このページは,雑誌「治療」の連載記事(2004年6月~2006年3月)を公開したものです.
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Palmで利用可能な教科書類

これまでの連載で,辞書や薬剤データ,各種医療計算ソフトなどを紹介してきました.こうしたツールは確かに便利で必携ですが,それではそもそも知識の集大成である教科書には,どんなものがあるのでしょうか.今月はこうした,Palmで利用可能な教科書類についてまとめてみたいと思います.

1.The 5-Minute Clinical Consultシリーズ

Palm上で利用可能な教科書は,英語版で考えればけっして少なくないのですが,その中でもベストセラーの一つが,この5MCCシリーズだと思います.現在のところ入手可能な専門分野は,内科・小児科・神経学・整形外科・スポーツ医学・救急・感染症・中毒学・歯科ですが,他にハーブ関連とか,変わったところでは獣医学(馬・犬・猫)まであります.循環器疾患についても,5mCardiacというタイトルで,The AHA Clinical Cardiac Consultが用意されています.

このソフトを扱っているサイトはいくつかあるのですが,内容的にはSkyscape製が,同社で扱っている他のソフトとの連携がはかられている点から,一番使いやすいように思います.

ここではSkyscape製The 5-Minute Pediatric Consultを見てみましょう.下の画面がトップメニューです.

喘息(asthma)について調べるときは,まず「Look for」に単語を入力します.インクリメントサーチが効いていますので,入力と同時に前方一致で候補となる言葉が画面に表示され,ハイライト表示されます.調べたい言葉をタップすると,詳細説明ページに飛びます.

右側に並んでいるタブは,上から順に,D:Database,Dx:Differential Diagnosis,G:Data Gathering,P:Physical Examination,L:Laboratory Aids,T:Therapy,F:Follow-upとなっています.一番下の×は,Emergency careやCommon Q & Aなどになっています.疾患によっては,いくつかのタブに情報がない(n/a)場合もあります.

もう少し詳細を見てみましょう.Databeseの項は,疾患の基本的な定義や病理についてまとめられています.Differential Diagnosisは鑑別疾患ですが,原因別にきちんと分類され,鑑別のポイントがわかりやすくまとめられています.

Data Gatheringの項は,現病歴の注意点や,症状の重症度をどう判断するかなど,情報収集のポイントについてまとめられています.患者さんからどんな情報を聞き取るべきなのか,わかりやすくまとめられていて,Patient Databaseを作るときのチェックリスト代わりにもなります.

Physical ExaminationやLaboratory Aidsは,診察や検査をする際のポイントが簡潔にまとめられています.ただし検査方法のやり方までは解説されていないこともありますから,特殊な検査については別途調べる必要があります.

Therapyでは各種薬剤の使い方を中心に,EBMに則って解説がされています.ですが時に「エビデンスはないけれど」と断りを入れたうえで特殊な治療を紹介していることもあり,これも参考になります.

Follow-upでは疾患治療後の経過について,「いつまで経過観察が必要なのか」とか「問題を示唆する症状は」といった内容で,わかりやすくまとめられています.

最後の×では,Emergency Careが必要な場合はその注意点を,あるいはCommon Q & Aとして患者さん(やその家族)から受ける想定問答集がまとめられています.

右上2行目のメニューには,鉛筆マークのタブがあり,これを使えば自分のメモを記入して保存しておくことができます.

総じてとてもよくまとめられているテキストで,タイトルの通り5分間でざっと見ることができ便利です.しかし治療法などは日本と若干異なる点もあり,アメリカのやり方を勉強できる代わりに,日本では一般的な治療がないなど,注意が必要です.薬剤投与量も,微妙に異なることがあります.メモをうまく活用して,「日本ではどうか」という情報を書き足せば,さらに内容を充実させることができると思います.

Skyscape版を購入して使っている場合は,詳細説明ページ画面の右上,3つのアイコンが並んでいる真ん中(Link)をタップすると,PalmにインストールされているSkyscapeの関連ソフト(Chief Complaintsなど)が表示されます.

蛇足ながら,先に紹介した画面では表示されているテキストに文字化けがありませんが,これはFonts4OS5という,文字フォントを個別ソフトごとに設定できるソフトを使っているためです.通常はいくつか文字化けをしていることがありますが,テキストを読むうえではほとんど問題にならないと思います.同様のソフトには,他にFontSubstがあります.

2.Chief Complaintsシリーズ

The 5-Minute Clinical Consultシリーズが病気について調べる教科書とすれば,このChief Complaintsシリーズはその名の通り,主訴からの診断学に関する教科書といえます.やはりいくつかのサイトで販売されていますが,筆者はSkyscapeで統一しています.

このシリーズは今のところ,内科・小児科の2種類が公開されています.もっと幅広い分野で提供されているとよいのですが,今のところはこの2分野だけのようです.下の画面は詳細説明ページです.

右側に並んでいるタブは順に,C:Chief Complaint-Description,H:History of Present Illness,P:Past Medical History & Family History,E:Physical Examination,D:Differential Diagnosis-Most Common,X:DD-Expanded,W:Next Steps in the Work-up,A:Authorとなっています.だいたい頭文字がタブとなっていますから,慣れるとすぐにわかると思います.この順に現病歴や既往歴の問題点・確認事項,診察所見の注意点をまとめたあと,最も一般的な疾患一覧と,まれではあるけれど鑑別しなくてはならない疾患一覧があげられ,今後行うステップが示されています.とてもわかりやすく,またCLIEのジョグダイアルにも対応していますから,主訴をもとにして順に見ていくことで,鑑別診断の大きな手助けになります.

Skyscape版では,The 5-Minute Clinical Consultシリーズと同様,ソフト間の連携がはかられていて,該当する項目でソフト間を行ったり来たりできますので,とても便利です.

3.Antibiotic Guide,Sanford Guide 熱病

どちらも有名な感染症治療マニュアルです.

Antibiotic GuideはJohns Hopkins Division of Infectious Diseasesがまとめた感染症と抗生剤のマニュアルです.よくまとまっていますし,最新版へのupdateもサポートされています.HotSyncすると,しばしば自動updateされます.ソフトはWebから無料で提供されています.

Sanford Guide 熱病は,日本語冊子版を手に入れていらっしゃる先生も少なくないかもしれません.有料ですが,毎年英語版の最新版がPDA用に提供されています.筆者のWebには,このソフトの情報を求めておいでになるかたが少なくありません.

4.The Washington Manual,Harrisons,The Harriet Lane Handbook

出版されているマニュアルとしては有名なものだと思います.それぞれ研修医の頃から愛用されている先生も少なくないのではないでしょうか.これらのソフトも,PDA版が出版されています.しかもそのほとんどが,オンラインで購入・ダウンロードが可能です.いくつかの提供サイトがありますので,トライアル版をダウンロードして,一番使いやすいところから購入されたらいかがでしょうか.ダウンロードサイトの情報は,筆者のWeb「医療関係者のためのPalmリンク集」をご覧ください.

5.その他

このほかにあげられる教科書類としては,例えばACLSのテキスト関連は,さすがにアメリカでは多数出版されています.カード式になっているものもあり,とっさにさっと見るのに便利なようになっています.筆者も小児科領域のガイドブックをインストールしています.

あるいはICUやPICUで利用するマニュアルなども,少なくありません.なかには計算機能を併せ持っているものもあり,病棟でかなり活躍するソフトといえます.

アメリカの学会では,ガイドラインをPDAデータとして提供しているところも多々見受けられます.学会で決めたガイドラインをPDA用のソフトとして提供して,さらに普及を推し進める,という戦略なのでしょうか.NIHのNational Heart, Lung, and Blood Instituteからも,多数のガイドラインが提供されています.日本の学会でも,ガイドラインをこうした形で配ってくれないでしょうか.

その他インターネットの世界には,iSiloというドキュメントリーダーフォーマットで書かれた各種マニュアル類やHanDBase用のガイドラインなどが,それこそ多数存在します.いずれも英語版という問題はありますが,最新の情報を手に入れることができます.またJournalToGoを使えば,各チャンネルに分かれたさまざまな医療情報や雑誌記事の抄録を,Palmに取り込んで読むこともできます.

それでは,日本語版ではどうでしょうか.残念ながら,今のところ日本で出版されている各種教科書類で,PDA用ソフトとして提供されているものはありません.唯一「今日の診療」のネットワーク版DVDソフトには,PDAをネットワークでつないで,サーバーにインストールされたテキストを読むためのソフトが付属しているようです.無線LANなどが必要になりますが,環境が許せば試してみられても面白いかもしれません.

日本語で提供されていなければ,作ってしまえ,という考えもあります.iSiloなどのソフトを使って,Webで提供されている各種のテキストをPalmに取り込んでくる,というのが一つの方法でしょうか.Webの形式をそのままにダウンロードして,Palmにインストールできるソフトはいくつか存在しますし,実際に試されているかたも散見されます.探してみると意外とマニュアルやガイドラインがWebで提供されており,著作権に配慮は必要ですが,有効な手段だと思います.詳細は,「Palm掲示板」のiSilo関連のスレッドをご覧ください.

もう一つの方法としては,pdfファイルで提供されているテキスト類をPalm上で見る,というやり方が考えられます.最近のPalmでは,pdfファイルを見るためのソフトが,いくつか公開されていますので,これを利用します.

SONYのCLIEは欧米市場に続き,日本でも発売中止となり,2年近くの時間が過ぎました.PDAはスマートフォン隆盛となり,かつてのPalmブームはすっかり影を潜めています.それでも日本の医療現場ではまだまだPalmユーザーが健在です.これは筆者のWebへのアクセス数を見ても,大きな減少がみられないことから,間違いはありません.アメリカでは,やはりスマートフォンが中心ではありますが,医療の現場では相変わらずPalmが活用されています.

わが国でも日本語版教科書がPalmソフトとして登場したら,いまでもPalmを使っているユーザーには大きな福音ですが,やはり現状では難しいのでしょうか.

(参考URL)
1)Skyscape:http://www.skyscape.com/index/home.aspx
2)Fonts4OS5:http://www.lubak.net/
3)FontSubst:http://www.palmgear.com/index.cfm?fuseaction=software.showsoftware&prodid=53397
4)Johns Hopkins Division of Infectious Diseases:http://www.hopkins-abxguide.org/
5)Sanford Guide 熱病:http://www.sanfordguide.com/
6)医療関係者のためのPalmリンク集:http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/peds/link2/index.html
7)Palm掲示板:http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/peds/c-board/c-board.cgi