ブックタイトル実践から識る!心不全緩和ケアチームの作り方

ページ
4/12

このページは 実践から識る!心不全緩和ケアチームの作り方 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

実践から識る!心不全緩和ケアチームの作り方

211─心不全緩和ケアの対象かつては,緩和ケアと積極的治療は二者択一で,相反する関係にあるという誤解があった 1).しかし,現在では治療の施しようがなくなったときに初めて検討される緩和ケアのあり方は,適切でないとされている(図1-B-2参照).突然死の危険性を伴いながら増悪寛解を繰り返す予測困難な心不全の「病みの軌跡」の中で,緩和ケア介入を検討する適切なタイミングを特定することは容易ではない 1, 2).とは言え,患者の全人的苦痛に対処することを人生の最終段階まで待つ必要はない.緩和ケアは,その目的が患者・家族のケアのゴールに合致する限り,心不全の経過すべてにわたって提供が検討されるべきである(図1-B-2参照).緩和ケア導入のきっかけを待つのではなく,心不全疾病管理プログラムの一つとして治療経過の中に緩和ケアを統合(integrate palliative care)させていかなければならない 3, 4).多職種チームアプローチは現代の心不全診療に不可欠であるが,緩和ケアはコミュニケーションの強化やさまざまなつらさの緩和,アドバンス・ケア・プランニング advance care planning(ACP)などに焦点を当てることで,従来の心不全チーム医療を補完する存在となる.2014年のWorld Palliative Care Alliance(WPCA)のレポート 5)では,緩和ケアは「予後」ではなく,患者個人のQOLを維持するための「ニーズ」によって提供されるべきものであるとされている 6).つまり,ニーズのあるすべての心不全患者が緩和ケアの対象であるといえる.そしてそのニーズは疾患の進行とともに常に変化する.臨床的な重症度指標(例:左室駆出率left ventricular ejection fraction(LVEF)や心臓カテーテル所見,予後予測スコアなど)と患者報告アウトカム(例:苦痛症状やQOL障害)にはしばしば潜在的なずれがあることを意識し,そこから導き出されるニーズを心不全の経過の中で慎重にフォローすべきである.2─心不全緩和ケアの担い手を考える心不全の苦痛症状は適切な治療によって改善することが多く,これは循環器専門家が心不全緩和ケアに携わらなければならない大きな理由の一つである.しかし,次第に適切な治療を行っても症状の改善が得られなくなる時期が訪れる(表1-D-1) 7).循環器の専門家は緩和ケアの知識や経験が不足しており,質の高い緩和ケアの提供のためには,緩和ケア専門家によるバックアップが望ましい.しかし,わが国においては緩和ケア専門家へのアプローチが十分に確保できない医療環境も少なくない.だからこそ心不全診療に携わるすべての医療従事者は,循環器医の立場からみた,D 心不全緩和ケアの役割とその対象