ブックタイトル肛門疾患
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肛門疾患
肛門は消化器の末端であるが,胃や腸と異なる特性がある.上皮が外胚葉と内胚葉の接合部位であり,筋肉も横紋筋と平滑筋が併存している.それに伴う発生学的な変化もあって解剖学的な意味合いと臨床的な捉え方が異なる面がある. わが国では外科・内科・放射線科・病理の専門家からなる規約委員会が組織され,1977 年9 月20 日に「大腸癌取扱い規約」初版が出版された.この時点で,肛門管は発生・解剖学の観点からでなく臨床的観点から“恥骨直腸筋付着部上縁”より“肛門縁”までの管状部を「肛門管」とし,P で表すことになった.規約はこの後も数次の改訂が行われ,2013 年7 月には第8 版が出版され多くの臨床医・病理医が「大腸癌取扱い規約」(以下「取扱い規約」と略す)を通じて共通の認識を有している1). 本書はこの規約に基づいて「肛門管」を定義するが第7版補訂版(以下「補訂版」)から第8 版で改訂*1 が行われたので本書もこれに準拠する. また肛門科の臨床面では,2006 年に共著者の栗原らは,手術所見やMRI および骨盤解剖の研究により,肛門後方の解剖学的新知見や後方複雑痔瘻の病態について報告し,会陰骨盤間隙に新たな部位を定義している.本章ではこの新知見に基づいた解剖について詳細に記述する. 一方,肛門疾患で最も頻度の高い痔核の原因について差異が生じており,肛門上皮についても移行部近辺の異論もある.骨盤出口筋についての再検討も含め,現時点では解剖の章には記述に困難な部分もある. 本書は主として肛門疾患について記述したものであるから,解剖・生理も原則として肛門管のそれを記述の中心とするが,肛門管だけを取り出して説明するとかえって理解しにくい場合もあるので,直腸やそれより口側の結腸などについても簡単に触れる. わが国では,取扱い規約で岬角の高さをもってS 状結腸と直腸の境界と定めたので,本書もこの規約にしたがった区分を示す.取扱い規約では直腸を次のように区分している.すなわち,岬角の高さから第二仙椎下縁までを直腸S 状部と称し,RS で,第二仙椎下縁より腹膜翻転部までを上部直腸と称し,Ra で,腹膜翻転部から恥骨直腸筋付着部上縁までを下部直腸と称し,Rb で示すことにしている.肛門管はP で,肛門周囲皮膚はE をもって示すことになっている(図2-1,2).A 直腸と肛門の区分* 1 第7 版補訂版では「肛門管」は大腸区分の8 領域に入れられていたが,第8 版からは虫垂・肛門管・肛門周囲皮膚の3 領域は【附】に分類されることになった.また,組織学的肛門管も変更が行われたので本章では「大腸癌取扱い規約」の第8 版に基づき,「臨床的外科的肛門管」と「組織学的肛門管」の違いをはっきりさせ,名称などの誤解や誤謬が起こらないよう,記述に配慮した.第2章肛門の解剖