ブックタイトル上肢臨床症候の診かた・考え方

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概要

上肢臨床症候の診かた・考え方

102第2 章 肘関節・前腕部の臨床診断総論小児の診かた小児の肘関節・前腕部の診かたは基本的に成人と同じであるが,診察をすすめるにあたり,常に留意するべきことがいくつかある.小児では症状の訴えが不確実であるため,保護者の訴えや発症時の状況を正確に把握することが必要となる.また,臨床所見や画像所見を診る際には年齢により正常所見が異なることや,成人と比較して関節可動域やX 線画像所見などの正常範囲が広いため,正常と異常の判定基準が症例間で異なることを留意する.Ⅰ.病歴聴取患児が幼少の場合は保護者の訴えを正確に聴取し,聞き落としがないようにする.年長児では成人と同様にかなり正確な訴えが可能であるが保護者の訴えと異なる場合があり,注意を要する.問診では主訴,現病歴,既往歴,家族歴について必要事項を要領よく聞き出すことが必要である.主訴の多くは疼痛,変形,関節可動域制限である.外傷では肘関節周囲の疼痛が,外傷後の成長障害や先天性疾患では肘関節・前腕・手関節の変形や可動域制限が主訴となる.現病歴として受傷の日時や状況,異常発見の時期などを正確に把握するとともに,その後の経過を詳細に聴取することは非常に重要である.肘内障などの小児特有の疾患では,主訴と正確な受傷状況の把握で診断にいたる症例がある.一方,上腕骨外側顆骨折後偽関節や,橈骨頭脱臼,橈尺骨癒合症などの先天性疾患では,発生後長期経過してから保護者が変形や関節可動域に気づいて来院する場合がある.先天性疾患の診断には,既往歴や家族歴が特に重要となる.多発性骨軟骨腫や橈骨列形成障害では,上肢以外の骨格変形や多臓器の異常を伴うことが多い.また,遺伝性疾患では家族性発生に加えて,詳細な家系図の作成が診断に有用な場合がある.Ⅱ.視 診上半身を裸にして立位肢位で肘を伸展位として上肢全体のバランス,左右差を観察する.肘外反角は5 歳以下では0°に近く,成長とともに軽度の外反肘を呈する(生理的外反,成人男子で平均8°,女子で13°とされる).高度な外反(20°以上)や左右差のある外反肘は異常であり,上腕骨外側顆骨折後偽関節などの異常を考える(図1,2).また,内反肘はすべて異常であり,上腕骨顆上骨折後変形(図3)や前腕骨変形に伴う橈骨頭脱臼(図4,5)などの異常を考える.前腕では弯曲,短縮,筋萎縮,腫脹の有無や,手関節の橈屈(図6)・尺屈変形を観察する.また,肘関節を屈曲させて指尖部が肩峰に届くか,0°以上の伸展が可能かなどの簡単な動きについても診る.上腕を体幹に固定して肘関節を90°屈曲位として,前腕の回内外運動を観察する.例えば先天性橈尺骨癒合症の患者では橈尺関節が強直しているが,肩関節の内外旋運動で前腕回内外運動を代償するため,年長児まで保護者が気づかない症例もある.