ブックタイトル精神科薬物療法マニュアル

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概要

精神科薬物療法マニュアル

30統合失調症とは 1890 年代に,Kraepelin により提唱された,思春期に発症し,精神機能が段階的に低下し精神荒廃に至ることを特徴とした「dementia praecox」という疾患は,後にBleuler により「schizophrenia」という用語に変換された.わが国では,「schizophrenia」に対する訳として長きに亘り「精神分裂病」が用いられてきたが,日本精神神経学会は2002 年8 月に「統合失調症」へ呼称を変更した. 統合失調症は,思考や行動を目的に沿って統合する能力が低下し,その経過中に幻覚や妄想などを呈する疾患である1).一方で,症候,薬物に対する治療反応,治療経過及び予後が患者ごとにさまざまであり,遺伝学的研究などのさまざまな研究により統合失調症は単一の疾病ではなく,多様な病因により生じる障害群と考えられている2). 統合失調症は,WHO が定義する世界疾病負担の上位10 疾患の1 つであり,罹患による健康や経済への影響が非常に大きい3).したがって,早期の診断治療及び家族や社会の疾患に対する理解が重要な疾患であるが,統合失調症患者に対する社会からのスティグマは依然色濃く4),また,患者自身が自分に対してスティグマを持つこと(セルフスティグマ)も知られており5),服薬アドヒアランス不良や自殺の原因になっている6, 7).Ⅱ 疫 学 統合失調症の有病率は報告によりばらつきはあるが,2015 年に米国で行われた観察研究の系統的レビューでは,統合失調症の推定生涯有病率は0.48% であった8).統合失調症の初回エピソードは10 代後半から30 代に出現することが多い.発症年齢は男性の方が女性より早く,女性では若年期に加え更年期の発症も多く二峰性の発症ピークを有する9). また,発症頻度に明らかな性差はないが,女性は男性に比べて,気分症状を伴うことが統合失調症 統合失調症は思考や行動などを統合する能力に障害を来たす慢性疾患で,経過中に幻覚や妄想を呈する疾患である.成因や病態は未だ十分には解明されていないが,さまざまな病態仮説が提唱されている.治療は,病態仮説を元にした薬物療法に加え,心理社会的リハビリテーションなどを組み合わせて行われる.本項では統合失調症の概要,病態,症状,診断,治療,及び,予後について解説する.1第2章 疾患ごとの病態,診断,治療