ブックタイトル硬膜外無痛分娩 改訂3版

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概要

硬膜外無痛分娩 改訂3版

V 硬膜外無痛分娩産婦での産科ケア,助産ケア84か.自分の期待通りではなかったから,受け持った助産師や産科医の期待するお産像と違ったから,周囲の価値観と産婦の価値観が異なっていたからといって,あるいは帝王切開術や無痛分娩で痛みなくお産したからといって,よいお産からはずれるはずがない.現在は,5 人に1 人が帝王切開術でお産する時代である.無痛分娩を希望する女性も今後増えていくだろう.帝王切開術であれ,硬膜外無痛分娩であれ,お産はお産である.産婦が満足できるお産となるよう精一杯支援し,予想外の事態となっても心理的な傷とならないようにお世話してあげたい.産科麻酔医をそのようなチームの一員として受け入れてほしいと願う.母乳育児支援も積極的にWHO の「母乳育児を成功させるための10 カ条」によれば,出産後30 分以内に母親が母乳を飲ませられるように支援することが推奨されている.当センターでは,帝王切開術中でも可能な限り直接授乳を試みている.当センター助産師だった小高,飯田らの研究によれば,手術台での直接授乳により,産婦が帝王切開術を前向きにとらえるようになり,母乳哺育に対する意欲を高めることができた(日本母性衛生学会,2004 年).硬膜外無痛分娩で出産した産婦でも,母乳育児支援の大切さはまったく同様である.硬膜外無痛分娩に用いた麻酔薬は母乳中にも移行すると考えられるが,硬膜外無痛分娩例での母乳移行を調べた研究はない.帝王切開術における硬膜外フェンタニル R100μg 投与例では,母乳中に検出できなかった 62).また,帝王切開術にてフェンタニル R2μg/ kg 静注した研究では,初乳中のフェンタニル R 濃度は血清中よりも高かったものの,10 時間後には実質的に検出不能になった 63).フェンタニル R は腸管からあまり吸収されないこともあり,著者らはフェンタニル R 投与後の授乳は安全と結論している.アメリカ小児科学会もフェンタニル R は母乳育児にさしつかえないとしている 64).アメリカには硬膜外無痛分娩で出産した児では母乳育児がうまくいかないと主張する専門家もあると聞く.それに対して母乳育児を強く推進しているカナダの施設からの報告では,本書で紹介したような硬膜外無痛分娩は母乳育児成功率を低下させなかった 65).2013 年の総説 66)によれば,この問題に関しての研究は研究方法に課題が多いため,明確な結論は下せなかった.今後も研究を継続する必要がある.硬膜外無痛分娩は,鎮痛薬を筋注・静注する方法よりも鎮痛薬使用量が少ないため,母乳移行も少ないと考えられる.硬膜外無痛分娩で出生した母児においても,母乳育児を積極的に支援していただきたい.