南山堂

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カテゴリー: 癌・腫瘍学

乳癌診療のための分子病理エッセンシャル

1版

防衛医科大学校病態病理学講座 教授 津田 均 編集
国立がん研究センター中央病院乳腺外科 科長 木下貴之 編集
国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科 科長 田村研治 編集

定価

5,280(本体 4,800円 +税10%)


  • B5判  304頁
  • 2016年7月 発行
  • ISBN 978-4-525-42141-0

乳癌のサブタイプに基づく治療を考えるために必携の1冊

乳癌は,患者のサブタイプを見極め,治療効果や予後を予測しながら治療選択を行うことが標準的になってきた.本書では,サブタイプの違いの背景にある遺伝子変異や分子の変化が,治療効果や予後の違いにどのように直結し,どこまで予測が可能になっているのか,臨床医がおさえておくべきポイントを病理と臨床の両側面からわかりやすくまとめた.

  • 序文
  • 目次
序文
 「Precision Medicine」という言葉が注目されている.近年のゲノム解析技術の急速な進歩により,腫瘍におけるドライバー変異や蛋白発現などの情報を短期間で得ることが可能となり,その結果を用いて患者個々の癌治療を選択することが試みられている.しかし,ゲノム解析法がいかに発展しても,従来から行われてきた病理学的なアプローチが不必要になることはなく,むしろその重要性は増している.病理診断で用いられる免疫組織化学(IHC)法は,癌のphenotype(表現型)を決定する蛋白質の発現量を測定するものであり,言いかえればゲノム異常の結果が反映されたものともいえる.また,このような癌に関連する分子異常は,新規抗悪性腫瘍薬の標的となりうることも重要なポイントである.
 乳癌領域では,古くよりエストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体の発現量と,HER2の発現量を用いて,乳癌を4つのサブタイプに分類し,内分泌療法や抗HER2療法薬などの適応を決定してきた.そのような面では,他癌種に比べ,個別化医療(Personalized Medicine)が進んでいるともいえるだろう.しかし,さらなる治療成績の向上のためには,もちろんこの分類だけでは不十分である.最近では,マイクロアレイ解析を用いた内因性サブタイプ(intrinsic subtype)分類や,腫瘍の不均一性(heterogeneity)の強いtriple negative乳癌をPAM50などの遺伝子発現プロファイルを用いて分類することなどが報告されている.また,マイクロアレイ解析の手法を用いることで,乳癌の再発リスクを推定するOncotype DXなども,他の癌種に先駆けて導入されてきている.一方,非常に多くの遺伝子を用いたクラスター解析によって分類された集団のphenotypeも,主となる数種類の蛋白発現量をIHC法で測定することで同定できる場合も少なくない.検査法として一般の癌臨床のなかで均てん化するには,マイクロアレイ解析よりも,このような病理学的診断アプローチに代替えするほうが有利である.
 病理診断とゲノム解析,両者は一見まったく異なるアプローチのように感じられるが,癌の診断や治療に直結する「分子」を明らかにするという点から言えば,同じものを,手法を変えてみているものであり,また相補的なものであろう.
 これまで多くの乳癌の教科書において,「病理診断」と「ゲノム解析」は完全に分けて記載され,これら両手法でともに取り上げられる同一の遺伝子や蛋白質異常の関係性について論じられることは少なかった.今回,本書の編集で心掛けた点は,「分子病理」というキーワードを用いることにより,乳癌における解剖学,生物学,病理学,遺伝子学,形態学,分子生物学を一つの教科書のなかで関連づけてわかりやすくまとめたこと,また,現在の乳癌臨床で特に重要なサブタイプ分類,予後予測マーカー,治療効果予測マーカーに焦点を当てたことである.執筆者は,それぞれの分野で日本を代表する研究者の方々であり,分子標的薬などを用いた最新の治療戦略とも関連づけて記載していただいた.このような試みは非常に新しいもので,本書を読み終えたあと,「分子病理」という概念の橋渡しにより,乳癌における基礎と臨床が,より近いものに感じられれば幸いである.

2016年5月
編者一同
目次
Part I 乳癌のサブタイプの理解につながる基本知識

A.乳腺の発生・発達・組織
 1.乳腺の発生・解剖・組織像
 2.乳腺の幹細胞仮説とluminal,basal,basal-like細胞の起源
 3.乳腺の発達とホルモンの働き

B.ホルモン受容体と遺伝子変異がもたらす乳癌の発症と生物学的特性への影響
 1.ホルモン受容体の発現の意義
 2.乳癌における癌遺伝子,増殖因子,受容体系シグナル伝達経路の活性化と細胞周期の変化
 3.乳癌関連癌抑制遺伝子とゲノム変化
 4.乳癌におけるheterogeneity

C.乳癌の組織型・組織像とその分子病理学的背景
 1.乳癌の病理組織像
 2.乳癌の各組織型およびgradeに特徴的にみられる分子変化
 3.多発性乳癌
  1)多発性乳癌の分子学的背景
  2)多発性乳癌の診断

D.乳癌の微小環境ならびに浸潤・転移に関わるしくみ
 1.乳癌における上皮間葉移行(EMT)
 2.浸潤性乳管癌の増殖・伸展における腫瘍間質および脈管内腫瘍組織が担う重要な役割

Part II 乳癌のサブタイプ分類と分子病理に基づいた治療

E.乳癌のサブタイプ分類
 1.内因性サブタイプから臨床的サブタイプ(IHC法によるサブタイプ)への変遷
 2.内因性サブタイプの特徴と臨床的サブタイプ(IHC法によるサブタイプ)との関係
 3.乳癌の分化仮説とtriple negative乳癌の遺伝子発現プロファイルによる亜分類
 4.Ki67スコアを基準にした分類

F.乳癌の予後予測マーカー
 1.再発リスクスコア ─ Oncotype DX,MammaPrint
 2.腫瘍サブタイプ ─ PAM50-ROR,Curebest 95GC,MPCP155
 3.予後予測マーカーと臨床学的因子
 4.外科治療における予後マーカーの有用性 ─ 乳癌のサブタイプが外科治療に与える影響

G.分子病理に基づいた乳癌の薬物療法戦略
 1.病理学的完全奏効(pCR)の予測因子とpCRをエンドポイントとした治療薬開発
 2.既存の抗悪性腫瘍薬の効果予測に関する分子病理
  1)ホルモン受容体陽性乳癌に対する治療戦略
  2)HER2陽性乳癌に対する治療戦略
  3)アンスラサイクリン系薬剤の効果予測因子
  4)basal-like乳癌,EMT,mTOR阻害薬
  5)triple negative乳癌の遺伝子発現プロファイル(マイクロアレイ)と薬剤感受性
 3.期待される分子標的薬と効果予測マーカー
  1)BRCA1/2変異陽性乳癌に対する治療戦略
  2)内分泌療法とCDK4/6阻害薬との併用
  3)PI3K/AKT阻害薬
  4)抗PD-1/PD-L1抗体
 4.期待される診断法 ─ 乳癌の診断および治療効果予測
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