ブックタイトル幹細胞研究と再生医療

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概要

幹細胞研究と再生医療

46Ⅰ.幹細胞の性質と制御らかにされてきた.新規の培養法とその解析が両軸となり,研究は一歩一歩進んできたといえる. 基本的には,増殖因子やサイトカインを加え,Stat3シグナルを活性化させ,Oct3/4やNanog といった未分化に関連する転写因子を発現させることで,マウスES 細胞をより安定して未分化に維持するということが培養法開発の進んできた方向であった. この流れを変えたのが,2008 年A. Smith らにより報告された,MEK(mitogen-activated proteinkinase kinase,MAPKK)の阻害剤PD0325901(PD03)とGSK3βの阻害剤CHIR99021(Chiron)を加えた2i 培養法(2 inhibitors culture)であった(p.47,解説コラム 参照)8).ES 細胞は分化の引き金となるFGF4 を自己分泌しており,分化を引き起こしていくと考えられている.PD03 を用いてFGF シグナル下流のMEK を抑制すると,ES 細胞は未分化状態を維持し自律的に増殖しうるということをマウスES 細胞とEpiS 細胞を比較し,生命の萌芽である初期エピブラストの性質をより忠実に示しているマウスES 細胞をナイーブ型多能性幹細胞と分類し,より発生が進み,分化に足を踏み入れた細胞として,EpiS 細胞をプライム型幹細胞と分類することを提唱した(p. 46,解説コラム 参照)7).4-3 新規マウスES 細胞培養法─ 2i 培地─1.2i培地とは マウスES 細胞の培養法は,1981 年の樹立時にはフィーダー細胞と血清というブラックボックスの培養系に基づいていた.その後,フィーダー細胞を取り除き,さらには血清を除き,しだいに組成が明らかな培養条件に培養法は進化してきた.より単純化された培養条件下でES 細胞は解析され,未分化状態に必要なシグナルや転写因子が明解説コラム霊長類ES/iPS細胞 ヒトやサルなどの霊長類のES 細胞は着床前の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されるが,LIF や2i 培地ではなく,bFGFとアクチビンを用いて樹立される.遺伝子プロファイルもマウスES細胞よりマウスEpiS細胞に近い発現を示す.霊長類ES 細胞は2i培地あるいは2i+ LIF 培地では維持できないことがわかっており,ナイーブ状態とは異なり,プライム状態ではないかと推測されている.すなわち,霊長類ES 細胞とマウスES 細胞は同じES 細胞という名称がつけられているが,性質が異なっている可能性がある.ヒトiPS 細胞もヒトES 細胞と同様にbFGF とアクチビンで樹立・維持されているため,プライム状態である可能性がある.他の動物種では,ウサギES 細胞も霊長類と同じbFGF とアクチビンで樹立・維持されている.ナイーブ型多能性幹細胞,基底状態とプライム型多能性幹細胞 マウスにおいて,異なった発生段階の多能性幹細胞が樹立されている.マウスES 細胞は胚盤胞(ブラストシストblastocyst)の内部細胞塊や着床前の初期エピブラストに由来し,初期エピブラストに近い状態で維持される多能性幹細胞である.もう1 つの多能性幹細胞であるマウスエピブラスト幹細胞(EpiS 細胞)はマウスの着床後の胚(エピブラスト)よりbFGFとアクチビンを用いて樹立された.両者とも多能性を示す幹細胞としての特徴をもつが,形態,能力,遺伝子プロファイルが異なっていることがわかっている.2009 年にA. Smith らによってこの2 つの多能性幹細胞の分類が提案された.ES 細胞は生命の萌芽に合致した分化・発生刺激の加わっていない無垢な状態の細胞であり,ナイーブ型(naive)多能性幹細胞として分類され,EpiS 細胞はすでに発生・分化刺激が入ったプライム型(primed)多能性幹細胞として分類された.ナイーブ型多能性幹細胞のうち,2i 培地で培養される均一で安定した状態を基底状態(グランドステート)とよび,血清+ LIF で培養される2i 培地に比べると不均一な多能性状態を準安定状態metastable state と分けることもある.また別の胚由来多能性幹細胞として,始原生殖細胞(PGC)に由来する胚性生殖細胞embryonic germ cell(EG 細胞)がある.EG 細胞は2i 培地で培養することが可能で,基底状態の細胞に近いと報告されている.