不妊治療・体外受精のすすめ

未来の赤ちゃんに出会うために

不妊治療・体外受精のすすめ

書評

菅沼 信彦 先生(京都大学 名誉教授/名古屋学芸大学看護学部 教授)

 長年にわたり、そして現在もなお、不妊治療の第一線で活躍する著者が、これまでの豊富な臨床経験に裏打ちされた不妊症診療のすべての知識を注ぎ込み、2010年に本書「体外受精のすすめ」の初版を発刊した。タイトルにある体外受精のほかに、内容は不妊症全般から生殖補助医療の新たな情報も記載されていた。一般書でありながらも専門的かつ高度な内容は、不妊に悩む人々の切なる要望に応えたものとして広く受け入れられ、本書は多くの読者と好評を得た。
 2015年の改訂2版に続き、今回の改訂3版では最新の情報に基づき、生殖補助医療の臨床実績の修正に加えて、ランダムスタート法、反復着床障害への対応、がん生殖医療を鑑みた未受精卵/卵巣組織凍結保存、わが国における全胚凍結‐単一胚移植の増加、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)など、現状の新たな展開も紹介されている。現在の不妊症診療の現場では、これらの新技術が次々と臨床適用されており、読者への情報提供には常にアップデートされたものが必須となる。今回の改訂3版においても、その要望に十分に応えた内容となっている。また配偶子提供や代理懐胎、子宮移植などの第三者が関与する生殖医療の社会的・倫理的側面にまで言及している。
 昨今、不妊症関連の出版物は数多い。中には不妊患者の受診のためのハウツウ本であったり、そのための特定のクリニック紹介が主となるものが見受けられるが、本書はそれらとは一線を画し、純粋な医学的立場から不妊治療の実際を明示している。本書には文章の記述を具体的に理解し、考察をより深めるための図表がバリエーションに富んで配置されているが、その多くが、学術的根拠を持つ文献より正確に引用されている。この真摯な姿勢は、著者の科学者としての高い理念と長い経験により導き出されたものであろう。
 また、各専門分野の複数の筆者による共著本とは異なり、一人の著者が書き上げた本書は統一性があり、たいへん読みやすいものとなっている。そして、著者の広範な知識と不妊治療にかける情熱を帯びた文章によって、読み進めるうちに文中に引き込まれ、同時に理解も深まっていく。本書の随所には、前後の文脈に照らして適切に配置された「参考」という追加の詳しい情報や解説と、著者からの具体的な「コメント」があり、より実践的な内容となっている。後半にまとめられた「不妊症・体外受精に関するQ&A」は、著者の考えを垣間見ることができて非常に興味深く、また、不妊状況の各々の具体的ポイントを捉えることを容易にしており、読者には親切な構成となっている。
 このように本書は、記載内容が高度であるにもかかわらず読破に困難さは感じられず、一般書として「不妊治療・体外受精」について正確に必要な情報を十分に理解することができる。よって不妊患者のみならず、生殖医療を志す医師、胚培養士、看護師などの医療関係者にも、不妊症診療の入門書として是非一読いただきたい名著である。