大学の近藤真前先生,疼痛や身体症状症に関するニューロイメージングの研究をされている広島大学の吉野敦雄先生にご執筆いただいた.私自身も身体症状症の薬物療法の研究を行っている立場から拙文を書かせていただいた.さらに,ペインクリニックの立場や総合内科の立場から京都府立医科大学の上野博司先生および京都第一赤十字病院の尾本篤志先生に精神科との連携に関して論じていただいた.その結果,斬新で内容の濃い他に類を見ぬ書籍になったと自負している.ご多忙な中ご協力いただいた各先生方にお礼を申し上げたい.
共同編者の西原真理先生には,編集過程において重要な示唆を与えていただいた.また,本書の完成前に転居のため南山堂を退職されたが,私の思いをご理解いただき本書をご企画いただいた本山麻美子さんにも感謝の念を伝えたい.
本書は,精神科医全般,そして,慢性疼痛に興味がある非精神科医を対象としているが,看護師,心理士,理学療法士,作業療法士など,慢性疼痛にかかわるすべてのメディカルスタッフにも,ぜひお読みいただきたい.
本書によって慢性疼痛にかかわる医療従事者が増え,診療レベルが向上し,痛みに苦しむ患者さんが一人でも多く救われることを願う.
2019年5月 風薫る京都にて
名越泰秀
慢性疼痛には,心理・社会的な要因の関与が多いことが知られており,精神科医の診療への参加が求められている.また,心理・社会的要因の代表格である身体症状症に対しての薬物療法および認知行動療法(CBT)などの非薬物療法も発展している.
しかしながら,精神科医は慢性疼痛への知識が十分ではなく,身体症状症を苦手としていることも多い.また,非精神科医も心理・社会的な要因に関して誤解をしていることが少なくない.このため,双方の連携がうまくいかなかったり,治療の混乱がみられることも稀ではないのが現状である.
このような状況のため,身体症状症をはじめとする慢性疼痛の心理・社会的要因やそれに対する治療に関しての情報発信が必要であるが,これまで,慢性疼痛についての書籍は非精神科医によるものがほとんどであった.そこで,慢性疼痛を専門とする第一線の精神科医による論説を中心とした書籍の出版を思い立つに至った.
そして,精神科における疼痛の第一人者である愛知医科大学の西原真理先生,身体症状症の病態や精神療法に関する研究をされている京都府立医科大学の富永敏行先生,慢性疼痛に関するCBTの実践や書籍の翻訳をされている千葉大学の清水栄司先生,めまい等の身体症状症に関連した症状へのCBTや慢性疼痛へのアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を実践されている名古屋市立大学の近藤真前先生,疼痛や身体症状症に関するニューロイメージングの研究をされている広島大学の吉野敦雄先生にご執筆いただいた.私自身も身体症状症の薬物療法の研究を行っている立場から拙文を書かせていただいた.さらに,ペインクリニックの立場や総合内科の立場から京都府立医科大学の上野博司先生および京都第一赤十字病院の尾本篤志先生に精神科との連携に関して論じていただいた.その結果,斬新で内容の濃い他に類を見ぬ書籍になったと自負している.ご多忙な中ご協力いただいた各先生方にお礼を申し上げたい.
共同編者の西原真理先生には,編集過程において重要な示唆を与えていただいた.また,本書の完成前に転居のため南山堂を退職されたが,私の思いをご理解いただき本書をご企画いただいた本山麻美子さんにも感謝の念を伝えたい.
本書は,精神科医全般,そして,慢性疼痛に興味がある非精神科医を対象としているが,看護師,心理士,理学療法士,作業療法士など,慢性疼痛にかかわるすべてのメディカルスタッフにも,ぜひお読みいただきたい.
本書によって慢性疼痛にかかわる医療従事者が増え,診療レベルが向上し,痛みに苦しむ患者さんが一人でも多く救われることを願う.
2019年5月 風薫る京都にて
名越泰秀