このページは,雑誌「治療」の連載記事(2004年6月~2006年3月)を公開したものです.
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Palmのなかには? ─内科基礎編─

前回までの連載では,Palmで利用可能なさまざまなジャンルのソフトについてまとめてきました.ここまでが基本編だとすれば,今回からはいよいよ(?)応用編です.各科別に,どんなソフトをPalmにインストールしたら便利なのか,まとめていきたいと思います.最初は内科の先生向けの基礎編ですが,この基礎編は各科共通でもありますから,他科の先生方にもきっとご参考になると思います.

1.必須ソフト

医師としての日常業務で,インストールされていたら便利なソフト類を考えてみましょう.ジャンルとしては,薬剤情報,医療計算,基本的な辞書・教科書類が該当しそうです.ほかに,医師本人のスケジュール管理も含まれるかもしれませんが,予定表ソフトはいろいろと出ていますから,個人の好みで選定されるとよいでしょう.ここではそれ以外を検討してみます.

A.薬剤情報

まず薬剤情報としては,今日の治療薬が必携でしょうか.最近はPocket PCでも利用可能ですが,初期はPalm版のみの発売でしたので,このソフトが発売されたことで,確かにPalmユーザーが増えました.

このソフトの仲間に,ジェネリッこがあります.約15,000の薬剤について,同効薬や薬価を検索できます.「今日の治療薬」との連携も図られているようです.

医療関係者のユーザーですと,この2種類のソフトをインストールされているかたが多いと思いますが,一方でこれらよりも以前から公開され,確実に内容の更新を重ねてきたソフトにpdrugがあります.最新のバージョンでは,約7,400の薬剤が収載されています.副作用情報はないのですが,内容は充実していますし,なにより無料というのが人気でもあります.筆者のように,「今日の治療薬」とあわせてインストールしているかたも少なくないと思います.

海外の医薬品情報については,ePocratesが圧倒的な人気を誇っています.やはりこのソフトがあったために,医師にPalmユーザーが増えたといわれています.最近は有料化されたため,現在無料で利用可能なのは感染症治療データベースが削除されたePocrates Rxです.ただし,日本国内の一般的な日常業務では,あまり利用する場面がないかもしれません.

それでは感染症に関してはどんなソフトをインストールするのでしょうか.

残念ながら,日本のソフトに感染症(抗生剤)の使い方をまとめたものはありません.したがってすべて海外のソフトになってしまいます.

日本人に一番なじみが多いのは,Sanford Guide 熱病でしょうか?筆者のサイトに検索をしておいでになるかたには,このソフト名を検索キーにされているかたが少なくありません.本では日本語版が出版されていますが,出版社によれば,今のところ日本語のPalm版を出す予定はないそうです.

このソフトに続いて人気が高いのは,Johns Hopkins Division of Infectious Diseasesがまとめた感染症と抗生剤のマニュアル,Antibiotic Guideだと思います.定期的に更新されていることもありますが,それ以上にPDA版は無料というのが人気の一因かもしれません.もちろんソフトはよくできています.今のところPalm版のみリリースされています.

B.医療計算

このジャンルに関しては,まずMedCalcです.80以上の計算式が収載されていますので,ほとんどの医療計算はこれで間に合います.日本語化が終わっていますので,使いやすいと思います.もちろん他にもMedical MathPadやArchimedesといった無料の優れた計算ソフトがありますが,一押しはMedCalcです.不定期ですが,バージョンアップも続いています.

この基本的な医療計算ソフトに,あとは専門別の各種計算ソフト(小児薬剤投与量,眼内レンズ度数計算,循環器,EBM,ICUなど)を組み合わせればよいと思います.専門別医療計算ソフトは,今後の連載でそれぞれご紹介したいと思います.

さて,もう1つ持っていたほうが良いと思う計算ソフトは,年齢(期間)計算ソフトです.このジャンルでは,NenGo! model MSpan Calculatorが便利です.どちらも日本のソフトですし無料で公開されています.MedCalcでも同様の計算ができますが,圧倒的にこの2つのソフトのほうが使い勝手が良いと思います.

NenGo! model Mは,単に年齢早見表という機能のほかに,和暦・西暦の変換や,学校の学年と暦の関係を一覧表示してくれたり,干支についての解説があったり,と多機能で便利です.

証明書を書いたりするときに必須のソフトでしょう.

Span Calculatorは逆に,2点間の期間を表示するだけのシンプルなソフトです.開始日を日齢0とするか1とするか選択ができ,日単位で正確な計算ができます.サッと年齢だけ計算したいときは,こちらのほうが便利かもしれません.

C.辞書・教科書類

医学辞書はステッドマン医学大辞典南山堂医学大辞典のどちらかが選択肢です.その他略語集などいくつかありますが,ともかくこのどちらかの辞書が必携です.語彙数の「ステッドマン」に対して充実した解説の「南山堂」で,どちらも甲乙つけがたいと思います.ただしPDA版ステッドマンは現在出版社からは発売停止になっていますので,中古を探すしかありません.

内科医としては,やはり教科書はHarrisonなのでしょうか?学生のころはThe Washington Manualにお世話になりました.The Merck Manualというのもありますね.どれもすべてPalm用のソフトが入手可能です.お好みに応じて購入されてはいかがでしょうか.

しかしPalmで使うのなら,個人的にはGriffith's 5 Minute Clinical ConsultとPocketMedicine's Chief Complaints in Internal Medicineの組み合わせがよいのではないかと思います.安直なマニュアルというそしりはあるのかもしれませんが,よくまとまっていますし,何より医療の現場では教科書よりもマニュアルのほうが便利でしょう.Skyscape版がソフト間の連携がとれ,使いやすいと思います.この種の日本語ソフトが出てくれたら嬉しいのですが.

もう一冊安直なマニュアルではありますが,特に若手の先生にはいろいろ面白い情報が満載なのが,eMedicです.医療略語集や解剖イラスト,ACLSなど緊急時の対応カード,医療計算,心電図の勉強ができる"Palm EKG"などが含まれています.

2.あったら便利なソフト

このジャンルは,かなり個人的な好みに左右されると思います.

内科の基礎編としては,まずザ・レジデントでしょうか.学会ガイドライン,癌取扱い規約および国内外の各種文献から診断基準を収載しています.名前は若手向けですが,内容は充実しています.何よりガイドラインは,うっかりするとすぐ本が散逸するので,まとまっていると助かります.定期的に更新ファイルが公開されています.

兄弟ソフトの右腕くん(「右脳くん」ではありません)シリーズも持っていると便利かもしれません.

パソコンにあるファイルを見たい,というときのためには,Documents To Goを持っていてもよいかもしれません.一部のCLIEには最初から搭載されていました.Word,Excel,PowerPointファイルを表示・編集可能です.

PalmをはじめとするPDAでどこまで情報を扱うのか,というのは大切な問題で,パソコンと同じことをしようと考えてはうまくいかないわけですから,どこかで機能の切捨てが必要になります.それでもWordとExcelが使える,というのは,いろいろと活用できる場面も少なくないと思われます.

その他,さまざまな医療情報を扱うデータベースとしては,HanDBaseが海外では最も一般的でしょう.国内ではJFileというデータベースソフトがありますが,医学関連の情報はあまりありません.

インターネット上の情報を取り込む場合は,iSiloやPlucker,HandStoryなどが一般的です.後者2つは日本国内のユーザーも多く,情報入手は簡単ですが,海外ではiSiloが一般的で,医療関連の多数のデータファイルが公開されています.

病院に勤務されている先生方ですと,患者管理ソフトを使われるのもよいかもしれません.第10回の記事にまとめましたが,「これがベスト」というソフトはありません.

指示出しや処置など,病棟管理を中心に考えられるなら,WardWatchDragoon,患者さんの個別情報を詳細に持ちたいなら,PatientKeeperです.個人的には,病棟の指示出しを忘れやすいので,研修医くんたちにはDragoonをすすめています.シンプルですが,その分使いやすいと思います.

以上をまとめると,以下のようになります.

〈薬剤情報〉
今日の治療薬
ジェネリッこ and/or pdrug

〈感染症データベース〉
Sanford Guide 熱病 or Johns Hopkins Antibiotic Guide

〈計算機〉
MedCalc
NenGo! model M
Span Calculator and 各専門に特化した計算機

〈辞書・教科書類〉
ステッドマン医学大辞典 and/or 南山堂医学大辞典
Griffith's 5 Minute Clinical Consult
PocketMedicine's Chief Complaints in Internal Medicine

〈その他余裕があれば〉
ザ・レジデント
Documents To Go
iSilo
Dragoon

いかがでしょうか.この程度のソフトを持っていると,もうPalmは手放せなくなりますし,それがないと仕事にならなくなります.

これらのソフトをすべて持ち歩くためには,CLIEにしてもその他のPalmにしても,何らかの外部メモリーが必要になります.容量的には512MBあれば十分ですが,SDカードでしたら1GBもけっして高くないと思います.用途によりメモリーカードを使い分けてもよいのですが,仕事用は1枚にまとめたほうが便利です.

次回は内科の専門科別に,応用編をまとめてみたいと思います.