ブックタイトル私は咳をこう診てきた

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私は咳をこう診てきた

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概要

私は咳をこう診てきた

─ 25 ─2.咳の章これは実は難しい問題をはらんでおり,ハムレットならずとも悩むところである.少し解説しておこう.マイコプラズマ抗体─測るべきか測らざるべきか─天皇陛下がマイコプラズマ肺炎で入院されて以来,マイコプラズマという名前は一気に広まった.たまたまその年,マイコプラズマ肺炎が流行したこともあって,私の外来にはマイコプラズマ肺炎を心配した患者さんたちが一時押し寄せた.マイコプラズマ肺炎をはじめとするマイコプラズマ感染症の診断の確定は診療所などプライマリ・ケアの現場では実に難しい.なぜならゴールドスタンダードであるべき分離培養が難しく,菌体の証明が困難であるからである.近年開発されてきたPCR 法による証明をゴールドスタンダードとしてもよいが,それが可能な施設は限られているし,保険適応も認められていない.勢い抗体検査に頼ることになる.本来ならマイコプラズマ抗体(PA 法あるいはCF 法.国際的な標準であるELISA 法は日本ではできる施設が限られている)を来院時,そして期間をおいてもう一度ペアで測定し,その4 倍以上の上昇をもって診断すべきである.しかしプライマリ・ケアの現場でペア血清を採取し測定するのは様々な意味で難しい(患者への負担の大きさ,そもそも間をおいて2 度来院されるかどうかという問題,来院時すでに急性期を過ぎていることなど).さらに言えば現場で要求されるのは,来院時に診断できる迅速性である.マイコプラズマ抗体IgM をその場で測定できる簡易EIA 迅速キットであるイムノカード法は,その要求に応えてくれる検査に思える.しかしこのキットの大きな欠点は,その感度・特異度の低さにある.なんとわずか感度48%,特異度79%という報告もある.IgM 抗体そのものに関しても,その上昇は1 週間後から始まり8 週間前後持続するという特性,小児に比べ成人では陽性率が低いという特性があり,これも感度・特異度に影響していると思われる.ここで感度・特異度の意味をおさらいしてみよう.感度48%,特異度79%であることの意味を一言でいってしまえばイムノカードIgM 陰性であってもマイコプラズマ感染は否定できないし,逆に陽性であってもマイコプラズマ感染と言い切れないということである.感度・特異度は,検査あるいは診察所見の性能を見るのによい指標である.ともすると検査を行うとき結果によって白黒つくと思いがちであるが,それはできない相談である.患者さんにとっては