終末期の肺炎

終末期の肺炎

書評

終末期の肺炎というキメラ状健康問題に取り組む

藤沼 康樹 先生(医療福祉生協連家庭医療学開発センター)

 誤嚥性肺炎による入退院を繰り返したり,あるいは入院中に誤嚥性肺炎が再発し入院期間が長引いたりといった高齢患者は,地域の中小規模病院が担当していることが多いはずである.また,入院に至らないまでも,微少誤嚥による発熱を繰り返す在宅患者に対応することは在宅医療における重要なタスクの1つである.
 さて,実は,この誤嚥性肺炎という「疾患名」は,ある種のトラップ/罠である.なぜなら誤嚥性肺炎という生物医学的診断名をつければ治療が直線的に導き出される「はず」であるということが,通常の医学の発想であるからだ.しかし,現実に誤嚥性肺炎の高齢者に関するケアは直線的ではなく,多様な構成要素が放射的・拡散的かつ領域横断的にひろがっていて,構造的にキメラ状で複雑/complexな問題であることは,実際に診療に当たっている医療者にはデフォルトの認識であろう.誤嚥性肺炎は病態生理学的に定義される呼吸器疾患ではないのである.この書籍のタイトルを,疾患カテゴリーとしての誤嚥性肺炎ではなく,「終末期の肺炎」としていることは,そうした認識に基づいていると思われる.いいかえれば,誤嚥性肺炎とは多疾患併存/multimorbidityのパターンの1つであるという認識が編者にはあるのだと思われる.
 目次立てもこうした構造的特徴を踏まえて,その構成要素をできるだけかみくだいて理解しやすくしようという工夫がみて取れる.「なぜ終末期の肺炎の治療が複雑なのか?」,「抗菌薬の適切な使用」,「嚥下機能評価と口腔ケアの重要性」,「リハビリテーション栄養」,「専門職連携実践」,「なにをもって終末期とするか? といった倫理的課題群」,「胃ろうと中心静脈栄養」,「在宅ケアの留意点」などについて丁寧に項目が立てられている.
 そして,この本に通底している視角や考え方は,あきらかに家庭医療学/family medicineであることが,この本をさらにユニークなものとしている.家庭医療学はプライマリ・ケアの学問的基盤であるが,その特徴の1つは疾患単位のアプローチではなく,問題の多面性・多層性を生物医学にとどまらず構造的にとらえるアプローチである.それゆえに,家庭医療学は終末期の肺炎の患者をどう捉えどうケアするのかという問題に対してきわめて有効に機能するということがこの書籍には呈示されているのだ.
 高齢者の肺炎に地域で取り組むすべての医療者に一読を勧めたい.