ブックタイトル危険なサインの謎を解く

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概要

危険なサインの謎を解く

危険なサインと全体イメージ3急変とは? 予兆とは? 「急変」とは「患者の容態が急激に変化し,生命の危険が切迫すること」と表現できる.多くの場合,急変の少なくとも6?8時間前には予兆があると言われている.「予兆(あるいは前兆)」とは「未来に起こるべき事柄を予知させる現象(デジタル大辞林)」のことであり,この「現象」が予知するための手がかり(サイン)である.「予知」には「あまり明確ではない」というニュアンスが含まれているので,本書では「予兆」を「近い未来に起こりそうな生命の危険を示唆する,あまり明確でない手がかり(サイン)」という意味で使う.本書でいう危険なサインとは「急変を予知させる手がかり(サイン)」であり,「明確な手がかり」もあれば,「あまり明確でない手がかり」,つまり「予兆」もある.全体イメージとサバイバルシステム 危険なサインは明確に言語化することはできない.一方で言語化にこだわり過ぎると,その本質(全体イメージ)から遠ざかってしまう.そこで,危険なサインのなんたるかを,言語化にこだわり過ぎることなく「あぶり出す」ためには,危険なサインが発露するダイナミックな因果関係を知ることが有効である.「因」とは全身状態の悪化であり(詳細は第Ⅱ章p.17),「果」とは全身状態の悪化を阻止するために患者が抵抗する様子である(全体イメージ).身体が「因」に対して抵抗する「仕組み」を通して,「果」として発露する危険なサインの本質,すなわち全体イメージを各自が思い浮かべるのである.この「仕組み」を本書では「サバイバルシステム」と呼ぶ.これは全体イメージと並んで,本書の重要なキーワードとなる. 人間の脳にはサバイバルシステムの「ソフトウェア(システム中枢/サバイバルプログラム)」が生まれたときからインストールされている.この「ソフト」に対応するのが「全身」という「ハードウェア(効果発現器)」である.この「ソフト」と「ハード」が有機的に絡み合って,サバイバルシステムという「全体」となる.サバイバルシステムは,身体の「外」や「内」に発生した危険に対して,生き残るチャンスを高めるようなサバイバルプログラム(行動,言動,生体反応など)を,迅速かつ自動的に実行させる(図1)* 1.行動や言動によって危機的状況に「適応」し,生体反応によって体内の異変に「抵抗」する*2.*1:人間を含む動物には,生き残りを目指す本能が備わっており,これを「情動」という.情動と言えば,一般的には喜怒哀楽のような「主観的」感情と思われがちだが,脳神経生理学で言う情動は危険に適応するためにプログラムされた「客観的」な反応/行動のことを指す.つまり情動こそがサバイバルシステムである.*2:脳神経科学者のジョセフ・ルドゥーは,「われわれが情動でひどく苦しんでいるとき(=サバイバルシステムが強く活性化しているとき)には,それは何か重要なこと,おそらく生命をおびやかすことが起こっているからであり,脳のもつ資源と手段の大部分はこの問題に費やされる.情動(=サバイバルシステム)は,一つの目標(=生き残り)にすべてが向けられた嵐のような活動を引き起こす」と言っている.