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「薬局」2017年8月 Vol.68 No.9

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2017年8月 Vol.68 No.9
臓器摘出・切除の晩期合併症
手術歴のある患者で考慮すべきポイント総まとめ

定価:2,160円(本体2,000円+税8%)

特集の目次

■特集にあたって(矢吹 拓)

■臓器摘出・切除歴をいかに考え対応するか!
・上部消化器―胃切除後の晩期合併症―(田 一秀ほか)
・下部消化管(山本 祐)
・肝臓・胆嚢(原田 拓)
・膵臓・脾臓(佐田 竜一ほか)
・下垂体(天野 雅之)
・甲状腺・副甲状腺(北 和也)
・卵巣・子宮(柴田 綾子)
・腎臓・副腎(井上 賀元)

■臓器摘出・切除後の薬物動態! どこに注意すべきか?!
・胃腸摘出・切除術後の薬物動態学的注意点(菅原 満)
・肝切除術後の薬物動態学的注意点(越前 宏俊)
・腎部分切除・摘出術後の薬物動態学的注意点(竹内 裕紀)

■がんによる臓器摘出・切除術後補助療法の晩期毒性
・術後補助放射線療法の晩期毒性(安藤 謙ほか)
・術後補助化学療法の晩期毒性(石川 和宏)

シリーズ

■プロフェッショナルEYE 専門薬剤師からみた勘所
BPSDにどう対応するか!
(橋本 保彦)

■医療マンダラ 〜思考と感性のセンスを磨く〜
イチゴは果物ですか,野菜ですか? 〜異文化間や人間同士のよりよきコミュニケーションに向けて〜
(中野 重行)

■「治療」「薬局」合同連載 ポリファーマシー “処方整理力”を鍛える!
効き時と止め時
(矢吹 拓)

■薬立つブレイクスルー! メディカル・レコード書き方講座
退院時指導
(寺沢 匡史/中村 翔吾)

■緩和ケアでの問題解決力を磨く! 薬剤師のための5ステップ実践ガイド
悪性消化管閉塞へのオクトレオチド投与“前”“後”で注意したいこと
(伊勢 雄也/片山 志郎/鈴木 規仁/岡村 由美子)

■医療従事者のギモンや困ったに答える! 特許のキホン
(服部 誠)

■Dr.ヤンデルの言葉のネタ帳 〜“病院ことば”の,じっくり,例えば,結局は〜
必要悪とか言うから黒幕みたいにイメージされちゃうんだ
〜Note 5.「副作用」を言い換える〜
(市原 真)

巻頭言

 このテーマでの特集のお話をいただき,まさにMultimorbidity(多疾患併存)時代のアジェンダの一つだなと感じました.ある臓器に疾患による何かしらの不調が出現し,内科的な治療での改善が認められず外科的切除で治療効果が期待できる場合に,その臓器を切除・摘出するという選択肢が出てきます.一方で,切除後に本当に問題ないのか? という点に焦点があてられ,少しずつその知見が積み重なってきています.それらを総ざらいしてみよう! というのが今回のテーマです.

「虫垂だの農家の四男坊なんてのは やたらに切っちまっていいもんじゃないだろう」

 とは,かのブラック・ジャック先生のお言葉です.これは母親に勘当された農家の四男坊の話です.四男坊は若い頃はぐれていて散々迷惑をかけたので母親は死んだということにしていました.しかし,この四男坊は母の持病である慢性的な腹痛を治そうと外科医になっていたのでした.還暦のお祝いに民宿を営む母親は自慢の息子たちが来るのを楽しみに待っていましたが,結局皆仕事が忙しく結果的に誰も現れませんでした.がっくりと落ち込む母親とたまたま居合わせたブラック・ジャック.その母親が急に右下腹部痛を訴えます.そこに,何十年かぶりに四男坊がひょっこりと帰ってきます.お母さんの還暦を祝おうとして.息子である外科医は母親を診察し,虫垂炎疑いで手術での切除が必要であると判断します.しかし,そこは天下のブラック・ジャック.「これはお前さんの手には負えないぜ」と話し,ブラック・ジャックによる執刀が行われます.そして,最終的に虫垂炎ではなく移動性盲腸の診断で,切除は必要ないという結論になるわけです.長年の腹痛の原因はこれだったか……ということで腹膜固定術が行われます.手術中に「それでも虫垂を切っちまった方が安全じゃないですか」と疑問を投げかける農家の四男坊である外科医に対して,ブラック・ジャックは冒頭のように話したという回でした.その後四男坊は母親と和解して民宿で開業するわけですが……

 いろいろ考えさせられますね.本特集をみても,やはり切除する,摘出することによるデメリットは確実に存在するのだという思いが新たになりました.例えば,昨今の肥満に対する胃切除術についても,心血管死亡減少やがん死亡減少などの華々しい効果が複数報告されているものの,肥満手術の保険適用のためにあえて太るみたいな話を聞くとこれで良いのだろうかと矛盾を感じずにはいられません.また,胆石疝痛の術前診断で手術したのに,結局症状がとれず,胆嚢ジスキネジアなのか胆嚢摘出後症候群なのかといった悩みに直面することもあります.
 やはり,“切除・摘出のメリット>切除・摘出のデメリット”の構図が成り立つ場合にのみ,切除・摘出が選択されるべきでしょう.そして,その構図は急性期のみならず慢性期・長期的にもメリットが持続するのか,そのデメリットは対処可能なのかという視点が重要になります.切除後に本当に影響がないのか,注意深く経過をみていくためのエビデンスの蓄積が重要になってきます.
 本特集のメッセージは,切除することによる影響を整理することで,その慢性期管理を適切に行っていきましょうというものです.既往歴から外科的摘出・切除歴があることが明らかになったとき,何に注意して何をアクションすべきでしょうか? 注意すべき晩期合併症や損なわれている生理機能,薬物代謝への影響は何でしょうか? そんな疑問に答えられる特集になったらと願っています.今回,各領域の専門家や総合診療医の視点で,切除後晩期に起こりうるさまざまな切除後合併症や注意点をまとめていただきました.無理難題をお願いした執筆者のみなさまには頭が下がる思いです.

「やたらに切っちまっていいもんじゃない」

 ブラック・ジャック先生の有り難い言葉を身に染みて感じつつ,臓器切除時代の晩期合併症に適切に対応し,その切除の適切性を検証できるようになればよいなと感じています.

矢吹 拓
国立病院機構栃木医療センター 内科医長