ブックタイトルケースに学ぶ 高齢者糖尿病の診かた

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概要

ケースに学ぶ 高齢者糖尿病の診かた

26.うつ傾向やうつ病にはどう対応する?  143 うつ病に対しては,糖尿病神経障害も合併しているため,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のデュロキセチン20 mg/日を開始した.1 週間後に嘔気がないことを確認し,40 mg/日に増量したところ,2 週間後には両足の疼痛はやや軽減し,うつ症状や疲労感が少なくなり,治療に対する意欲も出てきた. 通常,うつ病の場合には,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のパロキセチン,エスシタロプラムなどや,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のミルナシプラン,デュロキセチンなどの抗うつ薬が用いられる.有痛性糖尿病神経障害を合併している場合は,うつ病と糖尿病神経障害の両者が適応であるデュロキセチンが使いやすい.選択的セロトニン再取り込み阻害薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は服用開始から1 週間後までに嘔気などの消化器症状が出ることが多いので注意を要するが,その後は軽快することが多い.エスシタロプラムを除いて,少量から服用を開始し,1週間以上あけて増量する.これらの薬剤は,効果が出るまで2 週間以上かかる.抗うつ薬を3 ~ 6 カ月間服用することにより,うつ病の改善とともに,HbA1c が0.4%改善するというメタ解析の結果があるが,長期の効果については不明である7).2 疼痛の治療と低血糖リスクの少ない治療 うつの対策としては,疼痛や低血糖などの医学的要因を除去することが大切である.本症例では,糖尿病神経障害に対してデュロキセチンを使用し,疼痛を除くことを行った.インスリン療法において低血糖の頻度が多いとうつ傾向をきたしやすい.また,うつ病は重症低血糖のリスク因子となる8).したがって,本症例のように可能なかぎりインスリン離脱し,低血糖のリスクが少ない薬剤で治療することが大切である.3 心理的アプローチと運動療法 心理的アプローチは中等度の効果がある.傾聴が基本となるが,認知行動療法などが有効であるとされている.また,ストレスに対処できるよう,社会サポートや社会ネットワークを増やすことも大切である.本症例では介護保険を申請し,デイサービスを週2回利用することとした.運動療法も,運動をとおして自信を取り戻し,人とのかかわりが増える本症例のPoint高齢者糖尿病ではうつ(うつ傾向またはうつ病)をきたしやすい.うつ傾向はGDS- 5 またはGDS- 15 でスクリーニングを行い, うつ病は,DSM- 5の診断基準に基づいて行い,とくに抑うつ気分および興味または喜びの消失の症状が大切である.うつと高血糖は双方向の関係があり,有痛性糖尿病神経障害はうつの原因となりうる.うつの対策としては,疼痛や低血糖などの医学的要因を除去し,心理的アプローチと運動療法,必要に応じて抗うつ薬による治療を行う.