ブックタイトル認知症でお困りですか?かかりつけ医の疑問にお答えします
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認知症でお困りですか?かかりつけ医の疑問にお答えします
患者・家族への指導179なってくるのは仕方がない.場合によっては,家族には疾患名を含めて説明するが,患者には疾患名までは告げずに病態の説明や生活指導だけをお話しするという選択肢もあり得る. 認知症に罹患すると,患者さんと周囲との関係性がそれまでとは異なったものになってくる.極端な場合,それまでは周囲に対して指導的な立場であった人が,いつのまにか周囲に疎まれる厄介者になってしまうのである.家庭でも地域でも職場のなかでも,こうした社会的立場の逆転が,患者さんの抑うつ,不安,反発,疎外感,寂寞感,焦燥感などの原因となり,ひいては妄想や攻撃性などの行動心理症状(BPSD)につながっていることも多い.こうした意味で,認知症は本人と周囲との「関係性を破壊する」病気なのである.したがって,破壊された心理的関係性を修復することが治療の大きな眼目になる.関係性の修復に役立つような「説明指導」を心がけるべきである. 患者さんに理解能力がほとんどない場合は,本人に対する病名の説明の是非を論じる必要はないかもしれない.しかし,かなり進行した認知症でも,自分のことについて肯定的に述べられているのか,あるいは否定的なのかは理解できる場合が少なくないので,家族への説明にも注意が必要である.本人の前で病気を正直に話してもよいケースが多いが,その説明のなかでも常に本人をほめるような配慮が求められる. 認知障害としてはさほど重度ではないが,周囲に反発があり,「私はぼけてなんかいない」と突っ張っていたり,物盗られ妄想などの被害妄想が強かったりするときに,どのように説明するかは重大な問題であろう.正面から「あなたはアルツハイマー型認知症です.物を盗られたと思うのはあなたの妄想です」と説明しても,事態は逆に悪化することが予想される.こうした場合は,本人の訴えを正面からは否定せず,まだまだ脳はよく働いていることを認めたうえで,「物忘れについては少し病的なので対策が必要です」といった説明にとどめたほうがよいことも多い.家族には周囲に反発したくなったり,被害妄想的になったりする本人の心理状態(不安感や疎外感,寂しさ)について説明し,対応をしっかりと説明する. まだ理解力も保たれた軽度の認知症に対しては,病名も含めて病態を正直に説明することが多い.ただし,説明のなかで認知症でも保たれる機能を強調し,さらにはけっして人間としての価値が減じるわけではないこと,たとえ今後周囲の人の世話になったとしても人としての尊厳や生きてきた歴史は失われないことなど,肯定的な面を強調すべきである. 家族への説明指導が認知症診療の最も大切な事項の1つである.著者が行っている家族への説明の要点を以下に列挙する. ① 患者さんの病気は予防法も根治的治療もない難病である.したがって,発病は本人の責任でも家族の責任でもない. ② 病識がないようにみえる場合でも,患者さん本人は周囲との関係性の変化に戸惑い,気後れや焦り,不安を感じていることが多い.患者さんに対する説明の要点家族への説明の要点