カテゴリー: 総合診療医学/プライマリ・ケア医学 | 内科学一般
レジデントのための「患者中心の医療」入門
1版
松下 明 監修
森川 暢 監修
横田雄也 著
定価
4,180円(本体 3,800円 +税10%)
- A5判 230頁
- 2026年2月 発行
- ISBN 978-4-525-21461-6
ただの「寄り添い」なわけがない
「患者中心の医療」という言葉は様々な医療現場で使用されており,耳にしたことのある医療者も多いのではないかと思います.しかし「患者中心の医療とはなにか?」,「患者中心の医療はどのようにして実践するのか?」を,説明できる人は少ないのではないでしょうか.
その具体的な実践のモデルを示してくれているのが,「患者中心の医療の方法(Patient - Centered Clinical Method : PCCM)」です.そして本書は,PCCM をわかりやすく解説した入門書です.PCCM について知り,実践することで,漠然とした「患者への寄り添い」からの卒業を目指しましょう.
- 序文
- 目次
- 書評
- 書評
序文
漠然とした「患者への寄り添い」から卒業しよう
数ある医学書のなかから本書を手に取ってくださり、ありがとうございます。皆さんは「患者中心の医療」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
「患者中心の医療」という言葉は様々な医療現場で使用されており、耳にしたことのある医療者も多いのではないかと思います。しかし「患者中心の医療とはなにか?」、「患者中心の医療はどのようにして実践するのか?」について、説明できる人は少ないのではないでしょうか。
「患者中心の医療」とはなんなのか、「患者中心の医療」を実践するにはどのようにすればよいのか。その具体的な実践のモデルを示してくれているのが、「患者中心の医療の方法(Patient-Centered Clinical Method : PCCM)」 1) です。そして本書は、PCCM をわかりやすく解説した入門書です。
本書は、レジデント(初期研修医や専攻医)をメインの対象としていますが、医学生に始まり、指導医やベテラン医師、そして医師に限らず医療従事者全般を対象に PCCM について知ってもらい、そして実践していただくことで、漠然とした「患者への寄り添い」からの卒業を目指してもらうために執筆しました。
本書は、 基本的に2024年に出版された『 Patient-Centered Medicine: Transforming the Clinical Method』第4版 1)の内容を踏まえながら、「患者中心の医療」とその実践モデルであるPCCMについて解説します。できるだけ原著の記述を踏まえたうえで解説しておりますが、単に原著の記述の言い換えを行うだけでは、本書の意義が薄れるかと思います。できるかぎり原著の内容に沿いつつ、日本の医療現場に即した形で実践につなげていけるよう、私の言葉で解説を加えています。
そのため、原著に記載されていない内容も含まれていたり、原著の記載を一部意訳して書いている部分もありますので、ご注意ください。
本書の概要
本書は四部構成になっています。
第一部は、本書の導入として、私が「患者中心の医療」の重要性を知ることになった苦い経験や、よくある一般的な「患者中心の医療」に対する誤解を取り上げながら、本書執筆の動機や背景、「患者中心の医療」を学ぶべき理由について述べます。
第二部は、「患者中心の医療」とその実践モデルであるPCCMについて、まずは“知る”ところから始めます。PCCMの全体像、PCCMを構成する4つのコンポーネント、PCCMを踏まえて「患者中心の医療」を実践するうえでの注意点などを解説します。
第三部は、様々な診療セッティング(外来診療・病棟診療・訪問診療)での「患者中心の医療」の実践のポイントと、患者とのやり取りの例を提示します。PCCMに基づいて「患者中心の医療」がどのように実践されているのか、具体的なイメージがもてると思います。
第四部は、「患者中心の医療」についてより理解を“深める”ことを目的として、PCCM の理論的な背景やその奥深さ、他の医療モデルとも比較しながらPCCMのもつ可能性や広がりを示します。
時間がない方は、まずは第二部の「PCCM の全体像」の章だけでも読んでもらえると、おおまかな理解ができるかと思います。具体例からまずは知りたい、という方は、第三部から読んでもらってもよいかもしれません。第二部や第三部と比べると、第四部はやや発展的な内容になっているため、時間をかけてじっくり読んでもらえたらと思います。
本書を読んでもらうことで、皆さんの「患者中心の医療」に対するイメージがクリアになり、PCCMが理解でき、そして実践につなげていくことができるようになることを願っております。
参考文献
1)Stewart M, Brown JB, Weston WW, et al: Patient-Centered Medicine. 4th ed, CRC Press, 2024.
2025年12月
横田雄也
数ある医学書のなかから本書を手に取ってくださり、ありがとうございます。皆さんは「患者中心の医療」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
「患者中心の医療」という言葉は様々な医療現場で使用されており、耳にしたことのある医療者も多いのではないかと思います。しかし「患者中心の医療とはなにか?」、「患者中心の医療はどのようにして実践するのか?」について、説明できる人は少ないのではないでしょうか。
「患者中心の医療」とはなんなのか、「患者中心の医療」を実践するにはどのようにすればよいのか。その具体的な実践のモデルを示してくれているのが、「患者中心の医療の方法(Patient-Centered Clinical Method : PCCM)」 1) です。そして本書は、PCCM をわかりやすく解説した入門書です。
本書は、レジデント(初期研修医や専攻医)をメインの対象としていますが、医学生に始まり、指導医やベテラン医師、そして医師に限らず医療従事者全般を対象に PCCM について知ってもらい、そして実践していただくことで、漠然とした「患者への寄り添い」からの卒業を目指してもらうために執筆しました。
本書は、 基本的に2024年に出版された『 Patient-Centered Medicine: Transforming the Clinical Method』第4版 1)の内容を踏まえながら、「患者中心の医療」とその実践モデルであるPCCMについて解説します。できるだけ原著の記述を踏まえたうえで解説しておりますが、単に原著の記述の言い換えを行うだけでは、本書の意義が薄れるかと思います。できるかぎり原著の内容に沿いつつ、日本の医療現場に即した形で実践につなげていけるよう、私の言葉で解説を加えています。
そのため、原著に記載されていない内容も含まれていたり、原著の記載を一部意訳して書いている部分もありますので、ご注意ください。
本書の概要
本書は四部構成になっています。
第一部は、本書の導入として、私が「患者中心の医療」の重要性を知ることになった苦い経験や、よくある一般的な「患者中心の医療」に対する誤解を取り上げながら、本書執筆の動機や背景、「患者中心の医療」を学ぶべき理由について述べます。
第二部は、「患者中心の医療」とその実践モデルであるPCCMについて、まずは“知る”ところから始めます。PCCMの全体像、PCCMを構成する4つのコンポーネント、PCCMを踏まえて「患者中心の医療」を実践するうえでの注意点などを解説します。
第三部は、様々な診療セッティング(外来診療・病棟診療・訪問診療)での「患者中心の医療」の実践のポイントと、患者とのやり取りの例を提示します。PCCMに基づいて「患者中心の医療」がどのように実践されているのか、具体的なイメージがもてると思います。
第四部は、「患者中心の医療」についてより理解を“深める”ことを目的として、PCCM の理論的な背景やその奥深さ、他の医療モデルとも比較しながらPCCMのもつ可能性や広がりを示します。
時間がない方は、まずは第二部の「PCCM の全体像」の章だけでも読んでもらえると、おおまかな理解ができるかと思います。具体例からまずは知りたい、という方は、第三部から読んでもらってもよいかもしれません。第二部や第三部と比べると、第四部はやや発展的な内容になっているため、時間をかけてじっくり読んでもらえたらと思います。
本書を読んでもらうことで、皆さんの「患者中心の医療」に対するイメージがクリアになり、PCCMが理解でき、そして実践につなげていくことができるようになることを願っております。
参考文献
1)Stewart M, Brown JB, Weston WW, et al: Patient-Centered Medicine. 4th ed, CRC Press, 2024.
2025年12月
横田雄也
目次
第一部 なぜ「患者中心の医療」を学ぶべきなのか?
私の苦い経験
「患者中心の医療」に対する様々な誤解
今こそ「患者中心の医療」を学ぶべきである
「実践モデル」だからこそ、誰もが学べる・実践できる
「患者中心の医療の方法」を知ってもらいたい、実践してもらいたい
第二部 「患者中心の医療」について知る
「患者中心の医療」とはなにか?
「患者中心の医療の方法」が生まれた経緯
「患者中心の医療」のエビデンス
「患者中心の医療の方法(PCCM)」の全体像
「患者中心の医療の方法」の4つのコンポーネント
「患者中心の医療の方法」に関する注意点
第1コンポーネント:健康・疾患・病いの経験を探る
第1コンポーネントのポイント
事例:48歳女性・スギモトさん その①
患者をひとりの「人(Person)」として理解する
疾患(Disease)と病い(Illness)
健康(Health)
コラム 患者の言葉を使った質問で理解を深める
第2コンポーネント:全人的に理解する
第2コンポーネントのポイント
事例:48歳女性・スギモトさん その②
コンテクスト
人(Person)としての理解をより深める
コラム 近位コンテクストを把握するツールとしてのSocial Vital Signs(社会的バイタルサイン)
第3コンポーネント:共通の理解基盤を見出す
第3コンポーネントのポイント
事例:48歳女性・スギモトさん その③
「共通の理解基盤を見出す」3つのポイント
診療のはじめから、共通の理解基盤を見出すことを意識する
患者と医療者の説明モデルを共有する
①問題を定義する(健康課題に関する共通認識をつくる)
②ゴールを設定する(目標や方針を決める)
③役割を同定する(具体的な行動を決める)
コラム 説明モデルと解釈モデルのニュアンスの違い
第4コンポーネント:患者−医療者関係を強化していく
第4コンポーネントのポイント
患者との関係性はすべての診療の基盤
共感(empathy)、思いやり(compassion)、癒やし(healing)
継続的な関わり
転移と逆転移
力と責任の共有
自己認識
コラム パターナリズム(父権主義)そのものが悪いわけではない
第三部 「患者中心の医療」を実践する
「患者中心の医療」実践例
「患者中心の医療」の流れ
登場人物・診療セッティング
一般外来診療
事例①:「血圧は高くても大丈夫だと思います」
事例②:「俺は絶対にインスリンは打ちたくない!」
コラム 「症例」ではなくて「事例」と表現する
救急外来診療
事例③:「入院させてもらえないと困ります」
病棟診療
事例④:「夫のことが心配です」
訪問診療
事例⑤:「自宅で家族と過ごしたい」
第二部・第三部のまとめ
第四部 「患者中心の医療」を深める
「患者中心」とは結局なんなのか?
「中心性(centeredness)」という概念
常に「患者中心」でなければいけないのか?
状況に応じた患者−医療者関係の4つのタイプ
やはり「患者中心性」は常に求められる
他の医療モデルと比較してPCCMの理解を深める
Shared Decision Making (SDM)
Evidence-Based Medicine (EBM)
Narrative-Based Medicine (NBM) / Narrative Medicine (NM)
PCCMのもつ可能性と広がり
家庭医療学(Family Medicine)について
家庭医療学とは?
家庭医療学は関係性の学問である
PCCMをきっかけに家庭医療学に触れる
家庭医療専門医レベルの「患者中心の医療」
ポートフォリオ:「患者中心の医療」
より学びを深めたい・広げたい人のために
「患者中心の医療」、PCCMについてより学びたいとき
家庭医療学について学びたいとき
おわりに:人と人との関わりとしての医療
私の苦い経験
「患者中心の医療」に対する様々な誤解
今こそ「患者中心の医療」を学ぶべきである
「実践モデル」だからこそ、誰もが学べる・実践できる
「患者中心の医療の方法」を知ってもらいたい、実践してもらいたい
第二部 「患者中心の医療」について知る
「患者中心の医療」とはなにか?
「患者中心の医療の方法」が生まれた経緯
「患者中心の医療」のエビデンス
「患者中心の医療の方法(PCCM)」の全体像
「患者中心の医療の方法」の4つのコンポーネント
「患者中心の医療の方法」に関する注意点
第1コンポーネント:健康・疾患・病いの経験を探る
第1コンポーネントのポイント
事例:48歳女性・スギモトさん その①
患者をひとりの「人(Person)」として理解する
疾患(Disease)と病い(Illness)
健康(Health)
コラム 患者の言葉を使った質問で理解を深める
第2コンポーネント:全人的に理解する
第2コンポーネントのポイント
事例:48歳女性・スギモトさん その②
コンテクスト
人(Person)としての理解をより深める
コラム 近位コンテクストを把握するツールとしてのSocial Vital Signs(社会的バイタルサイン)
第3コンポーネント:共通の理解基盤を見出す
第3コンポーネントのポイント
事例:48歳女性・スギモトさん その③
「共通の理解基盤を見出す」3つのポイント
診療のはじめから、共通の理解基盤を見出すことを意識する
患者と医療者の説明モデルを共有する
①問題を定義する(健康課題に関する共通認識をつくる)
②ゴールを設定する(目標や方針を決める)
③役割を同定する(具体的な行動を決める)
コラム 説明モデルと解釈モデルのニュアンスの違い
第4コンポーネント:患者−医療者関係を強化していく
第4コンポーネントのポイント
患者との関係性はすべての診療の基盤
共感(empathy)、思いやり(compassion)、癒やし(healing)
継続的な関わり
転移と逆転移
力と責任の共有
自己認識
コラム パターナリズム(父権主義)そのものが悪いわけではない
第三部 「患者中心の医療」を実践する
「患者中心の医療」実践例
「患者中心の医療」の流れ
登場人物・診療セッティング
一般外来診療
事例①:「血圧は高くても大丈夫だと思います」
事例②:「俺は絶対にインスリンは打ちたくない!」
コラム 「症例」ではなくて「事例」と表現する
救急外来診療
事例③:「入院させてもらえないと困ります」
病棟診療
事例④:「夫のことが心配です」
訪問診療
事例⑤:「自宅で家族と過ごしたい」
第二部・第三部のまとめ
第四部 「患者中心の医療」を深める
「患者中心」とは結局なんなのか?
「中心性(centeredness)」という概念
常に「患者中心」でなければいけないのか?
状況に応じた患者−医療者関係の4つのタイプ
やはり「患者中心性」は常に求められる
他の医療モデルと比較してPCCMの理解を深める
Shared Decision Making (SDM)
Evidence-Based Medicine (EBM)
Narrative-Based Medicine (NBM) / Narrative Medicine (NM)
PCCMのもつ可能性と広がり
家庭医療学(Family Medicine)について
家庭医療学とは?
家庭医療学は関係性の学問である
PCCMをきっかけに家庭医療学に触れる
家庭医療専門医レベルの「患者中心の医療」
ポートフォリオ:「患者中心の医療」
より学びを深めたい・広げたい人のために
「患者中心の医療」、PCCMについてより学びたいとき
家庭医療学について学びたいとき
おわりに:人と人との関わりとしての医療
書評
医療職の2つの旅路をガイドしてくれる貴重な一冊
本書が扱う「患者中心の医療の方法(Patient-Centered Clinical Method:PCCM)は,診療分析の枠組みと,実践の指針を兼ねた「実践モデル」であり,人文学・社会科学を含む学際的知見が埋め込まれている.その真価は,自らのケアのなかで当事者として試行錯誤して初めて体感し得る.本書はこうしたPCCMの特徴を,初学者が追経験できるよう配慮と工夫が尽くされた一冊である.
まず,理論や開発過程の深みを押さえつつ,初学者が尻込みしない簡潔な説明が試みられている.とくに,病い体験や共感といった日常用語と混同されやすい概念について,著者は「業界用語」として振り回すことを慎み,未知の読者を「知っている状態」へと着実に連れて行く努力を惜しまない.加えて,「何を書くか」以上に「どのような表現を避けるか」という言葉遣いへの配慮が光る.たとえば,病い体験を「引き出す」ではなく,「探る」と表現する.こうした微細な言葉選びの一つひとつに,人文学・社会科学的知見に対する誠実な姿勢が凝縮されている.
さらに,本書は2つの道のりの案内書を兼ねている.1つは,診療のなかで「一人の患者」を知る道のりである.病棟から診療所まで多様な診療場面での医師と患者の逐語録と医師の思考過程を併記することで,読者は患者の一言に含まれる機微の読み取り方に触れることができる.シナリオゆえに医師の言葉が整然としすぎているきらいはあるが,行間のコンテクストを読み解き,現実の診療を深める議論の余白は十分にある.
もう1つは,家庭医療学の「概景」を知る道である.ここでは著者自身の歩みに始まり,関連概念がシナリオに紐づけて無理なく紹介される.他領域の知見も積極的に取り入れ,有機的につなげる流れは,総合診療における「統合」のあり方の1つを象徴している.第四部の一歩踏み込んだ議論も含め,著者が他書を丹念に読み込み,つなげる姿勢の一端がうかがえる.
本書はPCCMを,制度上の「正しさ」以上に,実践の「面白さ・深み」から実感させてくれる.まさに,漠然とした「患者への寄り添い」からの卒業のガイドである.専攻医のみならず,領域外の多くの医療職に活用されることを願ってやまない.
名古屋大学 総合医学教育センター/北海道家庭医療学センター 浅井東診療所
宮地純一郎
本書が扱う「患者中心の医療の方法(Patient-Centered Clinical Method:PCCM)は,診療分析の枠組みと,実践の指針を兼ねた「実践モデル」であり,人文学・社会科学を含む学際的知見が埋め込まれている.その真価は,自らのケアのなかで当事者として試行錯誤して初めて体感し得る.本書はこうしたPCCMの特徴を,初学者が追経験できるよう配慮と工夫が尽くされた一冊である.
まず,理論や開発過程の深みを押さえつつ,初学者が尻込みしない簡潔な説明が試みられている.とくに,病い体験や共感といった日常用語と混同されやすい概念について,著者は「業界用語」として振り回すことを慎み,未知の読者を「知っている状態」へと着実に連れて行く努力を惜しまない.加えて,「何を書くか」以上に「どのような表現を避けるか」という言葉遣いへの配慮が光る.たとえば,病い体験を「引き出す」ではなく,「探る」と表現する.こうした微細な言葉選びの一つひとつに,人文学・社会科学的知見に対する誠実な姿勢が凝縮されている.
さらに,本書は2つの道のりの案内書を兼ねている.1つは,診療のなかで「一人の患者」を知る道のりである.病棟から診療所まで多様な診療場面での医師と患者の逐語録と医師の思考過程を併記することで,読者は患者の一言に含まれる機微の読み取り方に触れることができる.シナリオゆえに医師の言葉が整然としすぎているきらいはあるが,行間のコンテクストを読み解き,現実の診療を深める議論の余白は十分にある.
もう1つは,家庭医療学の「概景」を知る道である.ここでは著者自身の歩みに始まり,関連概念がシナリオに紐づけて無理なく紹介される.他領域の知見も積極的に取り入れ,有機的につなげる流れは,総合診療における「統合」のあり方の1つを象徴している.第四部の一歩踏み込んだ議論も含め,著者が他書を丹念に読み込み,つなげる姿勢の一端がうかがえる.
本書はPCCMを,制度上の「正しさ」以上に,実践の「面白さ・深み」から実感させてくれる.まさに,漠然とした「患者への寄り添い」からの卒業のガイドである.専攻医のみならず,領域外の多くの医療職に活用されることを願ってやまない.
名古屋大学 総合医学教育センター/北海道家庭医療学センター 浅井東診療所
宮地純一郎
書評
「義務感」からの解放――「家庭医」の枠を超え,臨床の本質へ至る指南書
カント哲学の信奉者であり,カント倫理学,とりわけ「義務論」を日々の診療の規範としている私にとって,「患者中心の医療」は長らく「完全義務」という概念で捉えるべきものであった.すなわち,患者には最善の医療を受ける権利があり,医療者にはそれを提供する義務があるという峻厳な定義である.患者が「善い医療」を願うのは当然であり,結果を倫理的行為の条件としないカント倫理学的立場であっても,この義務は極めて厳格なものとして立ち現れる.
しかし,本書で紹介されているカナダ生まれの「患者中心の医療の方法(PCCM)」は,その厳格な義務の重みから医療者を解き放つ可能性を秘めている.本書を読み進めるうちに,私は「自ら感じ・自ら考える」という,いわば中動態的なあり方で,自然と「患者中心の医療」が実践されていくプロセスを直観した.
一点,本書の推薦文にある「ジェネラリスト・マスターになろう」という言葉や,家庭医固有の特徴として語られる言説には,現在はだいぶ変化があると私は思っている.Ian R. McWhinneyが挙げる「患者-医療者関係の先行」,「個別性の重視」,「有機体としての把握」,「心身の非分離」といった原則は,決して家庭医だけの特権ではない.私のようにリウマチや腎臓を専門にしながら地域中核病院における一般内科医にとっても,これらは日々の臨床における「原則」そのものである.
本書の価値は,こうした臨床の本質を特定の専門性に閉じ込めることなく,レジデントからベテラン医師まで,すべての医療者が実践可能なモデルとして提示した点にある.
第一部:導入として,著者の苦い経験や誤解を整理する.
第二部:PCCMの全体像と4つのコンポーネントを理論的に学ぶ.
第三部:外来・病棟・訪問診療など,多様な場での具体的な実践例を提示する.
第四部:PCCMの理論的背景を深掘りし,他の医療モデルと比較する.
これ一冊で、明日からの診療が「義務」から「自然な実践」へと変容することを確信できる力作である.
滋賀医科大学総合内科学講座 杉本俊郎
カント哲学の信奉者であり,カント倫理学,とりわけ「義務論」を日々の診療の規範としている私にとって,「患者中心の医療」は長らく「完全義務」という概念で捉えるべきものであった.すなわち,患者には最善の医療を受ける権利があり,医療者にはそれを提供する義務があるという峻厳な定義である.患者が「善い医療」を願うのは当然であり,結果を倫理的行為の条件としないカント倫理学的立場であっても,この義務は極めて厳格なものとして立ち現れる.
しかし,本書で紹介されているカナダ生まれの「患者中心の医療の方法(PCCM)」は,その厳格な義務の重みから医療者を解き放つ可能性を秘めている.本書を読み進めるうちに,私は「自ら感じ・自ら考える」という,いわば中動態的なあり方で,自然と「患者中心の医療」が実践されていくプロセスを直観した.
一点,本書の推薦文にある「ジェネラリスト・マスターになろう」という言葉や,家庭医固有の特徴として語られる言説には,現在はだいぶ変化があると私は思っている.Ian R. McWhinneyが挙げる「患者-医療者関係の先行」,「個別性の重視」,「有機体としての把握」,「心身の非分離」といった原則は,決して家庭医だけの特権ではない.私のようにリウマチや腎臓を専門にしながら地域中核病院における一般内科医にとっても,これらは日々の臨床における「原則」そのものである.
本書の価値は,こうした臨床の本質を特定の専門性に閉じ込めることなく,レジデントからベテラン医師まで,すべての医療者が実践可能なモデルとして提示した点にある.
第一部:導入として,著者の苦い経験や誤解を整理する.
第二部:PCCMの全体像と4つのコンポーネントを理論的に学ぶ.
第三部:外来・病棟・訪問診療など,多様な場での具体的な実践例を提示する.
第四部:PCCMの理論的背景を深掘りし,他の医療モデルと比較する.
これ一冊で、明日からの診療が「義務」から「自然な実践」へと変容することを確信できる力作である.
滋賀医科大学総合内科学講座 杉本俊郎