ブックタイトル器官病理学

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器官病理学

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概要

器官病理学

が大きく影響している場合があり,腫瘍発生の分子機序の解明や腫瘍予防と行政対策などと著しくかかわっていることが少なくないからである.近年では地球環境的な側面も加わり,重要性を増している..癌死亡率わが国における癌死亡率はいまだ増加傾向を示している.総死亡数は2000年で295,484人,2004年で320,334人とされている.1980 年代に死因別死亡率の第1 位になり,第2 位に心疾患,第3 位は脳血管疾患が今日まで続いている.欧米では死亡率1 位は心疾患で,癌は第2位を占める国が多い..臓器別癌死亡率大島らがまとめたわが国の癌死亡率の経緯と2020 年までの死亡率予測をみると,男性では1980,1990 年代は胃癌が死亡率第1 位であったが,減少傾向を示し,今日,肺癌に置き換わった.これに続き肝癌,胃癌あるいは結腸癌が第2,3 位を占め,将来的にはこれらの癌に加え,前立腺癌や膵癌が死亡率上位の癌となると予測されている.女性では胃癌,肺癌,乳癌,結腸癌が上位を占めているが,男性同様,胃癌は減少傾向を示している.将来的には肝癌,膵癌も増えてくると予測されている.C 腫瘍の生物学的特徴腫瘍はいくつかの段階を経てその悪性という生物学的特徴を示す.それらはトランスフォーメーションといわれる細胞の悪性形質転換,増殖,浸潤そして他臓器転移である.分子レベルでこれらの各段階のメカニズムがかなり解明されてきているが,これらの形質は病理組織学的所見により最もよく理解される..分化と退形成細胞は分化differentiation することにより組織形成し,正常機能を発揮する.腫瘍はさまざまな程度の低い分化度,異型性atypia を示す.同じ腫瘍組織内でも異なる分化と異型度をみることが少なくない.母細胞が何であるか同定できなくなることもしばしばである.このような腫瘍細胞の形質を退形成anaplasia という.これら分化,退形成は下記の形態学的特徴によりとらえることができる..多形性pleomorphism:個々の細胞や核の大きさ,形の多様な特徴を示す..核異型nuclear atypia:腫瘍では核の異型がとりわけ著しいことが多い..細胞分裂mitoses:細胞分裂は悪性腫瘍の特徴として腫瘍の多くで認められる..極性polarity消失:正常細胞のもつ極性,すなわち核の配置や,細胞の方向性などが腫瘍では乱れを示す..異形成dysplasia:上皮性組織は規則的な組織構築を示すが,これらの乱された増殖性変化を異形成という.すなわち個々の細胞の均一性の消失と組織構築の不規則性,不定形性を意味する.高度になれば上皮内癌carcinomain situ であり,進展すると浸潤癌invasive carcinomaとなる.図10-1a?fには正常胃粘膜,胃腺腫,高分化胃腺癌,中分化胃腺癌,低分化胃腺癌,そして未分化胃癌を示す.上記にあげた各特徴が正常?未分化癌になるに従って著しく増しているのがわかる..増殖速度1 個の腫瘍細胞が1 g の重量になるには109,つまり30 回の分裂を経る.1 kg(1012個)になるにはさらに10回の分裂が必要である.一般的に腫瘍細胞の増殖速度は分化度と関係し,悪性腫瘍では正常組織,良性腫瘍より速いと考えられている.これは,細胞が2倍に分裂する時間(ダブリング時間),分裂期にある細胞数,腫瘍に出入りする細胞の割合などに依存する.腫瘍細胞は正常細胞に比べG1-S-G2-M という細胞周期でG1 期が短いが,一度細胞周期が回り始めると細胞周期終了に要する時間は正常細胞に比べ必ずしも短いとは限らない.むしろ増殖期にある細胞の割合が明らかに多いと考えられる.腫瘍では増殖過程でアポトーシスを示す細胞もあるが,むしろアポトーシス抵抗性を付与されている細胞が多いと考えられている.すなわち結果として細胞数の増加が上回り,腫瘍というマス形成をきたすと思われる..腫瘍のin vitro での特徴腫瘍細胞は細胞レベルでも正常細胞と比較し,大きな特徴を示す.光顕的,電顕的には,通常,著明な細胞異型,核輪郭の不整,核小体の増大,核細胞質比の増加,細胞質小器官の著明な減少,遊離リボソームの増加,細162 第10 章腫瘍