このページは,雑誌「治療」の連載記事(2004年6月~2006年3月)を公開したものです.
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医療計算ソフトについて

ある日の外来のこと.「先生,ウチの子はどのくらいまで大きくなれるんでしょうか」とお母さんに尋ねられました.「ちょっと待ってね」とPalmを取り出すと,子供が興味深そうに画面を覗き込んできます.ご両親の身長をうかがって,NobiNaviというソフトを立ち上げ数値を入力すると,子供の予測身長が瞬時に表示されました.

今月は,こうした各種医療計算ソフトについてまとめてみたいと思います.

1.MedCalc

MedCalcは,第6回の上野先生の記事でも紹介されていましたが,医療用計算ソフトでは,おそらくもっともユーザーの多いソフトではないでしょうか.バージョンアップのたびに,少しずつ式が増え,現在は約80の医療計算ができるフリーソフトです.

内容は非常に多岐にわたっています.A-aO2分圧格差やAnion gap,小児外傷スコア,熱傷時輸液量といった救急で便利な式から,心拍出量や血管抵抗などの循環器関連,麻酔のスコア,代謝系,電解質補正,小児科,呼吸器,腎機能まで.クレアチニンクリアランスは,Cockcroftの式やSchwartzの式まであります.その他EBM関連の計算式,単位変換式や点滴速度の計算式など,Palmに入れておくと診察室で,病棟で,何かと便利な優れもののソフトです.

計算結果を個別の患者さんのデータとして保存しておく機能もあり,日本語入力も可能です.これを上手に利用すると,患者さんの簡易検査データベースにも使えるかもしれません.

Ver.5以降は,テンキーが画面に表示されるようになり,これをタップするだけで数字の入力が可能ですから,Graffitiで入力する必要はなくなり,また一段便利になりました.

残念ながらこのソフトは英語版・フランス語のみが提供されていて,日本語版はありません(以前はスペイン語のバージョンもありましたが,最近はWebから消えています).しかし式を選択するトップメニューが英語表示ですと,目的とする計算式を選択するのに,タイトルを読んで理解するための翻訳作業が必要になって,若干使いにくく感じます.そこでソフトの作者に許可をいただいて,日本語ローカライザーによるソフトの日本語化を行いました.これにより,トップページから各計算式まで,原則としてすべて日本語表示となりました.

日本語ローカライザーというのは,英語版のソフトを日本語表示に変えるソフトをさします.英語版ソフトに表示される英語をすべて日本語に翻訳したファイルを用意して,英語と日本語を置き換えて表示することで,あたかも日本語版のソフトのように見せかけることができます.難点は,ソフトのバージョンとローカライザーのバージョンが一致していなくてはならないことで,ソフトのバージョンアップにあわせてローカライザーも更新したものを用意する必要があります.

またPalm OS5ではローカライザーがうまく作動しませんので,オーバーレイという仕組みを利用します.ローカライザー用ファイルも,オーバーレイ用に変換する必要があります(変換作業は,とても簡単ですが).最新バージョンのローカライザーは,オーバーレイでも公開しています.

MedCalcに似た医療計算ソフトは,他にMedMathや,Archimedesなどがあります.いずれも,愛用者は少なくありません.

2.Drug 15.c(Dose.prc)

愛知県の内科の先生が主宰される,Palm Programming Clubで公開されている,シリンジポンプを利用した微量点滴を行う際の,薬物のガンマ投与量を計算してくれるソフトです.

はじめてこのソフトを見たときは,その便利さに思いっきり興奮したのを覚えています.例えばカテコラミンの投与を行おうとしたとき,50Kgの患者さんに5ml/hrの輸液速度で5γを投与するには,20mlのシリンジに何ミリグラムのカテコラミンを混ぜておいたらよいのか,たちどころに計算ができます.もちろんすでに微量点滴がされている患者さんのガンマ投与量を知ることもできます.

ICUやNICUで,手放せないソフトになると思います.筆者はNICUの患者さんを管理しなくてはならないとき,まずこのソフトを立ち上げて計算しています.

このPalm Programming Clubには,他にも多数の優れた医療ソフトが公開されていて,その技術力とボランティア精神に,筆者はいつも敬服しています.他に公開されているソフトのうち,医療計算ソフトに該当するものには,以下のソフトがあります.

CCr:クレアチニンクリアランスの計算ソフト.身長・体重・血清と尿中クレアチニンから,クリアランスを計算します.尿中クレアチニンが不明なとき,体重・性別・年齢と血清クレアチニンからCockcroft & Gaultの計算式でクリアランスを推定することもできます(MedCalcにある式と同じです).クレアチニンクリアランスに特化していますから,これをよく計算する場合には,MedCalcよりも便利だと思います.

UCGCI:心エコー検査用計算ソフトです.LVDdとLVDsからEF,CO,SV,CI,%FSを計算することができます.血流速度から圧較差も求められます.

DMdiet:糖尿病関連の計算ソフト.身長とBody mass indexから理想体重を求め,1日当たりの最小限必要な総摂取エネルギー量を求めるソフトです.理想体重,性別,仕事の強度によって1日の総エネルギー量を算出します.

LDL:高脂血症関連の計算ソフト.コレステロールと中性脂肪からLDLを求めます.高脂血症の診断基準や治療指針も示してくれます.

Harris:Harris-Benedict equationを用いて,身長,体重,年齢から,1日に必要なBasal energy expenditure(Kcal/日)を求めるソフトです.日本人用の値も計算してくれます.

3.右腕くん Vol.4(点滴編)

点滴の滴下間隔計算と終了表示が可能なソフトです.忙しい看護師さんにはとても便利なソフトかもしれません.特に輸液ポンプを使わずに点滴をしなくてはならない場面で,とても重宝です.

点滴滴下間隔計算では,輸液セット,総輸液量,所要時間の入力で,点滴滴下間隔を計算できます.さらに,滴下間隔にあわせてビープ音が鳴ります.これにあわせて滴下するように調整するだけで,輸液量の調整ができます.

また患者さんの登録をしておくと,点滴終了時間になると,アラーム音で終了を通知してくれます.さらに終了した患者さんの氏名,部屋番号が画面表示されます.

やはりPalmに入れておくと,いざというときかなり心強いツールになると思います.

4.SoDaChi,NobiNavi

どちらのソフトも,岡山大学の小児神経科医が作られました.

このソフトを評価してください,と作者からSoDaChiが送られてきたとき,小児科医にとっては必携ソフトだと,とても興奮して感動したのを今でも覚えています.同僚たちに見せびらかし,やはり同様に驚いていたのも印象的でした.

SoDaChiは1990年,2000年度厚生(労働)省統計および文部(科学)省統計に基づき,小児の身長・体重・頭囲・胸囲の各計測値が,標準値に対して何SDに相当するかを計算するソフトです.最新版では身長のデータが,2005年度より新規採用された成長ホルモン治療開始基準に準拠した標準値に変更されています.計測値から,それを標準値とする年齢を逆引きすることができますから,ある身長が何歳相当なのかを検索し,その年齢の標準体重を調べる,といったことも簡単にできます.生年月日から年齢計算をして,さらに在胎週数による修正を加えることも可能です.最新バージョンでは,テンキーを表示させたり消したりが選択できます.

NobiNaviは,両親の身長から,子供の予測到達身長を計算するソフトです.こんなソフトが欲しい,とお願いをして作っていただきました.このソフトは,原稿執筆の時点ではアイコンがありません.読者の中にどなたか,アイコンを作って下さるかたはいらっしゃらないでしょうか.

作者は,バグへの修正,機能向上への取り組みがとても早く,SoDaChiなどは,最初に評価したときに,こんな機能が欲しい,といくつかリクエストしたところ,たちどころに実現・修正されました.その開発力の確かさも素晴らしいのですが,対応の早さには本当に頭が下がります.

どちらのソフトも,小児の外来診療では必携ソフトとなりました.とても便利です.

5.Yueki for Palm,Acid-Base for Palm

やはり日本人が作ったソフトです.Yuekiは脱水・水分平衡判定ソフトです.血中Na濃度,血糖値を基本にして,浮腫の存在の有無やその他の自他覚症状を考慮して,体の水分平衡を推量します.Acid-Baseのほうは,酸塩基平衡判定ソフトで,実測した表面的な血液pH(異常・正常)の裏に潜む複雑な酸塩基平衡異常を分析するツールです.現在はどちらも一次販売停止になっているようですが,興味のあるかたは作者に問い合わせをなさってみてください.

6.CBDCA Calculator

河野先生が作られた,CBDCA(カルボプラチン)の投与量を,Calvert式,Chatelut式に従って計算するソフトです.筆者のWebに検索サイトからいらっしゃるかたの中には,このソフトを探していらっしゃるかたが少なくないようです.抗癌剤を使うかたには,とても便利なソフトだそうです.

筆者にはむしろ,同じ作者によるSpan Calculatorのほうが便利です.指定された2つの日時の間の日数を計算してくれます.初日を日齢0にするか1にするかも選択可能です.新生児の日齢計算や,病日計算には重宝します.

この作者には他にも,BSA Calculator(体表面積の計算ソフト)やRespiratory Predictor(肺葉切除時の予測術後残存肺機能を計算するソフト)などもあります.

7.Palmacokinetics,fAnesthesia

Palmacokineticsは国立循環器病センター麻酔科の内田先生が作られた,Palmを使用してpharmacokinetics(薬物動態)シミュレーションを行うソフトです.手術室で実際に使うことを想定して作られたそうです.

一方のfAnesthesiaは,「麻酔と救急のために(第5版)」のPalm版です.薬品集の検索のほかに,カテコラミンや血管拡張剤の持続投与計算ができます.

どちらのソフトも日本の麻酔科医が作者ですので,この領域で仕事をされるかたには便利なソフトだと思います.

8.その他

海外には,ICUやPICU,NICUなど救急の場面で便利な,各種医療計算ソフトが多々公開されています.

PalmGearをはじめとするいろいろなWebでは,カテゴリー別にソフトを分類していますので,ここでMedical Calculatorというカテゴリーを選択すると,これまでに紹介しきれなかったさまざまなソフトに出会うことができると思います.

便利だ,というソフトがありましたら,ぜひ筆者にご一報いただけたら幸いです.