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現場の悩みをスッキリ解消 慢性便秘症診療プラクティス

1版

愛知医科大学 総合診療医学講座・内科学講座消化管内科 山本さゆり 監修
愛知医科大学 地域総合診療医学寄附講座・総合診療医学講座 上松東宏 編集

定価

3,960(本体 3,600円 +税10%)


  • A5判  211頁
  • 2025年6月 発行
  • ISBN 978-4-525-21201-8

現場で使える慢性便秘症の解説書

「便秘」がにわかに注目を集めている.慢性的な便秘は長期生存率を低下させ,冠動脈疾患やパーキンソン病との関連も示唆されている.2023年には日本消化管学会編集『便通異常症診療ガイドライン』も発刊された.すでに便秘薬の処方も変わりつつある.
 しかし,ガイドラインは難解との声も多い.主な読者として消化器内科専門医が想定されているためであろう.一方,便秘はありふれた病態で,医療従事者であれば誰もが身近に感じていたものだ.それゆえにこれまで漫然と行ってきた対応と,ガイドラインの記載との乖離に戸惑うのかもしれない.
 本書では,「プライマリ・ケアの現場」で使えることを意識し,慢性便秘症の基礎知識をわかりやすく整理,解説した.

  • はじめに
  • 目次
  • おわりに
  • 書評
  • 書評
はじめに
便秘は身近な健康問題であり,プライマリ・ケアの診療で頻繁に遭遇する.しかし,日本で行われた先行研究によれば,大半の人々は生活の中で自ら対処しようとしており,便秘で医療機関に相談する割合は5%にも満たないという.つまり,表面化していない便秘の悩みは非常に多い.慢性的な便秘の場合,ただちに大きな問題に発展することは少ない.そのため,多忙な現場では「下剤処方」というその場しのぎの対応が取られ,後回しにされがちである.こうした対応が繰り返されることで,われわれは便秘に対して適切に対応する自信を失っていくのではないだろうか.
近年,米国を中心にLifestyle Medicine(ライフスタイル医学)が注目されている.これは,生活習慣が深く関わる健康問題に対して,環境・行動科学・医学・動機付けなどの原則を用いて対応するという概念である.慢性便秘症も医学的問題・社会的問題・ストレスなどの精神的問題を適切に調整しながら,継続的に管理することが求められる疾患の一つである.そのためには,専門医との連携や多職種との協働も欠かせない.これはまさにプライマリ・ケアに従事する医療者が得意とする領域でもある.
Generative AI隆盛の時代において,疑問があれば簡単に答えを求めることができる.しかし,それは自分が直面した問題に対する回答にすぎず,その周辺にある文脈にまでは触れられない.また,日々の現場での経験則までは教えてくれない(たとえ提示されたとしても,現時点ではそれを信頼する気にはなれない).
多くの人が悩む慢性便秘症を,包括的にプライマリ・ケア現場に即した形で深めるためにはどうすればよいか.これが本書を企画した最大の理由である.本書は2部構成となっており,第1部では慢性便秘症に関する基本的知識を中心に整理した.第2部では,生物心理社会モデルを意識して,個別化した便秘症診療を実践するために役立つ内容をまとめた.読者はプライマリ・ケアを担う医療従事者を想定しているが,プライマリ・ケア医の視点だけでなく,専門医や多職種の視点も取り入れ,必要な知識の補完を図っている.
便秘に悩む患者は,時代によらず存在する.しかし,便秘症を取り巻くエビデンスは時代とともに蓄積され,診療のあり方も変化する.加えて,患者の個別性を考慮しながら,commonな疾患に適切に対処できるプライマリ・ケアの必要性はますます高まっている.便秘症においても,最適な排泄を患者とともに考え,エビデンスに基づき心理・社会的側面も考慮したアプローチを実践すべきではないだろうか.本書がこうした包括的な便秘症診療の一助となれば幸いである.

2025年4月
上松東宏
愛知医科大学地域総合診療医学寄附講座・総合診療医学講座
目次
【第1部 基礎編】プライマリ・ケア医が知っておくべき慢性便秘症診療の全体像
第1章 便秘は怖い! 身近な便秘が生活や長期的な予後に及ぼす影響とは 上松東宏
第2章 本当に便秘なのか? 定義を押さえ,丁寧な問診から始めよう 山田啓文
第3章 「便秘ですね」で思考停止しない.便秘のメカニズムを考えよう 夏目まこと
第4章 曖昧なままにしていませんか? 便秘患者で押さえるべきフィジカルとは 佐藤直行
第5章 要らないような,要るような……便秘に必要な診断検査は? 上松東宏
第6章 具体的指導で説得力アップ! すぐに役立つ便秘の生活指導
   1)食事 松村伸
   2)運動 今井美華,上松東宏
   3)排便指導(排便を招く習慣など) 塩田正喜
第7章 根拠をもって使い分ける! シン便秘薬の使い方 村島侑子,西澤俊紀
第8章 メンテナンスが大事! プライマリ・ケアの定期外来での確認すべきこと 田島明野
第9章 うまく治療が進まない……知っておくと役立つ便秘治療への心理的アプローチ 山本さゆり
第10章 自分の手には負えないかも……専門医への紹介のタイミング:排出困難型便秘の存在 髙野正太
第11章 First, Do No Harm! 安全な便秘診療を心がけよう 栗原健,上松東宏
第12章 合わせて知っておきたい慢性下痢症の最新動向 山本さゆり

【第2部 応用編】プライマリ・ケアでの便秘診療をさらに深めるために知っておきたい“慢性便秘×〇〇”
第1章 慢性便秘に潜む疾患を押さえよう
   1)過敏性腸症候群 山本さゆり
   2)悪性腫瘍 足立和規
第2章 便秘がエコーでわかる? ベッドサイドでできる新しい画像検査 上松東宏
第3章 投薬から始まる負の連鎖.慢性便秘とポリファーマシー 山下洋充
第4章 忙しい現場でも注意しておきたい救急外来での便秘の対応 山田拓也
第5章 プライマリ・ケアで実践する便秘患者に対する心理療法 山本さゆり
第6章 便秘患者の行動変容を促すコツ 張耀明
第7章 便秘から紐解くSocial Determinants of Health 河田祥吾
第8章 チームで関われば可能性が広がる! 多職種で連携する排泄ケア 大森桂子,布留川美帆子
第9章 患者さんごとの特徴を押さえる! ライフステージを意識した便秘診療
   1)小児 岡田悠
   2)思春期 金子宏
   3)妊婦・授乳婦 水谷佳敬
   4)高齢者 樋口雅也,上松東宏
   5)緩和ケア 常石大輝
おわりに
ここ数年,世界規模で先進国を中心に慢性便秘症を含む便通異常症に対する学術調査が大きく進んだ.新しい便秘治療薬が世界で発売され,慢性便通異常疾患の疫学や定義が世界の中で再評価され,統計学的意義や倫理的背景などを倫理委員会が判断した適切な方法によって以前から使用されてきた薬剤に対する現在の科学的根拠に基づいたエビデンスが再度判定し直された.米国・カナダや欧州そしてアジアのガイドラインは,各国の発売薬の種類や歴史的背景が異なっているために多少の違いがあるものの,大きな差異はない.日本では2017年に『慢性便秘症診療ガイドライン』が日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会の編集により発刊された.その後,便秘症のガイドラインだけでなく下痢症についても診断治療のガイドラインの必要性が出てきたことから,2023年には『便通異常症ガイドライン』として,慢性便秘症・慢性下痢症の2冊が日本消化管学会の編集により発刊された.2017年の『慢性便秘症診療ガイドライン』,2023年の『便通異常症診療ガイドライン』ともにベストセラーとなっている.『便通異常症診療ガイドライン』は英文化して日本消化管学会英文誌Digestionに投稿されており,日本のガイドラインとして世界より引用されることが予想される.筆者が例年参加している米国消化器病学会では,機能性胃腸症や便秘症のセッションは参加者が溢れ,サテライト会場が設置されるぐらい関心が高い状況である.機能性胃腸症・便通異常症は世界的関心事なのだと感じた一幕である.薬物以外の食生活や運動習慣が日本でも重要視されているが,海外の学会ではメディカルスタッフである看護師,栄養士,運動療法士が学会に参加してそれぞれの立場からディスカッションし,エビデンスレベルの高い研究を発表しており,日本でもこのような傾向が出てきていることよりさらなる邁進を期待したい.
日本でよく使用される浸透圧下剤のマグネシウム製剤はランダム化比較試験が行われ有効性が証明された.米国のガイドラインでは値段が安価なことから推奨度が高い.ポリエチレングリコール製剤ほかの浸透圧下剤の使用推奨や,新規便秘薬の上皮変容薬や胆汁酸トランスポーター阻害薬などは習慣性がないことから使用されることが増えてきている.刺激性下剤を屯用で使用することも浸透しつつある一方で,便秘薬を自己判断でインターネットやオーバー・ザ・カウンター(OTC)で入手するためよく出る(排便する)薬剤が好まれる背景があり,刺激性下剤の頻用を避ける必要性を患者に啓発する必要がまだまだある.日本でよく使用される漢方薬にも刺激性成分が含まれているものがあり,常用しないことへの啓発も必要とされる.
日常診療でまさに非常にcommonな疾患でありプライマリ・ケアで多く遭遇する便秘症診療のアップデートを図るために本書が企画され,下痢症についても若干の紙面を割いている.日本で著名な先生方に各専門での最新の知見をご執筆いただき,自慢の図書ができあがったと感じている.便秘症は疾患と捉えられていない側面があるが,その解消のために長期的な予後に始まり,適切な診断,検査,生活指導,新しい治療薬を適切に役立てることや,便秘症の心理的アプローチ,排便困難型便秘を直腸指診で判断することなど,日常診療に困ることがないようにイントロダクトすることを第1部で行い,第2部では便秘に潜む疾患を理解し,メディカルスタッフを含む医療者による積極的な便秘エコー使用を推奨し,高齢者が抱えるポリファーマシー,救急外来での問題,心理療法,行動変容,社会的要因,多職種連携,ライフステージと便秘診療と続き,便秘の診断治療に即した内容をコンパクトに1冊にまとめた.日々の便通異常診療にご活用いただければ幸いである.医師のみならずメディカルスタッフの皆さんに慢性便秘症を理解してほしいとの願いをこめた熱い思いが本書に詰まっている. 高齢化社会を迎え高齢者の70%は男女同率で便秘症があることからも,多職種を含むプライマリ・ケアの現場での便通異常への正しい対処なくしては日々過ごせないと言っても過言ではない.本書が医師・メディカルスタッフ・患者本人・家族を含むチーム医療の助けとなり適切な便通異常治療の一助となることを祈念して止まない.

2025年3月
山本さゆり
愛知医科大学総合診療医学講座・内科学講座消化管内科
書評
目から鱗の便秘診療を目指して

 便秘症は非常に一般的な疾患であるにもかかわらず,そのために医療機関を受診する患者は意外に少ない.この背景には,「便秘は病気ではない」とする一般の認識の低さがあると同時に,医療従事者側の関心の希薄さも否めない.現場では依然として,長年使われてきた浸透圧性下剤や刺激性下剤を漫然と処方するのみの“ガラパゴス化”した便秘診療が散見される.
 こうした現状に一石を投じるのが,南山堂から刊行された『現場の悩みをスッキリ解消 慢性便秘症診療プラクティス』である.本書は消化器内科専門医向けというよりも,むしろプライマリ・ケアを担う医療従事者を念頭に置いた構成となっており,便秘診療にまつわる日々の悩みを,まさに「完全自発排便」のようにスッキリと解決してくれる優れた一冊である.
 慢性便秘症の診療には,患者ごとの病態,生育歴,心理的背景,さらには社会的要因までを包括的に捉えた個別対応が求められる.本書では,そのような複雑な要素に対するアプローチが,豊富なイラストや写真を用いて,非常にわかりやすく丁寧に解説されている.
 第1部「基礎編」では,2023年に公表された『便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症』を中心に,慢性便秘症の全体像を現場目線で解説されている.特に,ガイドラインに記載されにくいフィジカル(身体診察)や生活指導といった実地で即戦力となる内容にも焦点を当てており,明日からの診療に直ちに役立つ知見が詰まっている.
 第2部「応用編」では,プライマリ・ケアでの便秘診療をさらに深めるために知っておきたい“慢性便秘×○○”という切り口で,心理療法や行動変容へのアプローチ,さらには健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health)の評価など,従来の下剤処方一辺倒の診療とは一線を画す視点が提示されている.どの章からも,「こんな見方があったのか」と目から鱗が落ちるような示唆が得られるだろう.
 本書は,医師のみならず看護師,薬剤師,管理栄養士といった多職種の医療従事者,さらには便秘に悩む一般の方々にとっても有益な一冊である.判型も手頃で読みやすく,多くの読者に届くことで,わが国の便秘診療が“ガラパゴス”状態から脱却し,より科学的で包括的な方向へと進化することを期待したい.

愛知医科大学 春日井邦夫
書評
「こんなにも便秘で困っている方が多くおられるのか……」
 訪問診療に携わるようになった私が,日々抱くようになった率直な感想である.特にご高齢の患者さんの暮らしを支えるうえで,「慢性の便秘」は避けては通れない大きな問題だ.私自身,もう一度きちんと学び直したいと思っていた矢先に,上松東宏先生と山本さゆり先生が企画された本書が届いた.
 ページをめくって,まず心を掴まれたのは,現場での実践経験が豊かな先生方が,そのノウハウを惜しみなく共有されていることだった.そして同時に,自分のこれまでの診療がいかに漫然としたものだったかを思い知らされ,恥ずかしくなった.薬の知識は古いままだったし,そもそも薬を出すだけでは不十分なのだと,本書ははっきりと教えてくれた.
 例えば,「そもそも,本当に便秘なのか?」(第1部第2章)では,丁寧な問診の重要性を再確認した.また,高齢者診療に欠かせない視点をまとめた章(第2部第9章4)や,薬以外の選択肢として心理的なアプローチを紹介する章(第1部第9章,第2部第5章)など,患者さんのQOL(生活の質)を高めるためのヒントが多く含まれている.これらはまさに,訪問診療の現場で「明日から使える」知識ばかりである.
 さらに本書は,診療の「安全性」という大切な側面にも光を当てている.「救急外来での注意点」(第2部第4章)や,「慢性便秘に隠れた病気を見抜く」(第2部第1章),そして「何よりもまず,害をなすなかれ(First, Do No Harm)」(第1部第11章)といった章を読むことで,これまで以上に自信を持って,そして安全に便秘診療に取り組めるようになるはずだ.
 便秘診療の経験がまだ浅い若手の先生が最初に手にする一冊としても,知識をアップデートしたいベテランの先生にも,本書は新たな発見と奥行きを与えてくれるであろう.日々の臨床に寄り添う,本当に素晴らしいこの本を,ぜひ多くの方が手に取っていただけることを心から願っている.

医療社団法人おうちの診療所 綿貫 聡
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