ブックタイトルここが知りたい職場のメンタルヘルスケア 改訂2版

ページ
7/14

このページは ここが知りたい職場のメンタルヘルスケア 改訂2版 の電子ブックに掲載されている7ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

ここが知りたい職場のメンタルヘルスケア 改訂2版

5B 精神疾患は自殺の原因となり得るか??1.1~ 5.3%,クラスターBは0.3 ~ 2.1%,クラスターCは0.9 ~ 4.2%の範囲で分布し,それぞれ総合して3.6%,1.5%,2.7%であった.就業状態との関連については,クラスターC,何らかのPDについてのみ見られ,無職または障害のある者に比べて就業している者のオッズ比はクラスターCで0.6(95%信頼区間0.4 ~ 0.9),何らかのPDで0.7(95%信頼区間0.6 ~ 0.9)であった.つまり,これらのPDが該当する者については,一般地域住民より就業者のほうがPDの割合は低いことが推測される.4 成人発達障害 近年,成人発達障害への注目が集まっている.職場で見られる成人発達障害では,注意欠如/多動性障害(AD/HD)と自閉症スペクトラム障害(ASD)があげられる.特に,AD/HDについては,国際共同研究の大規模調査による知見が報告されており,WMH調査では成人の勤労者におけるAD/HDの有病率が明らかにされている20).世界10ヵ国(ベルギー,コロンビア,フランス,ドイツ,イタリア,レバノン,メキシコ,オランダ,スペイン,米国)において,調査時点で雇用されているかあるいは自営業者である18~44歳の7,075名について,成人AD/HDの有病率は1.2~7.3%の範囲で見られ,総合した有病率は3.5%(標準誤差0.4;男性4.2%,女性2.5%)であった. 自閉症,アスペルガー障害(症候群),高機能自閉症,広汎性発達障害などさまざまな用語が用いられているが,これらの状態を統括的に示した用語として,疫学研究ではASDが用いられることが多い.ASDについては,最近になり初めて,成人における大規模な一般地域住民の疫学調査が英国で行われた(Adult Psychiatric Morbidity Survey 2007)21).これによると,成人におけるASDの有病率は1.0%(男性1.8%,女性0.2%)であった.また,就業者で0.9%,無職者で1.6%,学生・主婦・長期病欠・退職者で1.6%であったが,就業状態について統計学的な関連は見られていない. 自殺は多要因的な現象であり,精神疾患という単一の原因だけでその実相に迫ることはできないことはあえて指摘するまでもない.しかし,自殺に至る重要な要因として,①認知の歪みと,②衝動性のコントロール能力の障害がある22). 自殺に直結しかねない認知の歪みとは,問題を抱えた場面で,ほかの解決策が思いつかずに,自殺だけが唯一の解決手段であるといった,いわゆる心理的視野狭窄に陥っている状態である. 衝動性のコントロール能力の障害とは,自己の安全や健康を守るための行動が取れなくなる状態を指し,激しい攻撃性が自己に向けられたとき,自殺は現実のものとなりかねない.そして,認知の歪みも衝動性のコントロール能力の障害のいずれも精神疾患(特に十分にコントロールされていない精神疾患)と密接に関連している.当初はほかのさまざまな原因から始まった問題が長期間かけて準備状態が徐々に深刻になっていき,そして,最後の行動に及ぶ前には何らかの精神疾患の診断に該当するといった例が大多数である.B 精神疾患は自殺の原因となり得るか?