ブックタイトル戸田新細菌学 改訂34版

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戸田新細菌学 改訂34版

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戸田新細菌学 改訂34版

366 細菌学各論?バシラス属 Genus Bacillus バシラス属はグラム陽性で,好気性ないし通性嫌気性の芽胞形成桿菌で構成される.多くは周毛性鞭毛を有し,長い連鎖をつくることがあり,コロニーはR(rough)型を呈する.ほとんどの菌種はカタラーゼ陽性である.細胞壁ペプチドグリカンは,少数の例外を除いて,直接架橋のmeso?ジアミノピメリン酸(meso?DAP)である.2009 年の『Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology,Vol. 3』では30 の菌種が記載されている.多くは土壌中に生息し,非病原性である.主な病原菌として,炭疽を起こす炭疽菌B. anthracis と,食中毒を起こすB. cereus がある.そのほかの菌種はときに日和見感染を起こす.1.炭疽菌Bacillus anthracis 炭疽菌は,炭疽anthrax の病原菌としてコッホ(R. Koch)が分離し(1876 年),この発見によりコッホの4 原則を確立した.次いでパスツール(L.Pasteur)がその弱毒生菌による家畜用炭疽ワクチンの実用化に成功した(1881 年).コッホの4 原則とワクチンの創製は,黎明期の細菌学史上特記される事柄である.後述する皮膚炭疽の場合,病変部に炭のような痂皮ができる.これが炭疽と呼ばれるゆえんである(anthrax はギリシャ語で炭の意).本菌はその病原性,芽胞の耐久性と培養・運搬・散布の容易さなどから,生物兵器biologicalweapon として密かに研究されてきた菌の一つである.1950~1960 年代にアメリカで兵器化され,イラクや旧ソビエト連邦でも保有されていた.1979 年4~5 月に旧ソ連のスベルドロフスクSverdlovsk(現エカテリンブルグEkaterinburg)で陸軍生物施設からB. anthracis の芽胞が漏洩し,96 人の患者が発生し,少なくとも64 人が肺炭疽で死亡した1).また,2001 年9 月のアメリカ同時多発テロ事件に引き続き起こった,炭疽菌の芽胞を混ぜた白色粉末郵送による生物テロ(バイオテロ)は,世界中をパニックに陥らせた.このバイオテロにより,2001 年10~11 月に,アメリカでは10 人の患者が発生し,そのうち2 人が死亡したことが報告されている2).【形態と染色性】 大きさは1.0~1.2×10μm で,病原菌中最大の桿菌である.両端は竹の節を直角に切断したように見える.生体内では単独または短い連鎖状であるが,培養菌は長い連鎖を形成する.バシラス属のなかでは数少ない無鞭毛・非運動性菌である.生体内ではD?Glu の重合体(ポリペプチド)からなる莢膜をつくる.莢膜が多糖体でない点が特異である.菌体の中央付近に卵円形の芽胞を形成する.グラム陽性である(図Ⅲ?12?1,2). 16S rRNA の塩基配列に基づく分類体系における最上位の分類群(フィラム)23 グループのうち,グラム陽性菌の大部分はFirmicute(s 固い殻を持つ細菌の意で,細胞壁の構造に由来)に所属する.グラム陽性菌はDNA のG+C 含量が低い群(25~50 mol%)と高い群(52~80 mol%)に分けることができる.低い菌群には,本章で記載するバシラス属Bacillus のほかに,嫌気性有芽胞桿菌からなるクロストリジウム属Clostridium や,ブドウ球菌属Staphylococcus,レンサ球菌属Streptococcusおよびエンテロコッカス属Enterococcus などの球菌類が含まれる.12炭疽菌とバシラス属の細菌