ブックタイトル医動物学 改訂7版

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概要

医動物学 改訂7版

20 原 虫 類Ⅰ .大腸アメーバ Entamoeba coli 大腸アメーバはその形態が赤痢アメーバに似ているが,腸の組織に侵入したり,他の臓器に転移したりする性質はなく,専ら大腸粘膜上で生活している.したがって病原性はない.世界中に広く分布しており,非衛生的な環境では寄生率は20 ~ 30%と高い.わが国では最近少なくなったが赤痢アメーバとの鑑別上大切である.鑑別点は表5(19 頁)にまとめてある.本虫はヒトの他にサル,イヌなどにも感染している. 感染者の下痢便の中に栄養型がみられる.栄養型の大きさは15 ~ 50μm,図25-A,27 に示すごとく,赤血球を捕食しておらず,その代わりに雑菌を捕食している点,カリオソームが核の中心を外れている点などが赤痢アメーバとの主な鑑別点である(表5). ?子は通常,有形便の中にみられ,直径15 ~ 20μmと赤痢アメーバより大きく,生鮮標本をみると円形・油滴状で,中の核がかすかに見える(図28).ヨード染色標本あるいは永久染色標本を作ってみると,成熟?子は8 核を有し,カリオソームはやはり核の中心を外れているのが分かる(図25-B,29,30).また永久標本で幼若?子を見ると,類染色質体は両端が尖り裂片状を示す. 感染方法・発育史などは赤痢アメーバとほぼ同様であるが,病原性がないので強いて駆虫する必要はない.Ⅱ . ハルトマンアメーバEntamoeba hartmanni 赤痢アメーバによく似ているが?子の直径が約10μmと小さい.従来,赤痢アメーバの小型株とされてきたが,赤血球を取り込まず,病原性もなく,核の構造もやや異なるので独立種とされる(図25-C,D,31).Ⅲ .歯肉アメーバ Entamoeba gingivalis 歯肉アメーバはヒトの歯肉部に寄生しているが大した病原性はない.栄養型の大きさは10 ~ 20μm,偽足を出して活発に運動する(図25-E).本虫は栄養型だけしか見い出されておらず,感染は直接接触すなわち接吻によると考えられる.Ⅳ .小形アメーバ Endolimax nana 小形アメーバはその名の示すごとく大きさは栄養型6 ~ 15μm,?子5 ~ 8μm と小さい(nana は小形という意味).栄養型(図25-F,32)は大腸粘膜上に寄生し,組織侵入性はなく,したがって病原性はない.成熟?子は4 核を有する(図25-G,33).Ⅴ .ヨードアメーバ Iodamoeba butschlii ヨードアメーバの特徴は,?子に大きなグリコーゲン胞があり,ヨード染色をするとそれが赤褐色に染まることである(図36).永久標本ではこの部は大きな空胞として認められる( 図25-I,35). 栄養型の形態は図25-H,34 のごとくで大きさは6 ~ 25μm である.?子の大きさは6 ~ 15μm である.大腸に寄生し,病原性はほとんどない.Ⅵ . ヒトブラストシスチスBlastocystis hominis 従来,ヒトの糞便検査をしていると時々これが検出され,非病原性の酵母の一種と考えられ,アメーバの?子と間違いやすいので注意を要するとされてきた.ところが最近,これは原虫の一種であり,時に下痢の原因となることが知られてきた. 形態は図25-J,26,37,38 に示すごとく,直径8 ~32μm の球形で,中に大きな空胞があり,細胞質は周辺に押しやられ,その中に1 ~ 2 個の核とミトコンドリアが存在している.感染は感染者の糞便中の虫体が口にはいることによる. 本虫の感染状況について最近,筆者らが調べたところによると,京都市内某病院患者1,079 名中15 名(1.4%),大阪市内某病院患者1,506 名中12 名(0.8%),京都市内某知的障害者入所施設122 名中21 名(17.2%),外国人旅行者14 名中11 名(78.6%)とかなり高い.また米国の同性愛男性の感染率は50%以上であるという. 治療にはメトロニダゾールやスルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST 合剤)などが用いられるがなかなか根治し難い(第26 項参照).その他の消化管寄生アメーバおよびヒトブラストシスチスヒトの消化管の中には赤痢アメーバの他に数種のアメーバの寄生が知られている.これらはほとんど病原性はなく,かつ現在わが国では感染率も低いが,赤痢アメーバとの鑑別上重要なものがある.またヒトブラストシスチスはアメーバの類ではないがアメーバの?子によく似て間違いやすく,かつわが国でも寄生率がかなり高く,ときに下痢の原因になるのでここに含めて述べる.★6protozoa