ブックタイトルあなたのギモンを解決する!つまずき症例から学ぶ関節リウマチ診療

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概要

あなたのギモンを解決する!つまずき症例から学ぶ関節リウマチ診療

第3 章関節リウマチのテーラーメイド薬物療法146 147 欧米においては,RA の死因として心血管障害,悪性腫瘍,呼吸器疾患,消化管障害,腎障害が多いとされているが1),日本では脳血管障害,悪性腫瘍,肺炎などが多い2).これは,人種差や食生活の違いに起因している可能性があるが,特に心血管障害に関しては欧米ほど注目されてこなかった.RA における心血管障害は,通常の危険因子である高血圧症,高コレステロール血症,喫煙など以外に,動脈硬化の要因となる炎症の関与が推定されている.食生活を含めた生活様式の欧米化が進んでいる現代においては,今後RA の合併症としての心血管障害が増加することが予想される. RA における動脈硬化性病変の進展については,欧米を中心に多くの報告がなされてきた.RA 患者は健常者と比べて大動脈,頸動脈,冠動脈の順で石灰化をきたしやすく,特に60 歳以上では90%の症例で胸部大動脈にびまん性の石灰化病変が存在した3).長期罹病RA 患者の冠動脈は健常者および早期RA 患者よりも有意に石灰化病変の頻度が高く,喫煙とESR 亢進がより重症な冠動脈石灰化病変と関連していた4).RA 患者において,血清リポタンパク濃度が有意に上昇しており,HDL コレステロール値が有意に低値であった5).プロインスリンからインスリンが生じる際に産生されるC - ペプチドは,初期の動脈硬化性病変部においてマクロファージと共存し,血管平滑筋の増殖を促すなど動脈硬化の病変形成において重要な役割を果たしていると推定されている6).RA 患者で冠動脈石灰化病変を持つ症例において,同病変を持たない症例に比べて有意に血中C - ペプチド値が高値であったとされ,C - ペプチドが冠動脈硬化性病変のバイオマーカーとなりうる可能性が報告されている6).また,抗CCP 抗体が白血球を活性化することにより,動脈硬化促進作用に直接関わり,RA における心血管疾患の発症を促すとの報告もなされている7). RA 患者においてTNF 阻害薬投与により,冠動脈イベントのリスクを減少させたという報告があるが8),本症例は臨床的寛解を維持していた最中に心筋梗塞を発症している.RA 患者では治療による炎症のコントロールが最も重要であることは論を俟たないが,同時に冠危険因子の減少に努め,心血管疾患の併発に注意して診療に当たる必要がある.(小川 法良)専門医に紹介するタイミング  RA 症例では,炎症のコントロールに努める一方,高血圧症,高コレステロール血症,高尿酸血症,糖尿病,喫煙などの冠危険因子を極力減らす努力が必要である.複数の冠危険因子や大動脈の石灰化病変を認める症例では,循環器内科へのコンサルトが望ましい.喫煙および大動脈での石灰化病変のある症例において,TNF 阻害薬によりRA のコントロールが良好となったものの心筋梗塞を発症した.つまずきポイント引用文献1) 中島亜矢子:関節リウマチ患者の生命予後. リウマチ科, 41: 1-7, 2009.2) Hakoda M, et al: Mortality of rheumatoid arthritis in Japan: a longitudinal study. Ann Rheum Dis, 64: 1451-1455,2005.3) Wang S, et al: Prevalence and extent of calcification over aorta, coronary and carotid arteries in patients withrheumatoid arthritis. J Intern Med, 266: 445-452, 2009.4) Chung CP, et al: Increased coronary-artery atherosclerosis in rheumatoid arthritis. Relationship to diseaseduration and cardiovascular risk factors. Arthritis Rheum, 52: 3045-3053, 2005.5) Govindan KP, et al: A comparative study on serum lipoprotein and lipid profile between rheumatoid arthritispatients and normal subjects. J Pharm Bioallied Sci, 7(Suppl 1): S22-25, 2015.6) Burgmaier M, et al: Serum levels of C-peptide are associated with coronary artery calcification in patients withrheumatoid arthritis. Rheumatol Int, 35: 1541-1547, 2015.7) Barbarroja N, et al: Anticyclic citrullinated protein antibodies are implicated in the development ofcardiovascular disease in rheumatoid arthritis. Arterioscler Thromb Vasc Biol, 34: 2706-2716, 2014.8) Bill A, et al: Tumor necrosis factor α inhibitor use and decreased risk for incident coronary events inrheumatoid arthritis. Arthritis Care Res, 66: 355-363, 2014.