向精神薬と妊娠・授乳
改訂2版
トロント小児病院小児科臨床薬理部長/
トロント大学医学部小児科 教授 伊藤真也 編
国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター
主任副センター長/妊娠と薬情報センター センター長 村島温子 編
順天堂大学越谷病院メンタルクリニック 教授 鈴木利人 編
定価
3,850円(本体 3,500円 +税10%)
- B5判 250頁
- 2017年7月 発行
- ISBN 978-4-525-38232-2
精神疾患を有する女性患者の妊娠・授乳を強力サポート!
向精神薬の豊富な有効性・安全性情報,多岐にわたる症例解説など,精神疾患をもつ女性の妊娠・授乳への対応に必要な情報や知識をまとめた.また,改訂2版では,産褥精神病など周産期特有の精神疾患の解説を加えた.
リスク・ベネフィットを考慮して向精神薬を適切に用いるために,精神科領域・産婦人科領域で即戦力となる実地書!
- 目次
- 序文
- 書評 1
- 書評 2
目次
第1章 妊娠・授乳期に関する基礎知識の整理
1 母性内科領域の基礎知識
・妊婦への薬物治療の考え方
・妊娠時期と児への影響
・妊娠可能年齢の女性への薬剤投与の実際
・薬剤の母乳への移行性と乳児に与える影響
・母乳育児のメリット
2 添付文書情報の捉え方
・添付文書の記載要領
・妊娠・授乳期に関連する添付文書情報の問題点・限界
3 妊娠・出産による精神状態への影響とトータルケア
・妊婦・産褥婦の精神状態が胎児・乳幼児に与える影響
・周産期の親子に対するソーシャルサポートサービス
4 周産期における飲酒・喫煙の影響
・アルコール
・タバコ
・禁煙補助薬
第2章 向精神薬投与と妊娠・出産・育児
1 妊娠と薬情報センターにおける向精神薬相談事例
・相談者の約半分が向精神薬を使用していた
・バルプロ酸ナトリウムについての相談
・向精神薬を使用していた女性の飲酒・喫煙率および薬物乱用
・授乳中の薬剤についての相談
2 挙児希望者・妊婦に対する向精神薬の適正使用-臨床における現状と課題-
・向精神薬の使用形態の変化
・精神疾患に罹患する女性患者の社会参加と妊娠
・向精神薬の催奇形性や毒性に関する評価
・周産期における向精神薬の使用
・妊娠時の向精神薬の多剤併用と薬物調整
・周産期に薬物治療を行わないことのリスク
・産褥期の精神症状の調整と授乳の両立
・適切なインフォームド・コンセントの実施と患者・家族の自己決定権
3 妊婦・授乳婦の向精神薬使用:国際比較
・胎児薬物毒性の情報提供サービス
・日本と諸外国の医療制度の違い
・向精神薬の処方率
・妊娠・授乳中の向精神薬処方
・授乳婦と薬
4 妊婦における向精神薬の薬物動態と処方設計
・妊婦における薬物治療の必要性
・妊娠中の生理変化と薬物動態
・妊娠中の薬物動態変化の臨床的な解釈
・TDM
5 向精神薬服用による出生後の疾患と発達の予後
・新生児不適応症候群(PNAS)
・母体SSRI服用と新生児遷延性肺高血圧症
・母体SSRI服用と自閉スペクトラム症
・バルプロ酸ナトリウムと認知機能への影響
・新生児出血傾向と抗てんかん薬
6 向精神薬の胎児毒性と情報提供上の留意点
・向精神薬服用のリスクに対する女性の考え
・治療中断のリスク
・催奇形性の説明
・新生児期の症状
・神経行動先天異常
第3章 向精神薬の薬剤情報と有益性・危険性の考え方
1 SSRI・SNRI・NaSSA
・妊婦・授乳婦への有益性
・妊娠期
・授乳期
2 三環系・四環系抗うつ薬
・妊娠期
・授乳期
3 炭酸リチウム
・妊娠期
・授乳期
4 抗不安薬
・妊娠期
・授乳期
5 睡眠薬
・妊娠期
・授乳期
6 第一世代抗精神病薬
・第一世代抗精神病薬
・抗コリン性抗パーキンソン病薬
7 第二世代抗精神病薬
・妊娠期
・授乳期
8 抗てんかん薬
・薬剤の胎児への影響
・妊娠中の薬物動態
・授 乳
第4章 周産期の精神障害概論
1 産褥精神病
・疾患分類上の位置付け
・発症の関連要因
・臨床的特徴
・治 療
・予 後
・まとめ:心がける周産期の向精神薬薬物療法10の原則
2 ボンディング障害
・定義と評価
・症状と発症時期
・成 因
・虐待との関連
・ボンディング障害の治療・介入・予防
・産褥期のボンディング障害に対する医療と地域における連携支援事例
3 特定妊婦と胎児虐待
・特定妊婦の定義と不均一性
・特に注意すべき支援の対象
第5章 症例から学ぶ ― 精神症状のコントロールと妊娠・授乳
1 うつ病
・周産期のうつ病の特徴
・周産期のうつ病に対する精神薬理学的治療のアプローチ
・専門外来におけるうつ病の具体的な症例
2 双極性障害
・双極性障害とは
・双極性障害における妊産婦の管理の基本原則
・双極性障害の女性患者が妊娠を希望する場合の対応
・症例1(妊娠を断念した事例)
・症例2(計画妊娠・出産をした事例)
3 統合失調症
・無治療ないし服薬中断
・妊娠中の服薬
・機能奇形
・統合失調症女性患者と妊娠後期
・新生児の体重への影響
・周産期合併症
・産後の再燃・再発
・授 乳
・症例1(計画妊娠の事例)
・症例2(偶発妊娠の事例)
4 てんかん
・てんかん発作の妊婦・胎児への影響
・AEDの児への影響
・妊娠可能年齢の女性てんかん患者の治療
・症例1(計画妊娠の事例)
・症例2(偶発妊娠の事例)
5 パニック障害・強迫性障害
・パニック障害と妊娠・出産
・強迫性障害と妊娠・出産
・パニック障害・強迫性障害の妊娠期・産褥期における薬物療法
・症例1(パニック障害: 偶発妊娠の事例)
・症例2(強迫性障害: 妊娠中の発覚事例)
6 睡眠障害(ナルコレプシー,レストレス・レッグス症候群)
・ナルコレプシー
・症例(計画妊娠の事例)
・レストレス・レッグス症候群
・症例(妊娠中の発症事例)
7 摂食障害
・摂食障害とは
・症例(偶発妊娠の事例)
・摂食障害患者の妊娠・出産への対応
8 アルコール依存症と境界型パーソナリティ障害の重複障害
・アルコール依存症とパーソナリティ障害
・アルコール依存症の治療
・症例(妊娠後に断酒目的入院となった事例)
9 薬物依存症
・薬物依存症とは
・薬物依存症女性患者の妊娠・出産の問題
・周産期の薬物依存症の治療的対応
・薬物依存症患者への基本的な対応
・症例(偶発妊娠の事例)
10 自閉スペクトラム症
・高機能ASDの夫をもつ女性の妊娠・出産・授乳
・ASDと思われる女性の妊娠・出産
索 引
1 母性内科領域の基礎知識
・妊婦への薬物治療の考え方
・妊娠時期と児への影響
・妊娠可能年齢の女性への薬剤投与の実際
・薬剤の母乳への移行性と乳児に与える影響
・母乳育児のメリット
2 添付文書情報の捉え方
・添付文書の記載要領
・妊娠・授乳期に関連する添付文書情報の問題点・限界
3 妊娠・出産による精神状態への影響とトータルケア
・妊婦・産褥婦の精神状態が胎児・乳幼児に与える影響
・周産期の親子に対するソーシャルサポートサービス
4 周産期における飲酒・喫煙の影響
・アルコール
・タバコ
・禁煙補助薬
第2章 向精神薬投与と妊娠・出産・育児
1 妊娠と薬情報センターにおける向精神薬相談事例
・相談者の約半分が向精神薬を使用していた
・バルプロ酸ナトリウムについての相談
・向精神薬を使用していた女性の飲酒・喫煙率および薬物乱用
・授乳中の薬剤についての相談
2 挙児希望者・妊婦に対する向精神薬の適正使用-臨床における現状と課題-
・向精神薬の使用形態の変化
・精神疾患に罹患する女性患者の社会参加と妊娠
・向精神薬の催奇形性や毒性に関する評価
・周産期における向精神薬の使用
・妊娠時の向精神薬の多剤併用と薬物調整
・周産期に薬物治療を行わないことのリスク
・産褥期の精神症状の調整と授乳の両立
・適切なインフォームド・コンセントの実施と患者・家族の自己決定権
3 妊婦・授乳婦の向精神薬使用:国際比較
・胎児薬物毒性の情報提供サービス
・日本と諸外国の医療制度の違い
・向精神薬の処方率
・妊娠・授乳中の向精神薬処方
・授乳婦と薬
4 妊婦における向精神薬の薬物動態と処方設計
・妊婦における薬物治療の必要性
・妊娠中の生理変化と薬物動態
・妊娠中の薬物動態変化の臨床的な解釈
・TDM
5 向精神薬服用による出生後の疾患と発達の予後
・新生児不適応症候群(PNAS)
・母体SSRI服用と新生児遷延性肺高血圧症
・母体SSRI服用と自閉スペクトラム症
・バルプロ酸ナトリウムと認知機能への影響
・新生児出血傾向と抗てんかん薬
6 向精神薬の胎児毒性と情報提供上の留意点
・向精神薬服用のリスクに対する女性の考え
・治療中断のリスク
・催奇形性の説明
・新生児期の症状
・神経行動先天異常
第3章 向精神薬の薬剤情報と有益性・危険性の考え方
1 SSRI・SNRI・NaSSA
・妊婦・授乳婦への有益性
・妊娠期
・授乳期
2 三環系・四環系抗うつ薬
・妊娠期
・授乳期
3 炭酸リチウム
・妊娠期
・授乳期
4 抗不安薬
・妊娠期
・授乳期
5 睡眠薬
・妊娠期
・授乳期
6 第一世代抗精神病薬
・第一世代抗精神病薬
・抗コリン性抗パーキンソン病薬
7 第二世代抗精神病薬
・妊娠期
・授乳期
8 抗てんかん薬
・薬剤の胎児への影響
・妊娠中の薬物動態
・授 乳
第4章 周産期の精神障害概論
1 産褥精神病
・疾患分類上の位置付け
・発症の関連要因
・臨床的特徴
・治 療
・予 後
・まとめ:心がける周産期の向精神薬薬物療法10の原則
2 ボンディング障害
・定義と評価
・症状と発症時期
・成 因
・虐待との関連
・ボンディング障害の治療・介入・予防
・産褥期のボンディング障害に対する医療と地域における連携支援事例
3 特定妊婦と胎児虐待
・特定妊婦の定義と不均一性
・特に注意すべき支援の対象
第5章 症例から学ぶ ― 精神症状のコントロールと妊娠・授乳
1 うつ病
・周産期のうつ病の特徴
・周産期のうつ病に対する精神薬理学的治療のアプローチ
・専門外来におけるうつ病の具体的な症例
2 双極性障害
・双極性障害とは
・双極性障害における妊産婦の管理の基本原則
・双極性障害の女性患者が妊娠を希望する場合の対応
・症例1(妊娠を断念した事例)
・症例2(計画妊娠・出産をした事例)
3 統合失調症
・無治療ないし服薬中断
・妊娠中の服薬
・機能奇形
・統合失調症女性患者と妊娠後期
・新生児の体重への影響
・周産期合併症
・産後の再燃・再発
・授 乳
・症例1(計画妊娠の事例)
・症例2(偶発妊娠の事例)
4 てんかん
・てんかん発作の妊婦・胎児への影響
・AEDの児への影響
・妊娠可能年齢の女性てんかん患者の治療
・症例1(計画妊娠の事例)
・症例2(偶発妊娠の事例)
5 パニック障害・強迫性障害
・パニック障害と妊娠・出産
・強迫性障害と妊娠・出産
・パニック障害・強迫性障害の妊娠期・産褥期における薬物療法
・症例1(パニック障害: 偶発妊娠の事例)
・症例2(強迫性障害: 妊娠中の発覚事例)
6 睡眠障害(ナルコレプシー,レストレス・レッグス症候群)
・ナルコレプシー
・症例(計画妊娠の事例)
・レストレス・レッグス症候群
・症例(妊娠中の発症事例)
7 摂食障害
・摂食障害とは
・症例(偶発妊娠の事例)
・摂食障害患者の妊娠・出産への対応
8 アルコール依存症と境界型パーソナリティ障害の重複障害
・アルコール依存症とパーソナリティ障害
・アルコール依存症の治療
・症例(妊娠後に断酒目的入院となった事例)
9 薬物依存症
・薬物依存症とは
・薬物依存症女性患者の妊娠・出産の問題
・周産期の薬物依存症の治療的対応
・薬物依存症患者への基本的な対応
・症例(偶発妊娠の事例)
10 自閉スペクトラム症
・高機能ASDの夫をもつ女性の妊娠・出産・授乳
・ASDと思われる女性の妊娠・出産
索 引
序文
精神・神経系疾患は長期的な治療を要することの多い疾患群の一つである.しかし,患者さんが妊娠中の場合は,胎児への安全性を同時に考えなくてはならず,臨床現場は混乱気味なのではないだろうか.また,母乳栄養の利点が認識されるようになってからは,患者さんが母乳栄養中でもこれらの薬物療法は安全なのか,という,これまた簡単に答えられない問題に明確な答えを出すことが臨床の第一線で求められている.私自身の経験からすると,妊娠・授乳中の母親の精神・神経系疾患に対する薬物療法が胎児・母乳栄養児へどのような影響を与えるのかは,最も頻繁にコンサルテーション依頼がくる事例の一つである.
1961年11月に当時の西ドイツで,小児科医Lenzが妊婦のサリドマイド服用によると思われる児のアザラシ肢症の多発を報告して以来,妊娠中の薬物療法の胎児毒性は広く知られるようになった.現在,胎児への影響が明らかであると認められている薬物が存在する.本書は精神・神経系疾患に使われる薬物に的を絞り,それらの妊娠・授乳中の安全性を臨床現場の観点から解説するという目的で企画された.
2014年の初版をアップデートする形でこの第2版がまとめられたが,臨床現場で妊婦・授乳婦の精神・神経系疾患への薬物治療をどうすればいいのか,という点に焦点を当てているのは変わらない.第1章と第2章ではこの分野の背景と基本的な知識を記載し,第3章は臨床判断の極意ともいうべき毒性リスクと治療による利益(あるいは治療しないことによる不利益)のバランスを論じている.これはあくまでも参考であって,個々の患者さんに特有な要素を加味して個別化した指導の一助になればという思いである.第4章は初版にはなかった項目で,妊娠・周産期に特有の問題を記載した.第5章は主な疾患の症例を示しながら,向精神薬の知識を精神・神経系疾患を扱う臨床現場での実際にどう結びつけていくのかという点に焦点を当てている.
まだまだ改良の余地はあるものの,この本が実地臨床の場で少しでも役に立てればこれ以上の喜びはない.最後になったが,母親であり,また患者さんでもある多くの女性の方たちが,安全な妊娠・授乳と元気な赤ちゃんのためにより良い医療を受けられるようにとの願いを,著者を代表してここに記すとともに,南山堂のスタッフの方たちに心からお礼申し上げます.
2017年5月
編者を代表して 伊藤真也
1961年11月に当時の西ドイツで,小児科医Lenzが妊婦のサリドマイド服用によると思われる児のアザラシ肢症の多発を報告して以来,妊娠中の薬物療法の胎児毒性は広く知られるようになった.現在,胎児への影響が明らかであると認められている薬物が存在する.本書は精神・神経系疾患に使われる薬物に的を絞り,それらの妊娠・授乳中の安全性を臨床現場の観点から解説するという目的で企画された.
2014年の初版をアップデートする形でこの第2版がまとめられたが,臨床現場で妊婦・授乳婦の精神・神経系疾患への薬物治療をどうすればいいのか,という点に焦点を当てているのは変わらない.第1章と第2章ではこの分野の背景と基本的な知識を記載し,第3章は臨床判断の極意ともいうべき毒性リスクと治療による利益(あるいは治療しないことによる不利益)のバランスを論じている.これはあくまでも参考であって,個々の患者さんに特有な要素を加味して個別化した指導の一助になればという思いである.第4章は初版にはなかった項目で,妊娠・周産期に特有の問題を記載した.第5章は主な疾患の症例を示しながら,向精神薬の知識を精神・神経系疾患を扱う臨床現場での実際にどう結びつけていくのかという点に焦点を当てている.
まだまだ改良の余地はあるものの,この本が実地臨床の場で少しでも役に立てればこれ以上の喜びはない.最後になったが,母親であり,また患者さんでもある多くの女性の方たちが,安全な妊娠・授乳と元気な赤ちゃんのためにより良い医療を受けられるようにとの願いを,著者を代表してここに記すとともに,南山堂のスタッフの方たちに心からお礼申し上げます.
2017年5月
編者を代表して 伊藤真也
書評 1
うつ病やパニック障害などを持つ女性診療に強くなれる!
中山明子(大津ファミリークリニック/洛和会音羽病院 家庭医療科)
妊娠や授乳の時期の女性がうつやパニックに悩んでいるケースはたくさんありますが,その相談に乗れるための知識が本書には網羅されています.妊娠を計画するときにどう伝えるか,妊娠中はどうサポートするか,授乳中は何に気をつけるかなど,薬の話だけではなく,疾患概念や多面的な援助の仕方が示されています.
精神科領域にとどまらない妊娠・授乳期に関する基礎知識的な部分はもちろん,SSRI・SNRI,三環系抗うつ薬やベンゾジアゼピン,抗てんかん薬などに関するエビデンスをしっかりと記載しています.
また,周産期の精神障害として特有の産褥精神病やボンディング障害,特定妊婦や胎児虐待などで気をつけることもわかりやすく記されています.
何より役に立つのは,それぞれの疾患を症例ごとに具体的な記載があり,妊娠前(計画妊娠・偶発妊娠の事例)・妊娠中・授乳中の場合など,ケースでわかりやすく書かれている点です.
この本があれば妊娠・授乳に苦手意識のある精神科の先生方や,精神科疾患に苦手意識のある産婦人科の先生の女性診療の能力がさらに強化されるのではないでしょうか.そして,精神科医・産婦人科医はもちろん,プライマリ・ケア医にも明日から使える内容となっています.是非,診察室に一冊,手の届くところに置いておくと役に立つ本だと思います.
中山明子(大津ファミリークリニック/洛和会音羽病院 家庭医療科)
妊娠や授乳の時期の女性がうつやパニックに悩んでいるケースはたくさんありますが,その相談に乗れるための知識が本書には網羅されています.妊娠を計画するときにどう伝えるか,妊娠中はどうサポートするか,授乳中は何に気をつけるかなど,薬の話だけではなく,疾患概念や多面的な援助の仕方が示されています.
精神科領域にとどまらない妊娠・授乳期に関する基礎知識的な部分はもちろん,SSRI・SNRI,三環系抗うつ薬やベンゾジアゼピン,抗てんかん薬などに関するエビデンスをしっかりと記載しています.
また,周産期の精神障害として特有の産褥精神病やボンディング障害,特定妊婦や胎児虐待などで気をつけることもわかりやすく記されています.
何より役に立つのは,それぞれの疾患を症例ごとに具体的な記載があり,妊娠前(計画妊娠・偶発妊娠の事例)・妊娠中・授乳中の場合など,ケースでわかりやすく書かれている点です.
この本があれば妊娠・授乳に苦手意識のある精神科の先生方や,精神科疾患に苦手意識のある産婦人科の先生の女性診療の能力がさらに強化されるのではないでしょうか.そして,精神科医・産婦人科医はもちろん,プライマリ・ケア医にも明日から使える内容となっています.是非,診察室に一冊,手の届くところに置いておくと役に立つ本だと思います.
書評 2
精神疾患を有する患者の出産・授乳をサポートする!
天正雅美(さわ病院 薬剤部長)
私は精神科単科病院に長年勤務しているが,ここ10数年の間に待合室の様子は大きく変わり,20代・30代の若者,特に女性の患者が増えた.これは,女性に多いとされるうつ病や適応障害といった精神疾患が世間で認知され,専門医療機関である精神科を受診することへの敷居が下がったからかもしれない.
若い女性患者が増えると,当然妊娠・出産と薬についての相談が増えてくるが,実は精神科に勤める薬剤師にとって,妊娠や出産についての相談は積極的には受けたくない相談である.それは,もともとの知識不足を補うべく文献を調べても明確なエビデンスが少ないために,相談者が納得できるような回答を用意ができずに「産科の先生にご相談ください」と他力本願となることも多いからである.そんな中,最近知り合いの妊婦・授乳婦専門薬剤師から「妊婦やこれから妊娠を考えている女性から受ける相談は,ほとんどが向精神薬の相談である」と言われ,いつまでも苦手意識をもたずに精神科薬剤師も妊娠と薬についての知識を増やし,相談や質問を受けた時,少なくとも患者が安心できるような回答をして,産科につなぐ必要があるのではないかと薬剤師仲間で話をしていた.
そんな折,本書が発売されたことを聞いたのだが,まず,タイトルに惹かれた.私の今一番興味があるものずばりであり,さらに精神科医の鈴木先生が編者になっておられることに興味をそそられ,早速開いてみた.まず,妊娠周期と薬の関係に始まり,エビデンスの話,主な向精神薬が妊娠や授乳に与える影響,精神疾患の特徴と薬理学的治療,そして具体的な症例と,基礎的なことから臨床まで多岐にわたり,精神科薬剤師が欲しかった情報が順序立ててわかりやすく書かれていた.本書は,精神科薬剤師はもちろん,病院薬剤師,保険薬局薬剤師にとっても満足な一冊となるだろう.本書を教科書として手元に置き,精神疾患を有する患者が安心して出産・授乳できるよう援助してほしいと考える.
天正雅美(さわ病院 薬剤部長)
私は精神科単科病院に長年勤務しているが,ここ10数年の間に待合室の様子は大きく変わり,20代・30代の若者,特に女性の患者が増えた.これは,女性に多いとされるうつ病や適応障害といった精神疾患が世間で認知され,専門医療機関である精神科を受診することへの敷居が下がったからかもしれない.
若い女性患者が増えると,当然妊娠・出産と薬についての相談が増えてくるが,実は精神科に勤める薬剤師にとって,妊娠や出産についての相談は積極的には受けたくない相談である.それは,もともとの知識不足を補うべく文献を調べても明確なエビデンスが少ないために,相談者が納得できるような回答を用意ができずに「産科の先生にご相談ください」と他力本願となることも多いからである.そんな中,最近知り合いの妊婦・授乳婦専門薬剤師から「妊婦やこれから妊娠を考えている女性から受ける相談は,ほとんどが向精神薬の相談である」と言われ,いつまでも苦手意識をもたずに精神科薬剤師も妊娠と薬についての知識を増やし,相談や質問を受けた時,少なくとも患者が安心できるような回答をして,産科につなぐ必要があるのではないかと薬剤師仲間で話をしていた.
そんな折,本書が発売されたことを聞いたのだが,まず,タイトルに惹かれた.私の今一番興味があるものずばりであり,さらに精神科医の鈴木先生が編者になっておられることに興味をそそられ,早速開いてみた.まず,妊娠周期と薬の関係に始まり,エビデンスの話,主な向精神薬が妊娠や授乳に与える影響,精神疾患の特徴と薬理学的治療,そして具体的な症例と,基礎的なことから臨床まで多岐にわたり,精神科薬剤師が欲しかった情報が順序立ててわかりやすく書かれていた.本書は,精神科薬剤師はもちろん,病院薬剤師,保険薬局薬剤師にとっても満足な一冊となるだろう.本書を教科書として手元に置き,精神疾患を有する患者が安心して出産・授乳できるよう援助してほしいと考える.