ブックタイトル肛門疾患

ページ
4/12

このページは 肛門疾患 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

肛門疾患

3)深外括約筋(図2-17 b) 浅外括約筋が深部になると縦方向に走っていた筋束は徐々に輪状に近くなってゆき,深外括約筋に移行する.したがって浅外括約筋と深外括約筋は区別が困難である. 深外括約筋は輪状のしっかりとした筋束である.後方では腱のようになった恥骨直腸筋を取り囲むように走行しているので,前上方からくる恥骨直腸筋の筋束と癒合するように見えてしまう.このような立体構造から,深外括約筋が恥骨直腸筋と誤認識されてしまうものと考える(図2-18)*1. 後方で深外括約筋を切離しても,腱様になった恥骨直腸筋が残っていれば,失禁をきたすことはない.? 肛門挙筋(挙肛筋)・骨盤隔膜 第1 章で記述したように四足で動いていた時代から二足歩行になって,手の進化と尾の退化が行われたのであるが,この過程で腹部内臓を腹筋で支えていた役割は,尾を振る諸筋が骨盤腔に入って内臓を支持する役割を担うことになった.1)恥骨直腸筋 肛門挙筋は,恥骨直腸筋 puborectalis muscle,恥骨尾骨筋 pubococcygeus muscle および腸骨尾骨筋 iliococcygeusmuscle の3 つの筋肉から成り立っている. 恥骨直腸筋は恥骨の骨盤面を起始として,左右から直腸を取り囲んで前方に引き肛門直腸角を形成する強靱な筋肉である.従来の教科書の記載では太い筋束のまま直腸後壁を回るとされていた.しかし手術所見や骨盤解剖による著者らの研究によって,前方ではしっかりとした筋束であるが後方に進むにつれて腱のように薄くなり,それが肛門直腸角を形成することが明らかになった.この筋は痔瘻の手術に際して誤って切断されると失禁をもたらすが,肛門直腸角が保たれていれば,恥骨直腸筋は温存されていることになる.2)恥骨尾骨筋,腸骨尾骨筋 恥骨尾骨筋と腸骨尾骨筋はそれぞれ恥骨・肛門挙筋腱弓を起始として尾骨前面に至り骨盤底を形成する.腸骨尾骨筋の後方にある尾骨筋を加えた四筋は尻尾を振る役割から骨盤底を支える組織となり,この四筋を合わせて骨盤隔膜pelvic diaphragm と称する.3)骨盤隔膜 骨盤出口筋については図2-19 に示した.外括約筋は後会陰筋として会陰筋群を構成する組織とされている.このことは発生学的に骨盤の外側にあって会陰筋部が二足歩行をするようになって骨盤内に入り込んだためで,外括約筋は前会陰筋とともに骨盤外を走っている陰部神経に支配されていることからも理解される. 骨盤隔膜と前方の会陰節を含めた骨盤下口の諸筋を総称して骨盤出口筋という. 全体の関係を図示する( 図2-19).? 会陰骨盤間隙 痔瘻を分類するためには,会陰骨盤間隙perineopelvicspaces を明確に表現することが必要である.しかし,これまで述べられていた肛門周囲の解剖学的用語には不正確かつ不明瞭な点がいくつか存在した.そこで著者ら以下のとおり会陰骨盤間隙を再定義あるいは詳細に解説し,また* 1 恥骨直腸筋は深外括約筋と明瞭に分離できず,ともに陰部神経によって支配されており,恥骨直腸筋は深外括約筋の一部であるとする意見がある.一方,解剖学的・生理学的な研究から恥骨直腸筋は肛門挙筋であり,深外括約筋と区別するものとの意見がある.すなわち胎児の研究から恥骨直腸筋は腸骨尾骨筋や恥骨尾骨筋と同じ起源であり外括約筋とは決して結合しない.また仙骨神経の刺激で同側の恥骨直腸筋の筋電図は変化するが,深外括約筋では変化がないなどから,神経支配も恥骨直腸筋と深外括約筋は異なっている.したがって両者は区別するものであるというものである1).著者らは後者の意見を支持するものである.[ 1)Garza A and Beart RW: Anatomy and embryology of the anus, rectum, and colon. In Corman ML et al. eds. Corman’s Colon andRectal Surgery 6th ed. Lippincott Williams & Wilkins. Philadelphia. 2012, p1-26]肛門尾骨靱帯腱のようになった恥骨直腸筋深外括約筋浅外括約筋皮下外括約筋恥骨直腸筋図2-18 恥骨直腸筋と外括約筋恥骨直腸筋は,前方では強靭な筋束であるが後方では腱のように薄くなって肛門直腸角を形成する.それを深外括約筋が取り囲むような形態となっている.肛門管の筋装置と骨盤底を形成する諸筋27