ブックタイトル多職種で取り組む食支援

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概要

多職種で取り組む食支援

75Ⅲ.強制栄養と看取りをめぐって家族: テレビなどで「胃ろうはだめ」というのをみました.かわいそうなので胃ろうはやめてください.でも,何もせずに死んでしまうのはかわいそうです.どうしたらよいでしょうか.医師: では,胃ろうはやめて,鼻から管を入れて栄養補給をしましょう. このやり取りはやや脚色を加えてはいるが,現在の日常診療において,よくみられる光景である.このやり取りをみて,どのように感じるだろうか.ここには胃ろうの適応に関するさまざまな問題点が垣間みえる.順を追って説明してみよう.「食べられない」=「終末期」? Ⅱ この事例は認知症の終末期として話が進んでいる.認知症の終末期の方に対する経腸栄養は生命予後を改善しない可能性が指摘されており1),それに端を発して,胃ろうに関して慎重に対応しないとならないという議論は存在する.食べられなくなったら胃ろう以外の選択肢はない,としてやみくもに胃ろうが造設されることよりも,議論ができる状況は悪いことではない.しかし,「認知症の方の食べない」=「終末期」=「胃ろうの適応に関して議論」という極端なことが起こってはいないだろうか.一時的に体調不良で食べないだけの認知症患者も安易に終末期とされ,胃ろうに関しての意思決定を家族に迫る,という状況が起こってはいないだろうか.胃ろうの適応に関して慎重になるべきなのは,十分な経口摂取が到底望めない,真の終末期認知症の方であり,真の終末期にあるのかどうか,という議論が最も重要となるはずであるが,なぜか「胃ろうという手技をするかどうか」という議論に終始してしまう.一歩踏み込んで,認知症の食べない,という状態を客観視し,真の終末期かどうかを議論する必要があるだろう.ステージアプローチⅢ 認知症の終末期の状態を論じる際に,FAST(functional assessment stages,図Ⅲ-1-1)2)が威力を発揮する.これはアルツハイマー型認知症の進行に関して各ステージで起こり得ることをまとめたものである.アルツハイマー型認知症の方は,できないことが順序立てて増えてくるために,次に起こり得ることが予測できる.典型的なアルツハイマー型認知症の経過は,年齢相当の物忘れから始まり(FAST 2),進行すると熟練を要する仕事で支障が生じ始め,境界状態に至る(FAST 3).その後,家計の管理などで支障が生じる軽度アルツハイマー型認知症に至り(FAST4),洋服を選んで着られなくなるまで進行すると,中等度アルツハイマー型認知症の段階に至る(FAST 5).その後,入浴ができなくなり,失禁が生じるやや高度の段階に至り(FAST 6),その後,言語機能の低下,歩行障害が進行する(FAST 7).FAST 7はさらに分類され,表出される明瞭な単語が制限され(FAST 7aでは6単語以下,FAST 7bでは1単語以下),移動ができなくなり(FAST 7c),坐れない(FAST 7d),笑えない(FAST 7e),頭部保持ができない(FAST7f)へと進行する. アルツハイマー型認知症の方は脳血管障害や骨折など,付随する要因がなければ,おおむねこ