ブックタイトル処方Q&A100 呼吸器疾患

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処方Q&A100 呼吸器疾患

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処方Q&A100 呼吸器疾患

2 3呼吸器一般?呼吸器疾患の症状呼吸器疾患の主な自覚症状は,咳・痰・喘鳴・呼吸困難の4つになります.血痰や胸痛などは救急疾患の症候ですが,胸痛の多くは循環器疾患の症候です.そのなかでも,咳と痰は内科外来全体の受診動機で最も多い症候ですが,十分に病態評価されないまま,安易に鎮咳薬や去痰薬が処方されてしまっています.多くの医師は,「咳を止めることが正しいのか」「痰を外に出すことはよいことなのか,そもそも去痰薬で痰は排出できるものなのか」と自問しながら,多忙な外来のなかで画一的な処方をくり返しているのです.本章では呼吸器一般として,主に咳と痰に関する処方の考え方を解説します.咳治療の考え方咳嗽の原因には,自然に軽快する普通感冒から,肺がんなどの腫瘍性疾患まで予後の異なる疾患が含まれます.また,鼻炎・副鼻腔炎のような上気道疾患から,心不全などの循環器疾患まで原疾患は多岐にわたります.時には,肺結核のような感染症の症候であり,周囲の人々を巻き込む可能性もあるのです.そこで,咳嗽患者を診る際には,最初に致死性疾患や感染性疾患を除外する必要があります.最も重要なことは問診です.咳嗽の持続期間の聴取は重要で,「発症後間もない咳嗽」の大半は感染症による咳であり,まず普通感冒などの上気道感染症と急性気管支炎や肺炎などの下気道感染症を鑑別して,治療を開始して問題ありません.1 急性咳嗽の考え方「発症後3週間以内の咳」は急性咳嗽と定義されますが,急性咳嗽はウイルス感染症などの自然軽快する例や市販の鎮咳薬,総合感冒薬で経過観察される例が多く,急性咳嗽の真の頻度と原因は不明なままです.急性咳嗽では年齢も重要な因子です.小児では上気道炎,特にウイルス感染症が多く,新生児・乳児期,幼児期,学童期以降では考慮すべき原因が異なります.乳児期の気道内異物や幼児期のクループ症候群のような致死性疾患には注意が必要です.乳児期以降は気管支喘息の頻度が増えますが,小児喘息では自宅アレルゲンに曝露される夜間のみの咳発作や喘鳴例が多く,昼間の診察時には咳も喘鳴もないことがあるので注意を要します.このような自宅環境で誘発されるアレルギー性の咳は,診察時の所見だけで安易に心因性と評価されることがあります.「いつ咳が出るのか」は,アレルギー性の咳の評価で重要です.高齢者の急性咳嗽では,咳嗽反射の低下と嚥下機能の低下による不顕性誤嚥が増加します.特に脳血管障害後遺症・パーキンソン症候群・認知症や睡眠薬服用者では誤嚥の頻度が増えるので,食事中・食事後の咳やむせ,声質の変化などに注意すべきです.誤嚥の危険性は,嚥下誘発試験(swallowing provocationtest ; SPT)で評価できます.SPTは鼻腔から生理的食塩水を少量注入し,咳反射の有無や咳反射までの時間を評価する方法で,機器が不要で診療所や介護施設でも施行できるメリットがあります.また,高齢者の急性咳嗽で重要な鑑別疾患は心臓疾患です.心不全の初期症状が咳嗽だけであることは多く,理学所見に応じて,胸部レントゲン撮影や心電図の評価が必要です.「咳嗽に関するガイドライン第2版」1)では,従来の急性咳嗽に当たる発症後3週間以内の咳嗽の原因の多くは,「感染性咳嗽」であると記載しました.感染性咳嗽は2005年に藤村らによって提唱された呼称ですが,感染症が治癒した後も遷延する感染後咳嗽に対して,現在も抗菌薬投与が有効な咳嗽であるという意味を含んだ表現です.さらに同ガイドラインでは,感染性咳嗽が疑われた場合,咳嗽のピークが過ぎた症例は対症療法で観察することを推奨しており,過剰な検査を抑制することの意義は重要です.遷延性咳嗽の考え方「発症後3週間以上持続する咳」は遷延性咳嗽と定義されます.遷延性咳嗽では,患者が「ずっと風邪をひいている」と表現しても,通常の感染症以外の原因を考えるべきです.表1には,日本(日本呼吸器学会2005)・米国(ACCP 2006)・英国(BTS 2005)の各ガイドラインでの遷延性咳嗽の頻度を示します.世界の咳のガイドラインを比較するときには,疾患概念の違いに留意する必要があります.米国・英国で最も多い遷延性咳嗽の原因疾患は上気道疾患で,次いで気管支喘息(好酸球性気管支炎),胃食道逆流症の順になります.わが国で多いとされる副鼻腔気管支症候群は欧米ではまれな疾患ですが,日本においても慢性副鼻腔炎+気管支拡張症などの典型例を除けば,びまん性汎細気管支炎は激減しており,むしろ欧米の上気道咳症候群に近い病態が増えていると考えられます.咳喘息は重要な疾患概念ですが,概念の細分化を嫌う欧米では気管支喘息として一括されることが多いようです.米国のNAEB(非喘息性好酸球性気管支炎)と英国の好酸球性気管支炎は,わが国のアトピー性咳嗽に近い疾患概念と理解されます.この4大疾患(上気道疾患,気管支喘息/咳喘息,アトピー咳嗽,胃食道逆流症)が鑑別されると,感染後遷延性咳嗽の可能性が大半を占めます.このように一見複雑に見える遷延性咳嗽ですが,主な原因疾患を「病態別」に分類すると,上気道疾患,アレルギー性疾患,感染性疾患,胃食道逆流症の4つの病態で理解される(図1)日本呼吸器学会JRS(2005)米国胸部内科学会ACCP(2006)英国胸部疾患学会BTS(2006)咳喘息上気道咳症候群(upper airway cough syndrome)鼻炎・副鼻腔炎(rhino-sinuitis)アトピー咳嗽気管支喘息気管支喘息/好酸球性気管支炎副鼻腔気管支症候群非喘息性好酸球性気管支炎(non-asthmatic eosinophilic bronchitis; NAEB)胃食道逆流症胃食道逆流症補足上気道疾患は咳ではなく「咳払い」として含まれていない.補足気管支喘息と咳喘息の区別はしない.NAEBはアトピー咳嗽に近い病態と考える.補足好酸球性気管支炎はアトピー咳嗽に近い病態だが,気管支喘息と同じ項で評価されている.表1 世界のガイドラインの遷延性咳嗽の主な原因疾患呼吸器症状の基礎知識