ブックタイトル器官病理学

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器官病理学

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概要

器官病理学

胞極性の消失などがみられる.これらの特徴は細胞の増殖スピードが速ければ速いほど顕著になる.in vitro での増殖形質も腫瘍細胞と正常細胞とでは大きな差をみせる.これは活性型癌遺伝子などがNIH3T3細胞などをトランスフォーム(形質転換)させると明瞭に観察される.トランスフォームした細胞にみる特徴を以下に列記する.①接触阻止contact inhibition からの解除,piling up能の獲得② 軟寒天培地でのコロニー形成能,足場非依存性増殖能anchorage independent growthの獲得③ヌードマウス,SCIDマウスでの増殖能の獲得④培養単位面積当たりの細胞数saturation density の増加⑤ 血清要求性の低下細胞が完全に腫瘍化したか否かは,一般的に①?③の形質を獲得したかでほぼ判別可能である.ただし,特定の細胞,例えばNIH3T3などは長期間培養を続けていた場合,接触阻止が一見解除されたようにみえる.他方,足場非依存性増殖とヌードマウスでの造腫瘍性はよく一致し,足場非依存性増殖は細胞の腫瘍化のすぐれた指標として使用されている.ヌードマウスはNK活性が高く,腫瘍化した細胞が高いNK 感受性をもつ場合などは,ヌードマウスで造腫瘍性をみせない場合もあるが,これらはむしろ例外的である.注意しなければならないのは,これらの細胞腫瘍化のメルクマールはあくまで相対的なものであることである.ヒトの腫瘍組織からとられた腫瘍細胞は実験腫瘍同様な増殖スピードを示すものもあるが,これらは例外的であり増殖スピードも遅く,足場非依存性増殖もみせない場合もある.ヌードマウスでの造腫瘍性も低く,発育に3?4 か月と長期間を有することもある.ヒトの患者の実際の腫瘍もこのような増殖スピードを示す程度のものが多い.すなわち,腫瘍化といってもその形質のスペクトルは幅広いものであり,腫瘍としての形質の発現程度はall or noneではないと理解すべきである..癌幹細胞と分化,増殖腫瘍は通常,分化度や異型度が一見して異なるさまざまな細胞より構成され,いわゆる多様性,多種性heterogeneityを特徴としてもつ.最近では,腫瘍には癌幹細胞cancer stem cells が存在し,これがマスとしての腫瘍を構成する基本的細胞となっていると考えられている.その特徴としては,次の①?④があげられる(図10-2).① 腫瘍性増殖能cancer initiating ability② 自己新生能self-renewal ability③ 多分化能multilineage differentiation capacity④ 非対称性増殖能asymmetrical proliferation今日まで同定された癌幹細胞は放射線や化学療法薬に強い抵抗性をもつこと,また表面マーカーとしてCD133やCD44 が陽性のものが多いこともその特徴として知られている.したがって特に癌治療の側面から癌幹細胞を標的とすることは合理的であり,種々の腫瘍で実体の解明がなされるべきである.C.腫瘍の生物学的特徴163図10-1 正常胃粘膜と胃癌a.正常胃粘膜,b.胃腺腫,c.高分化胃腺癌,d.中分化胃腺癌,e.低分化胃腺癌,f.未分化胃癌