ブックタイトル処方Q&A100 呼吸器疾患

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処方Q&A100 呼吸器疾患

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処方Q&A100 呼吸器疾患

260 261その他の呼吸器疾患?95 睡眠時無呼吸症候群は薬剤では治療できないのでしょうか?睡眠時無呼吸症候群における薬物治療睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome;SAS)は,閉塞性,中枢性,混合性と3つに分類され,日常診療において最も多くみられるタイプは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)です.OSASにおける薬物療法として検討されるのは,① OSASそのものを改善する治療,②OSASに伴う不眠に対する治療,③OSAS発症の最大の危険因子である肥満に対する減量のための薬物療法,④ 甲状腺機能低下症や末端肥大症などに伴うOSASにおける基礎疾患に対する薬物治療だと考えられます.ここでは①を中心に解説していきます.有効性が検討された薬剤OSASそのものを改善させる目的の薬物治療としては,表1のように呼吸中枢を刺激する作用を有するものなどが検討されてきました.炭酸脱水酵素阻害薬であるアセタゾラミド(ダイアモックス?)は,腎からの重炭酸イオン排出を促進して代謝性アシドーシスをもたらすことによって呼吸中枢を刺激し,呼吸ドライブを上昇させ無呼吸を減少させる効果があるといわれています.健康保険上では唯一承認されている薬剤です(海外では未承認).しかしOSASの場合では特に,上気道の開存性に気道腔内外の圧バランスが関与していることから(Q94参照),治療としての有効性については明確ではありません.重症例では有効率は低く,長期使用では有効性は確立されておらず,代謝性アシドーシス,電解質異常,しびれ(アシドーシスによる)などの副作用がみられることから注意が必要です.高地あるいは心不全合併例など,使用範囲は限定的であるとされています.選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selectiveserotonin reuptake inhibitors ; SSRI)については,セロトニン作動性神経は呼吸中枢からの呼吸ドライブや上気道括約筋の活動性を亢進させますが,睡眠時は覚醒時と比較すると抑制されていることから,その活動性を覚醒時のレベルに維持することによって無呼吸を減少させる可能性があると考えられています.フルオキセチン(本邦未承認)やパロキセチン(パキシル?)では,無呼吸低呼吸指数(AHI)を減少させたという報告がありますが,相反する報告もあり現時点ではその有効性は確立されていません.三環系抗うつ薬は,覚醒リズムをつかさどっているセロトニン,ノルアドレナリンなどの神経伝達物質に関与する神経細胞受容体に作用し,神経細胞による吸収を阻害することによって遊離する神経伝達物質を増やす働きをします.このことによって上気道周囲の筋弛緩を防止し,上気道閉鎖を抑制します.また,無呼吸が生じやすいレム睡眠を抑える働きからその可能性が指摘されています.しかし,SASの主症状の日中の眠気を助長してしまうこともあり,効果については一定の見解が得られていません.テオフィリンは,アデノシンによる呼吸抑制作用に対して,拮抗作用を示します.うっ血性心不全患者にみられる中枢型無呼吸に対して改善がみられていますが,OSASに対しては,一定の結果が得られていません.しかし,テオフィリンには覚醒作用もあるため,無呼吸が改善したとしても睡眠そのものは改善しません.また,アデノシンは睡眠をもたらす候補物質でもあり,SAS患者の末梢血中で増加することが報告されています.そのため,総睡眠時間の短縮や睡眠効率の悪化をきたすことも報告されています.メドロキシプロゲステロン(ヒスロン?H,プロベラ?)は女性ホルモンの一種であり,女性ホルモンは呼吸刺激作用をもつことが知られています.その機序は換気量の二酸化炭素応答の改善とされており,気道腔開大に対する効果はないことから,効果は小さいといわれています.しかし,閉経はOSASの危険因子であり,閉経後の女性に対してはホルモン補充療法の有効性が検討されていますが,これらは一定の結論が得られていません.さらに副作用として血栓症のリスクが高まります.ナロキソンなどのオピオイド拮抗薬は,麻薬に対する呼吸抑制に対し,全般的な刺激作用を介して呼吸を促進します.またSAS患者の脳脊髄液中にはオピオイドが増加しているとの報告もあります.治験では,無呼吸の平均持続時間を若干短縮する程度です.他にはACE阻害薬の一部の降圧薬において無呼吸指数を有意に低下させたとの報告や,セロトニン受容体アンタゴニストであるオンダンセトロン(ゾフラン?)においても報告はありますが,臨床におけるOSAS改善の有効性が確立されているものは報告されていません.薬物治療の位置づけ現在のところ,OSASに対する治療の第1選択は経鼻的持続陽圧呼吸療法(nasal CPAP)や口腔内装置(OA),または外科的手術などです.薬物療法の効果については,研究方法や被験者の数が少ないといった観点から,エビデンスレベルの高い報告がないことや,現在のところ一時的であったり,十分な効果が得られていないため,治療は評価を含めて慎重に行う必要があります.したがって有効な薬物がない現在,薬物療法が考慮されるのは,CPAPのコンプライアンス不良で継続困難な患者や小児,もしくはごく軽症のOSAS患者における,あくまでも補助的な治療手段と考えられます.(金澤裕信)ClassⅠエビデンスから通常適応され,常に容認される甲状腺機能低下症や末端肥大症に合併するOSASに対するホルモン補充療法ClassⅡaエビデンスから有用であることが支持される炭酸脱水素酵素阻害薬ClassⅡb有用であるエビデンスはまだ確立されていない・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(フルオキセチン,パロキセチン)・三環系抗うつ薬(プロトリプチリン)  ・テオフィリン・女性ホルモン  ・オピオイド拮抗薬・セロトニン受容体アンタゴニスト(オンダンセトロン)・ACE阻害薬   ・β2 刺激薬    ・ニコチンClassⅢ一般に適応とならない,あるいは禁忌であるなし表1 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の薬物療法と治療推奨度 文献1) 日本循環器学会ほか:循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン.2010.