ブックタイトルエキスパートはここを見る心電図読み方の極意

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概要

エキスパートはここを見る心電図読み方の極意

40Ⅱ.病気や病態を鑑別する最大QTc? 図5-1を見ると,急性前壁梗塞に比べ,たこつぼ型心筋症では補正 QT 間隔(QTc)が延長していることがわかる.このように,たこつぼ型心筋症では急性前壁梗塞に比べ,最大QTc は延長する.筆者らの検討2)では,平均最大QTc は,たこつぼ型心筋症で567ms,急性前壁梗塞で489ms であった(p < 0. 001).? たこつぼ型心筋症も急性前壁梗塞も急性期の心拍数は速く(心拍数はたこつぼ型心筋症の方が速い),最大QTc の正確な計測はかならずしも容易ではない.たこつぼ型心筋症では確かに“QT 時間が延長している”という印象はもつが,診断・治療が一刻を争う救急現場での診断にQTc を活用するには難しい面があると考える.QTc 延長がたこつぼ型心筋症の診断に活用できるのは,むしろ亜急性期の陰性T 波が深くなる時期である.たこつぼ型心筋症ではこの時期に巨大陰性T 波(giant negative T)を呈し,計測するまでもなく一見してQTc が著明に延長しているとわかる.対側性変化? 図5-1で,急性前壁梗塞では対側性変化としての下壁誘導の ST 低下を認めるが,たこつぼ型心筋症では認めない.たこつぼ型心筋症は急性前壁梗塞に比べ,対側性変化である下壁誘導のST 低下を認めることが少ないとされる.筆者らの検討2)でも,対側性変化(下壁誘導のST 低下)を認めない例は,たこつぼ型心筋症で94%,急性前壁梗塞は51% であり(p =0. 048),下壁誘導でST 低下を認める場合に,たこつぼ型心筋症の確率は低い.左室心基部でST が上昇すると,対側性変化として下壁誘導ではST が低下する.たこつぼ型心筋症では,心基部は過収縮を呈しST 上昇を認めないので,対側性変化も認めない.? しかし,ここで注意しなくてはならないのは,急性前壁梗塞のなかでも左前下行枝の遠位部閉塞例では心基部でST 上昇を認めないので,たこつぼ型心筋症と同様に対側性変化を認めないことである(図5 - 2).実際に筆者らの検討2)でも,急性前壁梗塞の約半数の例は対側性変化を認めなかった.つまり,たこつぼ型心筋症の診断で対側性変化がないことは,対側性変化なし(A)急性前壁梗塞(B)たこつぼ型心筋症心基部は過収縮対側性変化あり左前下行枝近位部(Seg.6)閉塞対側性変化なし左前下行枝遠位部(Seg.7)閉塞閉塞部位閉塞部位図5 - 2 対側性変化左室心基部でST が上昇すると対側性変化として下壁誘導ではST が低下する.たこつぼ型心筋症では,心基部は過収縮を呈しST 上昇を認めないので,対側性変化も認めない.しかし,急性前壁梗塞のなかで左前下行枝の遠位部閉塞例では,心基部でST 上昇を認めないので,たこつぼ型心筋症と同様に対側性変化を認めない.