ブックタイトルエキスパートが現場で明かす 心不全診療の極意

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エキスパートが現場で明かす 心不全診療の極意

148Ⅴ.高齢者心不全A そもそも心不全β遮断薬療法とは何か? β遮断薬は,基本的に慢性心不全の治療薬である.心不全では,血行動態を保つための代償機構として,神経体液性因子が過剰に発現する.一見,安定していても,この反応は引き続き,心筋障害を助長させ,心不全をさらに悪化させる.β遮断薬は過剰な交感神経刺激を抑制することで,このような悪循環を断ち切り,結果として予後の悪化を防ぐとされる.つまり,主たる治療目的は予後を改善させることにある.個別の症例を前にして,治療者側も患者側も予後というものは「目に見えない」(実感できない).この薬剤を使ったから予後がよくなったとか,あまり変わらなかったなどと判断できない世界である.有効性は,あくまでも大規模臨床試験の結果,いわゆるエビデンスに立脚するしかなく,現場では診療ガイドラインに基づいた治療が求められる.一方,予後改善薬を使用するにあたり,「目に見える」(実感できる)のは副作用である.したがって,副作用の発現に留意しながら,いかにガイドラインに基づいた投与内容に近づけるかがポイントとなる.? すなわち,β遮断薬を用いた治療(β遮断薬療法)の是非にかかわる論点は,同様な臨床設定でのエビデンスがあるか,いかに副作用を減らせるか,の2つに集約される.B 高齢者心不全の特徴をふまえたβ遮断薬療法高齢者心不全の特徴? 高齢者といえども,薬物治療をはじめとした心不全の治療戦略の基本は変わらない.ただし,① 治療薬の副作用が生じやすい,② 合併症や臓器障害がさまざまで個別の対応が必要,③ エビデンスがきわめて少ない,という点に留意する.また,薬物動態とは別に,服薬コンプライアンスの低下が実臨床で問題となることが少なくない.その是正には,患者本人にとどまらず介助者である家族や同居する人も含め,生活習慣や通院習慣もからめた服薬習慣を指導する.そのためには,医師のみによる心不全治療だけでは限界があり,医療側での職種や施設をまたがった包括的な評価と管理が求められる.β遮断薬の有効性?「 目に見えない」予後改善薬であるβ遮断薬の有効性は,あくまでも大規模臨床試験の結果に基づく.すなわち,極論すれば,高齢者心不全を対象とするβ遮断薬のエビデンスには,どんなものがあるのかを把握することにつきる.ところが,高齢者心不全を対象に予後改善効果が実証されたものは,SENIOR 試験1)のみである.ただし,試験薬剤であるネビボロールは,わが国では発売されていない.また,これまでの大規模臨床研究を網羅し,高無理をしてまで高齢者にβ遮断薬を25 入れるべきか?I