ブックタイトル臨床漢方小児科学

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概要

臨床漢方小児科学

感冒, 気管支炎, 肺炎3日常診療における漢方治療の位置づけ 「漢方薬は長く服用しないと効かない」という印象を持つ人が多い.しかし,漢方医学のバイブルともいえる『傷寒論』(紀元3 世紀頃)には,急性熱性疾患の臨床経過中におけるさまざまな事態への対処法がきめ細かく指示されている.たとえば,桂けい枝し湯とうの条文には,「漢方薬を服用後,熱いお粥をすすって薬効を高め,全身に少し汗をかくように調節せよ.生の冷たい物を食べてはいけない」とある.本来の漢方薬は,こうした急性疾患にも十分対応した形で発達してきており,感冒に対しても有用な治療手段である. 近年のライ症候群,脳炎,心筋炎などの問題から,解熱鎮痛薬の使用を控える傾向がある.また,抗インフルエンザ薬の使用制限などから,漢方薬への期待がさらに高まっている.感冒を西洋薬で対応すると多剤併用になりやすいが,漢方薬の場合,原則として一処方で対処する.このことは,医療経済的にみても利点がある.症候からアプローチする漢方薬の選択 年齢による方剤の差はない.1発症から1?2日までの場合 胃腸虚弱でなければ,麻ま黄おう湯とう,葛かっこんとう根湯,麻ま黄おう附ぶ子し細さい辛しん湯とうから選択する.全身の筋肉痛があれば麻黄湯を,全身の筋肉痛があって,さらに顔色が不良の場合は麻黄附子細辛湯を選択する.肩から項までがこる場合には葛根湯とする.胃腸虚弱でなく,上記の症状がない場合は桂けい麻ま各かく半はん湯とうとする. 胃腸虚弱があれば,桂枝湯とする.さらに気分が塞ぎがちな場合には,香こう蘇そ散さんとする.2発症後3?7日頃 咽頭痛が主であれば,まず小しょう柴さい胡こ湯とう加か桔き梗きょう石せっ膏こうとする.効果がなければ,体力の強弱により,大だい柴さい胡こ湯とう+桔き梗きょう石せっ膏こう,もしくは柴さい胡こ桂けい枝し乾かん姜きょう湯とう+桔梗石膏を選択する. 咳嗽,鼻汁が主で,胃腸が虚弱でない場合は,咳嗽が強ければ麻ま杏きょう甘かん石せき湯とう,さらに喀痰排出が激しい場合には五ご虎こ湯とう,鼻汁が強ければ小青竜湯とする.胃腸虚弱の場合は,苓りょう甘かん姜きょう味み辛しん夏げ仁にん湯とうとする. 脱水傾向がある場合には,白びゃっこ虎加か人にん参じん湯とうとする. 頭痛が強い場合には,川せん?きゅう茶ちゃ調ちょう散さんとする. 便秘がある場合には,調ちょう胃い承じょう気き湯とうとする.効果がなければ,大だい承じょう気き湯とうとする. 胃腸炎症状が強い場合には,胃腸炎の項(p.46)における急性胃腸炎から方剤を選択する. 上記において,複数の症状を呈することがある.その場合,最も主要となる症状から方剤を選択する.主要症状が2つある場合には,方剤を2つ組み合わせることも可能である.3発症後7日以降 咳嗽が続く場合には,麦ばく門もん冬どう湯とうとする. 下痢が続く場合には,胃腸炎の項(p.46)における慢性胃腸炎から方剤を選択する. 症状は軽快傾向にあるが,疲労感が強い場合には,補ほ中ちゅう益えっ気き湯とうとする.