ブックタイトルZEROからの生命科学 改訂4版

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概要

ZEROからの生命科学 改訂4版

3.遺伝子の本体・DNA の構造1116遠沈管の底に沈んだのです. 挿入されたファージのDNA は大腸菌内で発現し,大腸菌内外の材料を使って数百の子ファージを作り出します.その際,ファージのDNA は複製されて子ファージ内に収まり,タンパク質でできた外殻もファージDNA によって合成されます. 1940 年代の後半になると,微小重量(pg:ピコグラム= 10?12 g)を測定できる技術が開発され,生殖細胞中のDNA 量がおおむね体細胞中の半量であるという結果が示され,遺伝子受け継がれる物質が何であるかを分子レベルで結論付けることができるので,DNA かタンパク質のどちらか一方の物質のみが子に受け継がれた場合には,遺伝子の本体を疑ったこれまでの論争に終止符を打つことができるのです.では,どのように分子をラベル(標識)するのかを説明しましょう.a.実験の方法と結果 はじめにファージを大腸菌に感染させます.この大腸菌を32P か35S のどちらか一方の放射性同位体※を含む培地で培養してDNA およびタンパク質のみをラベルした親ファージを作ります.次に,この親ファージを図6ー17 のように大腸菌に感染させて放射性同位体を追跡します. ハーシーとチェイスは,大腸菌の表面に付着した親ファージをどう取り除いたらよいか迷いましたが,台所にあった料理用ミキサー(ブレンダー)で撹かくはん拌したところ,うまく分離したという話が残っています. では,結果を詳しく説明しましょう.親ファージのタンパク質を35S でラベルした場合,大腸菌を含む沈殿中には,全く35S を検出することができず,ほとんどの35S は上澄み中から検出されました.一方,親ファージDNA を32P でラベルした場合,大部分の32P は大腸菌を含む沈殿中に見出され,ほんのわずかの32P が上澄み中から検出されました.これは,一部の親ファージが上澄み中に残り,ラベルされたDNA が大腸菌の中に入ったと考えられます.b.実験の考察 実験結果より,親ファージのDNA のみが大腸菌中の子ファージに受け継がれることがわかります.つまり,図6ー18 のように大腸菌に付着した親ファージは,32P によってラベルされたDNA のみを大腸菌内に挿入させ,外部のタンパク質の殻は大腸菌の周囲に取り残されているものと考えられます.DNA を挿入したファージの外殻は,ミキサーの撹拌により剥がれ落ちます.そして軽いファージの残骸は上澄み中に,32P でラベルされたDNA を含む重い大腸菌が図6ー17 ハーシーとチェイスの実験35S32Pバクテリオファージを大腸菌に感染させる35S を用いてタンパク質を標識したバクテリオファージ32P を用いてDNA を標識したバクテリオファージ大腸菌大腸菌は沈む放射性同位体は上澄みで検出された放射性同位体は大腸菌と共に沈殿した遠心分離機大腸菌に感染させるブレンダーブレンダーで激しく撹拌する(大腸菌の外部に付着しているものが離れる)※:化学的性質が同じで,質量だけが違う原子を同位体といいます.例えば,天然水中にわずかに含まれる陽子1 個と中性子1 個の結合した重水素(2H)が,通常に見られる水素(1H)の同位体です.また,ウランのように原子核より放射線を出している元素は放射性元素と呼ばれます.この実験で扱われるP(安定型:31P)やS(安定型:32S)の他にもC(炭素:安定型12C)などには同位体(それぞれ32P,35S,14C)があり,さらにこれらの同位体は放射線を出す性質もあるので放射性同位体といいます.放射性同位体は,生物体内での物質の追跡を行う実験や治療などに用いられています.