ブックタイトル日本プライマリ・ケア連合学会 薬剤師研修ハンドブック 基礎編

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日本プライマリ・ケア連合学会 薬剤師研修ハンドブック 基礎編

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日本プライマリ・ケア連合学会 薬剤師研修ハンドブック 基礎編

第6 章 薬剤師によるメンタルヘルスケア143 このような状況には,① 身体症状を伴う精神疾患を見逃している場合と,②「心因性」と誤診して身体疾患を見逃している場合の2 つのパターンが存在する5). うつ病を中心とする気分障害や各種の不安障害では,身体症状が前面に出ることが多く,精神科ではなく身体科医を受診することはよく知られている.統合失調症でも,初発時に全身倦怠感や頭重感などを訴えて内科を受診することがまれではない. これらの精神疾患が見逃され,自律神経失調症といった安易なラベリングだけで放置されてしまうと,患者から適切な治療を受ける機会を奪うことになる.日常診療でMUSに遭遇したら,上記のような精神疾患の存在を疑い,スクリーニングのための問診や鑑別診断を行うことが重要である. 反対に,患者プロフィールの精神科治療歴などの情報に気を取られて,安易な心理学的解釈から症状を「心因性」と誤診すると,重大な身体疾患を見逃すことになる. MUS を「身体的疾患」あるいは「精神疾患」のいずれか一方のみに由来するという「二者択一」のスタイルで判断することは,医師・薬剤師・患者を誤った方向に導く6).身体症状の原因として,身体医学的な原因と精神心理学的な原因の双方が存在する可能性を常に検証すべきである.例えば,うつ病患者の訴える消化器症状が,隠れている未診断の膵臓がんの影響を受けている場合もあることを忘れてはならない.心療への入口となるMUS MUS は医師のみならず,薬剤師にとっても患者の身体だけでなく「こころを診ること(心療)」の入口となるものである.その扉を開けるためには,日常業務のなかで実践可能な精神画像診断などの診断的なアプローチを丁寧に行っても,それらの症状をうまく説明できる身体疾患や臓器の異常が認められないことも珍しくない.そうなると,患者は薬剤師に対して,「医師からは,どこも悪くないと言われた.でも,やっぱり調子が悪い」と訴えることになる. 「医学的に説明困難な身体症状(MedicallyUnexplained Symptoms;MUS)」とは,何らかの身体疾患が存在するかと思わせる症状が認められるのに,適切な診察や検査を行ってもその原因となる疾患が見い出せない病像のことである2).MUSを呈する患者がプライマリ・ケア医を受診する頻度は非常に高く,外来患者全体の30 ~ 40%を占めているとする報告が多い3, 4). 医師が日常診療で遭遇するMUS には,表1に示した多彩な病態や疾患が含まれている2, 5). 最近では,「不定愁訴症候群」「自律神経失調症」といったあいまいで無意味なレッテル貼りは避けて,まずは「MUS というカテゴリーに属する病像・患者である」と認識した上で,経過を観察しながら,さらに緻密なアセスメントを進めるという戦略が推奨されるようになった2).MUSに潜む罠 MUS 患者のアセスメントを進める上で最も重要なポイントは,治療可能な原因疾患が存在するにもかかわらず,医療者の能力不足のためにMUSとして扱われ,未診断のまま放置されている状況を見逃さないことである.1.未知の疾患による身体症状2. 医師の能力不足のために未診断のまま放置されている身体症状a)身体症状を伴う精神疾患の見逃しb)「心因性」と誤診された身体疾患3.詐病・虚偽性障害4.身体表現性障害表1 MUSに含まれる状態像