ブックタイトルケースに学ぶ 高齢者糖尿病の診かた

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概要

ケースに学ぶ 高齢者糖尿病の診かた

27.サルコペニアにはどう対応する?  147においても,入院中におけるウォーキング歩数が多い患者では入院中に骨格筋量が低下しやすいことが示唆されている.ウォーキングなどに意欲的に取り組む患者ほど筋肉量が低下するという,期待とは逆の結果を引き起こす可能性があるため,注意が必要である.運動療法には適切な栄養量の摂取を組み合わせることが重要であるとともに,レジスタンス運動の併用など,内容にも注意が必要である. 糖尿病神経障害は筋力や筋肉量の低下に直結し,細小血管障害や大血管障害を合併して日常生活活動度activities of daily living(ADL)が低下すると,サルコペニアが加速する.筋肉量が減ることでインスリン抵抗性が増大し,血糖コントロールの悪化と合併症の進展につながるという悪循環がもたらされる. また,加齢により,食の嗜好の偏りが生じることが多いうえに,食べることが生きがいである場合など,食習慣の行動変容が困難になりやすくなる.さらに,独居や高齢者どうしの同居では,食事の準備自体に困難が生じ,手軽に入手できるものですませる結果,栄養摂取量のバランスが崩れていることもよく経験される.サルコペニアに対する栄養介入としては,ロイシンなどアミノ酸の補充やタンパク質摂取量の増加,ビタミンD の補充などが試みられているが,総じて,栄養介入のみより運動療法との組み合わせのほうが効果的である(図27 -1). 欧州静脈経腸栄養学会 European Society for Clinical Nutrition and Metabolism(ESPEN)の推奨によると,健康な高齢者では1.0~1.2 g/kg 体重/日,低栄養がある場合はそれ以上のタンパク質摂取が望ましく,運動と組み合わせる必要があるとされている.高齢糖尿病患者においても,腎機能や心肺機能上の適応を見極めながら,タンパク質摂取量と運動療法による介入を考慮する必要がある. 本症例は,加齢により活動量が低下してきていること,食事内容の偏りにより栄養バランスが崩れていることによって,サルコペニアが加速していると考えられた.入院6 カ月前の外来では,体重 67.5 kg,体組成(BIA)は,四肢筋量 18.1 kg(6.65 kg/m2),体脂肪率33.0%,握力 25.3 kg(左右平均)であった. 入院までの半年間で筋肉量が低下しているにもかかわらず,脂肪量は増加している.サルコペニアと肥満が併存する状態では,サルコペニア単独や肥満単独よりもさらに予後が悪いことが指摘されているので,注意が必要である. 筆者らの施設の入院患者においては,サルコペニアの患者のなかでも肥満を併発している患者では夜食習慣の頻度が高い傾向がある.本症例も,夕食後に将棋仲間と集まり,飲酒とつまみを摂取するという習慣があり,肥満を誘導していることが考えられる.夜食の診断,病態の読み方筋力・身体能力の低下,骨格筋量の低下運動量の増加適切なバランスと量の栄養摂取図27 - 1 サルコぺニアへの対策