ブックタイトル硬膜外無痛分娩 改訂3版

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概要

硬膜外無痛分娩 改訂3版

Ⅶ 応 用 編100る.十分な鎮痛を提供することで,外回転術の成功率を高めると期待されるからである.一方で,過度の力を加えてしまう危険性も内包されている.現在のところ,硬膜外無痛分娩が外回転術の成功率を劇的に向上させるとの結果は得られていない.e. 帝王切開術後の経腟分娩帝王切開術後の経腟分娩trial of labor after cesarean(TOLAC)の分娩管理で最も問題となるのは,子宮破裂の診断と迅速な対応である.TOLAC を強力に推進してきたアメリカが,最近は消極的になっているようであるが,多くの産婦がTOLAC を希望しており,それらの女性から硬膜外無痛分娩の恩恵を奪ってしまうのは人道的ではない.そこで硬膜外無痛分娩をTOLAC に行ってよいかどうかは古くから議論されてきた.その懸念の主たるものは,無痛分娩が子宮破裂の徴候である腹痛をマスクしてしまうのではないか,というものだ.しかし子宮破裂に伴う症状・所見として,腹痛は確かに重要だが,胎児心拍数異常も高率に伴う.胎児機能不全non reassuring fetal status(NRFS)を疑って緊急帝王切開術を施行したら,子宮切開創の離開を認めることがある.また,低濃度局所麻酔薬を用いた持続硬膜外注入法では,産婦が破裂による痛みを訴える場合には,鎮痛の水準を超えた痛みbreakthrough pain として訴えることが少なくない.このような議論を経て,アメリカ産婦人科学会は,硬膜外無痛分娩による恩恵をTOLAC 患者に否定する必要はないとの見解をとっている 95).現実的には,TOLAC では子宮収縮薬を使用しない施設もあり,硬膜外無痛分娩で子宮収縮薬の使用頻度が増えることが問題となる可能性はある.しかしTOLAC は分娩中に迅速な対応が求められる最たるものであり,麻酔科医が無痛分娩を通じて母児の状態とリスクを把握し,あらかじめ緊急帝王切開時の麻酔計画を立て,分娩に関与することの意義は大きいと考えている.当センターでは,硬膜外無痛分娩を受けているか否かにかかわらず,TOLAC 患者が陣発入院したら麻酔科医がスタンバイする体制をとっている.f.心疾患心疾患の内容はさまざまであり,大動脈弁狭窄症や閉塞性肥大型心筋症など,病変によっては区域麻酔による体血管抵抗減少が望ましくない例もある.一方で,虚血性心疾患や,頻脈性不整脈など,陣痛の痛みに伴うカテコラミン分泌と心拍数上昇が望ましくない産婦も存在する.また,僧帽弁狭窄症や肺高血圧症のように,子宮収縮ごとに子宮から体循環に絞り出される300 ?500 mL の血液負荷に耐えられない病変も存在する.硬膜外無痛分娩は,分娩・出産に伴うこれらの変化を緩和する.表13 に国立循環器病研究センター周産期科の医師と共同で作成した,心疾患合併妊婦における硬膜外無痛分娩の適応