本人の意思を尊重する意思決定支援

本人の意思を尊重する意思決定支援

書評

蘆野 吉和 先生
(日本ホスピス・在宅ケア研究会理事長 社会医療法人北斗 地域包括ケア推進センター長)

 本書はアドバンス・ケア・プラニングの解説(理論),事例集,座談会の三部構成になっていますが,事例を読み,41通りの「いのち」の物語が綴られていることに感動しました.それぞれの物語では,本人(患者)の思い,家族の思い,および医療者の思いを編み込む非常に繊細な作業が時に短時間で,時に長い時間をかけて行われています.そして,ここでは対応している医療者の温かさと真摯な態度を感じます.それは,おそらく,医療者が患者本人を「地域で生活している人間」として対応しているからだと思います.
 各事例における対応では,もう一つ重要な視点が汲み取れます.それは,グリーフケアを含めた家族ケアを非常に大切に(重視)していることです.行われたACP,あるいは意思決定支援の結果は家族の思いとして引き継がれ,家族の人生観,死生観に大きな影響を及ぼします.ここでは,医療者には,その影響を俯瞰し,グリーフケアの視点で想像力を働かせる資質を備える必要性が示唆されています.これが私たちが求めている日本の風土にあった理想的なACPの形かもしれません.
 そして,理論編にはACPに関する重要なメッセージが込められていると感じました.ここではACPを医療の課題としてではなく,地域社会の課題として取り組む必要性が強調されています.「ACPの中に基本的に医学的な価値よりも,その人の生活や人生も含めた価値を優先するという考え方がある」という文言があります.これは非常に重要なことです.ACPは本来,医療を受ける側の権利として生まれてきたもので,これはインフォームドコンセント(IC)という言葉と同じですが,日本ではICが医療用語になってしまった二の舞は避けたいと切に願っています.