ブックタイトル医動物学 改訂7版
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医動物学 改訂7版
152 衛生動物Ⅰ .日本紅斑熱 Japanese spotted fever 【歴史と疫学】 紅斑熱群リケッチア症はロッキー山紅斑熱など世界各地に存在するが,わが国では知られていなかった.ところが1984 年,馬原註1 は初めて徳島県で紅斑熱患者を発見し,1987 年に日本紅斑熱と命名した.また内田ら註2(1986)は患者から病原体を分離しRickettsiajaponica(図376)と命名した. その後,調査が進むにつれて患者数は増加し,2016 年末までの届け出数は,三重341,和歌山215,鹿児島205,広島204,高知203,熊本163,島根161,愛媛119,徳島105,兵庫98,千葉95,宮崎89,長崎62,鳥取31,香川25,佐賀19,岡山・福岡15,大阪12,山口10,大分8,静岡6,東京・神奈川・愛知5,京都・沖縄・福井2,青森・宮城・福島・埼玉・栃木・長野・新潟・奈良,各1 例,合計2,230 例となっている.これを見ると本症は関東以西の太平洋側に多い傾向がある.また年々症例が増加しており,最近5 例の死亡例も報告された. 【症 状】 ヒトが藪や畑に入りダニに刺されてから2 ~ 8 日の潜伏期の後,高熱をもって発病する.次いで皮膚に特徴的な紅斑が現れ,よく観察するとダニの刺し口がある.この発熱・紅斑・刺し口を本症の三大徴候とする.さらに症状の特徴を述べると次のごとくである. 1.発熱:2 ~ 3 日不明熱が続いた後,悪寒戦慄,頭痛,筋肉痛などを伴って高熱を発する.重症例では40℃以上の高熱が数日間も持続することがある. 2.皮膚の紅斑erythema:高熱と共に紅斑が現れる.これは米粒大~小豆大で,境界不鮮明で痛みや痒みはなく全身に現れるが,とくに四肢,なかでも手掌に顕著に現れるのが特徴である(図370,371).この紅斑はその後一部出血性となるが2 週間くらいで消退する. 3.ダニの刺し口eschar:患者の四肢や首などに1 ~2 週間にわたって認められるが,やや小さく,数日間で消失することもあり見逃されやすい(図373,374). 4.臨床検査所見:血液検査所見ではCRP は強陽性,血小板減少などがみられる.白血球数には著変はないが好中球の増加と核の左方移動がみられる.また尿蛋白陽性,肝機能障害を示すこともある.重症になると意識障害,播種性血管内凝固(DIC)などを起こす例もある. 5.患者の年齢・性別:患者は両性の全年齢層にわたっているが,50 歳以上の中高年層の女性に多い.これは仕事上,感染の機会が多いことによると思われる. 【診 断】 発病前の行動(山野への立ち入りなど)を注意深く問診する.上記の症状や検査所見に注意すると共に免疫血清診断を行う.間接蛍光抗体法(図376)や免疫ペルオキシダーゼ反応が行われている.しかし本症は急激に発症し免疫反応が陽性に出る以前に増悪する場合があるので,症状から本症が疑われれば直ちに治療を開始することが肝要である. 恙虫病との鑑別診断 本症は種々の点で恙虫病と類似している.主な鑑別点は,①本症は主として関東以西の諸地域で4 ~ 10 月の候に継続して発症するが,恙虫病は東北・北陸では5 月,関東以西では11 月が発生のピークである.②本症では紅斑が四肢とくに手掌部に現れるが恙虫病では体幹が主で四肢には少なく手掌には見られない.③ダニの刺し口は恙虫病では顕著であるが本症では軽微である.④恙虫病では所属ならびに全身のリンパ節腫脹や肝・脾腫が見られるが本症では稀である. 【感染経路】 本症がマダニによって媒介されることは推定されていたが,1999 年,馬原ら註3 は重症例の血液からR. japonica を分離し,同時に本患者が感染したと思われる場所で採集されたキチマダニHaemaphysalisflava(図375)から病原体を分離した.この他フタトゲチマダニ,ヤマトマダニ(図372,380),ヤマアラシチマダニ,タイワンカクマダニからも分離された. 【治 療】 テトラサイクリン系の抗生剤(ドキシサイクリンやミノサイクリン200 ~ 300mg/日,治癒まで投与)が著効を示す.ペニシリン系,βラクタム系,アミノ配糖体系などは無効.また恙虫病には無効のニューキノロン系薬剤が本症に有効であることがわかり上記薬剤との併用が推奨されている.Ⅱ .野や兎と病 Tularemia 本症はFrancisella tularensis という細菌の感染によって起こる急性熱性疾患で世界に広く分布する.わが国では1924 年に大原八郎が福島県で初めて発見し,以後,現在までに千数百例報告されたが最近は減少した. 感染経路はマダニの刺咬,野兎の屍体の処理,?皮,調理,食用などの際の経皮感染による. 症状は頭痛・高熱・リンパ節腫脹で,これらの症状ならびに免疫反応により診断する.ストレプトマイシンやテトラサイクリンが有効である.マダニが媒介する疾患[A]日本紅斑熱および野兎病日本紅斑熱は1984 年にわが国で発見された新興感染症の一つで,その後,年々症例が増加している.本症はマダニが媒介するリケッチア性疾患で,高熱,皮膚の紅斑,ダニの刺し口などを主徴としている.野兎病は細菌性疾★★★ 患でダニが媒介する場合がある.両疾患とも感染症新法では 4類に指定されている.84sanitary zoology