ブックタイトル創薬研究のための薬事と知財の連結戦略ガイド

ページ
7/10

このページは 創薬研究のための薬事と知財の連結戦略ガイド の電子ブックに掲載されている7ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

創薬研究のための薬事と知財の連結戦略ガイド

149│ 5 - 2 ナルフラフィンの創薬事例事例解析5- 2 ナルフラフィンの創薬事例 ナルフラフィン(開発コード名:TRK-820,一般名:ナルフラフィン塩酸塩,商品名:レミッチR カプセル2 . 5μg)は,東レ株式会社が創製した,オピオイドκ受容体作動性の難治性そう痒症の治療薬である.研究開始から約20年を経て,世界初のオピオイドκ受容体作動薬ならびにFirst-in-Class の難治性そう痒症治療薬として,2009 年にわが国で薬事承認された.また,痒み治療にまったく新しい作用機序を見いだし,平成22 年度の日本薬学会創薬科学賞を受賞した.本薬の開発には筆者もかかわった.開発の背景 ケシの未熟果から採れるアヘン(英語名opium)はローマ帝国時代から鎮痛薬や睡眠薬として利用され,このアヘンより得られた植物性アルカロイドは,夢の神Morpheusの名にちなんで「モルヒネ」と名づけられて,最強の「痛み止め」として世界で広く使われてきた. モルヒネに似た活性をもつ物質をオピオイドと総称し,1970 年代にはオピオイド受容体が発見され,生体内の内因性リガンドであるオピオイドペプチドも見いだされた.オピオイド受容体には,μ(ミュー),κ(カッパ),δ(デルタ)のサブタイプがあり,それぞれに生体自身のリガンドである内因性オピオイドペプチドも存在する.たとえば,オピオイドμ受容体の生体内リガンドはβエンドルフィンやエンドモルフィンで,オピオイドκ受容体のリガンドはダイノルフィンである.最も有名な内在性オピオイドであるβエンドルフィンはモルヒネと同類のオピオイドμ受容体作動物質で,俗称で脳内モルヒネなどともよばれており,生体内で鎮痛作用を有すると考えられている. 鎮痛薬は,痛みから逃れるために人類が開発した,医薬品の原点ともいえるもので,モルヒネは現在でも世界最強の鎮痛薬ではあるが,依存性を有する麻薬であることが最大の欠点である.したがって,古来から,麻薬性のない強力鎮痛薬を創製する努力は続けられてきていたが,モルヒネ並みの鎮痛作用を有し,麻薬性がない鎮痛薬は,いまだ完成されていない.