ブックタイトル在宅栄養管理 改訂2版

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概要

在宅栄養管理 改訂2版

1763chapter臨床倫理の実践方法(1) 臨床倫理についてa.臨床倫理とは?事例のような場面に出会った時,あなたならどうするだろうか.家族の言う通りに胃瘻を取り外すだろうか,それともAHN の中断は死を意味するからと家族の申し出を断るだろうか.おそらく上に述べたようなYes / No の選択を迷いなくできる,という人は少ないのではないだろうか.どう応答し,どう行動すればいいのか.医師として求められる患者の身体状態の判断,それに応じた適切な処置の実施,というのとはまた別の判断と行動が求められている.それは医師としての専門的な見解に基づきながら,また,同じく患者や家族に関わっている看護師,介護士,ケアマネジャーなどの見解に基づきながら,何が患者にとってよいことなのか,また家族にとってもよいことなのか,「価値」について患者・家族と共に判断し,何らかの決定がなされることが求められている.このように患者や家族などにとって何がよりよいこと(より価値のあること)なのか,またどのように判断し決定することが正しいのかという判断を倫理的判断と呼ぶ.そして,事例のように医療の臨床場面で問われる倫理的な問題やその解決の道筋について考える営みを「臨床倫理clinical ethics」という.臨床倫理(学)は主に1980 年代に米国で始められ1),その中心人物であるジョンセンA. R.事例  95 歳女性,認知症が進行しほぼ寝たきりで在宅にて療養.一人娘である長女夫婦と同居.長女71 歳,その夫79 歳.3 年前より誤嚥性の肺炎を繰り返していたことから胃瘻造設.介護は主に長女が行っており,夫も手伝うが夫自身が数年前より膝を悪くし歩行が困難なため介護に限界がある.夫婦に子どもはいない.訪問診療,訪問看護,および不足分の介護を訪問介護にて補う.変わらず介護を続けているが,褥瘡が絶えず,拘縮なども進行.日々苦しそうな表情をしたり,声を上げることが増えてきた.医師が通常通り訪問すると,夫婦より胃瘻を外して人工的水分・栄養補給法artificial hydration and nutrition(AHN)の中断はできないかと相談を受けた.