ブックタイトル戸田新細菌学 改訂34版
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戸田新細菌学 改訂34版
540 ウイルス学総論?B.細胞レベルの癌化(トランスフォーメーション) ウイルスによる癌の研究は,動物に癌を起こすことで発見された癌ウイルスの多くが,培養細胞に接種したときに細胞の異常な増殖を起こす能力も持っていることが示されたことによって促進された.動物の体内から取り出した初代培養細胞は,一般に数10 回分裂すると寿命がきて死滅する.しかし,癌ウイルスを感染させた細胞は死滅せずに無限に分裂を続ける,すなわち不死化immortalization する.そのほかにも,表Ⅳ?6?2 に示すような正常な培養細胞には見られない種々の性質を持つようになる.これらの性質はすべて細胞の異常な増殖能を反映している.細胞がこのような性質を持つようになることをトランスフォーメーションtransformation と呼ぶ.トランスフォームした細胞は,接触阻止contact inhibitionが起こらないため,隣の細胞と接触しても重なり合って増殖を続け,フォーカスfocus を形成する(図Ⅳ?6?1).また,癌ウイルスがフォーカスを形成する能力を指標としてウイルスの定量を行うことができる(図Ⅳ?6?2). 以下に詳しく述べる通り,ウイルスによる発癌の主なメカニズムは,細胞周期cell cycle の調節異常とアポトーシスapoptosis の抑制である.これらのメカニズムは,初めウイルスによる癌で明らかにされたが,その後の研究でほかの原因による癌でも同様のことが起こっていることがわかった.細胞は,DNA 複製をするS 期,細胞分裂をするM 期およびそれらの間のG1 期,G2 期からなる細胞周期を持っており,このG1?S?G2?M の各期の開始と進行は厳密に調節されている.そのような調節には,細胞の増殖を起こすためのシグナル伝達経路と,逆に不要な増殖を抑制する経路(pRB やp53 などの癌抑制遺伝子産物が関与)の両方がかかわっている.また,細胞にDNA 損傷やストレスなどの異常が生じると,アポトーシスによる細胞死を起こして異常な細胞を除去する仕組みが備わっている.癌ウイルスが感染することにより,正常細胞が持つこれらの細胞増殖調節やア表Ⅳ?6?2.癌化(トランスフォーム)した細胞の特徴・無限に増殖できる(不死化immortalization)・細胞飽和密度の上昇・接触阻止が欠如し,重なり合って増殖・低濃度の血清(増殖因子)を含む培養液中で増殖可能・ 軟寒天培地中に浮遊した状態で増殖可能(anchorage?independent)・形態の変化・感受性の動物に接種すると腫瘍を形成図Ⅳ?6?1.ウイルスによりトランスフォームした細胞ポリオーマウイルスSV40 を感染させて2 週間後のラット由来線維芽細胞株3Y1 を染色した.正常細胞の部分(右側)は1 層の細胞からなり,接種阻止の状態にある.濃染した部分(左側)はトランスフォームした細胞のフォーカスで,細胞が多層に重なり合って密に増殖している.(木村元喜 博士 提供)